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ハムサ国にて

青い湖面と白樺並木

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「あの、”ボハイラ”を見てみたいのですが。可能でしょうか……?」
ヤスミン王子が遠慮がちに言った。


昔の本で読んで勉強した時に知って。どんなものか、気になっていたので。
できるなら、実際に見てみたくなったようだ。

「大丈夫だと思うよ。じゃ、作ってみようかな。……あの辺りでいい?」
ピラミッドもどきから西南の方向にある広い空間を指差した。

「はい!」
嬉しそうだ。
でも、喜ぶのはまだ早いよ。


泉レベルならいくつか作ったけど。
これほど大規模なのは初めてだ。

まあ海を作る前に、肩慣らし、ということで。


†††


えーと、あそこからあそこまでの範囲で水を出しながら土を固めて。
水で満たす。

水草と魚は必要だから、発生させとこう。
淡水魚、淡水魚、と。


「おお……、」
「わあ、」

ハムサの国民たちの感嘆の声が、さざ波のように拡がっていく。


雲一つない砂漠に広がる、青い湖水。
なかなか壮観な景色だ。

湖の周囲には北欧をイメージして、白樺とか生やしてみた。
寒い場所には針葉樹林だよな。

タンポポや芝生も枯れてなかったし。俺の生やした植物は丈夫っぽいからこの気候でも大丈夫だろう。
しばらくしたら寒くなるだろうから、それまでがんばれ……。


「ああ……、これが……”湖”なのですね……」
ヤスミン王子は、薄紫色の目を潤ませて湖を見ている。

「水深5メートルくらいだから、そんなに深くはないけどね」

湖と沼で何か、深さとか大きさの定義があったような気がするけど。
細かいことは気にしない。

「湖とは……何とも大量の水を湛えているものなのだな……」
さすがのアーディルも、驚いているみたいだ。

バハルは、これよりも広いのだったな?」
「うん。もっと広くてしょっぱいよ」

「塩辛い……? 水が?」

想像もつかないみたいだ。
まあそれは、実際に見てのお楽しみってことで。


さて。次はオアシスだ。

ピラミッドもどきの周囲を取り囲むように、木を生やしていく。
湖があるから、泉は小さめでいいかな?


†††


「っと、……こんなもんでいいかな?」
振り向くと。

ヤスミン王子は、俺の前で跪いて、手を合わせていた。

「ありがとうございます、マラーク様!」
目の辺りが赤くなってる。泣くほど感動したの?

「いや、そんな。喜んでくれたら嬉しいよ」
「このご恩は、一生忘れません!」

そんなに感謝されると、逆に申し訳なく思ってしまう。
困ったなあ。


『愛らしきマラークよ! 捕らえたぞ!』

ざばあ、と。
豪快に砂煙を上げながらツチノコが飛び出して。
目の前に、砂クジラが投げ込まれた。

ヤスミン王子は跪いたまま、砂クジラを凝視して固まっている。
見物していた人たちも。

砂クジラ? あれが? とざわざわしてる。

そりゃそうか。
名前は知ってても、初めて見るものだろうしな。


『今宵の宴で きょうすればよい』
「ツチノコえらい!」

今回も毒じゃなく、締めてくれたらしい。良い子良い子してやろう。

俺がツチノコを撫でている間に。
アーディルが、これは砂クジラで、とても美味な”魚”である、と説明していた。
思わぬご馳走に、みんな喜んでいるようだ。


†††


「では、今回は私がさばくとしようか」
アーディルが腰の曲刀を、すらりと抜いた。

おお。
かっこいい……。

鉄の槍でも刺さらないらしいけど。
捌けるのかな?


アーディルは精神集中しているように、目を閉じて。

次の瞬間。
舞うように、刀を一閃させた。

あれ? 切れてない、と思ったけど。

一瞬遅れて、かぱっと砂クジラの腹が裂けた。
アーディルは、返り血も浴びてない。


うわあ。
剣豪みたい。

アーディルって。もしかして、めちゃくちゃ強いの!? 刀にも血がついてないよ!?

っていうか、本当にかっこいいな!
何度惚れ直させる気だよ。


砂クジラはかなり大きいし、可食部分も多いので。
ハムサ国の国民たちにも分けてあげられた。

みんな、久しぶりのたんぱく質に感激していた。

湖には魚もいるだろうし、木の実のなる木も生やしたし。
これからは食べるのに困らなくなるな。良かった。


美味しいごはんでお腹もいっぱいになったところで。
次は、お風呂だ!


戻ったら、すでに銭湯っぽい施設が出来上がっていた。
さすがだ。

ピラミッドもどきの中にあった井戸も、水量を増やしておく。

それとは別に、タンクみたいなものを作って。
そこから公衆浴場に水を送るようにする。


やはり最初のテスト入浴は俺とアーディルだったので。
遠慮なく堪能させてもらった。

全面タイル貼りだと、寒くなった時に足がヒヤッとして心臓に良くない。
床にはシュロの葉を加工した畳みたいなものを敷いておいた。

滑り止めにもなるだろう。

ここのお湯は、薄い乳青色のお湯だった。
やっぱり、その土地によって水質が変わるのかも。


「良いお湯でした」
全身ほかほかになって、お風呂から上がった。

ナエフ王は、ヤスミン王子に背負われての入浴だ。
温泉効果で、少しでも腰の具合が良くなればいいんだけど。


†††


空き部屋もあるので、今夜はこのピラミッドもどきの一室に泊まることになった。

やっぱり天蓋ベッドなんだ。
でもって。

ベッドには、例の花びらが散らされていた。砂漠の花。


……うん、歓迎してくれてるんだよな。
新婚だし、気を遣って貴重な花を出してくれたんだ。それはわかってる。

でも、さあこれから存分にヤってください! と言わんばかりの準備をされると。
俺的には、恥ずかしいんだってば!
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