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アルバ国にて
砂クジラに舌鼓
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『捕らえたぞ!』
砂に潜って。
5分もしない内にツチノコが砂から飛び出した。
「え、もう? 早っ!?」
ツチノコは、巨大な黒い物体を、ぽい、と放り投げた。
ズズーン、という音と。砂煙と共に巨体が落下する。
砂煙が晴れて、現れたのは。
丸っこいライン。鱗のない黒い背中に白い腹。
一瞬だけなら、クジラに見えなくもないかな……って感じ。
でも。
「これが砂クジラ? クジラっていうよりナマズみたいだ……」
ひげもあるし。
どう見ても、ナマズだよこれ。
捕鯨じゃなくて捕鯰だ。
†††
「サマク・スィッラウル? かつて”川”や”沼”に棲んでいたという?」
アーディルが困惑した様子で首を傾げている。
うーん、俺からしてみれば、恐竜とか、絶滅した生き物みたいなものだろうか?
この世界ではナマズやクジラって、それほど昔の生き物なんだ。
だから、勘違いもあるだろう。
「うん。クジラっていうより、どう見てもナマズだね」
ナマズは口に入るもの何でも食べちゃう雑食だけど。
そういえば、クジラって、プランクトンを海水ごと髭で濾して食べる生き物だしな。肉食じゃない。
おそらく、こいつが餌を捕食するために顔を出した時、黒い頭の部分だけを見て、図鑑か何かで見たクジラに似ていると思ったんだろう。
確かにカブトガニくらいなら一口で食べちゃいそうなくらい大きな口だ。
でも、幸いというか。大トカゲまでは一口では無理そうなので、ちょっとだけ安心してみたり。
広場に放り出された砂クジラは、やわらかそうな腹を見せている。
もう死んでいるようだ。さすが猛毒……。
「噛み殺したのか?」
アーディルがツチノコに訊くと。
『否、マラークに捧げるため、毒を使わず締め殺した。皆も安心して食べるがよい』
得意そうに言った。
いや、美味いから是非食べろ、と勧められても……。
こいつ、主食がカブトガニなんだよな? できれば遠慮したい。
「そうなんだ……ありがと」
でも、褒めて褒めて、って顔をしているので褒めた。
取ってこいした覚えは無いんだけど。
「おお、これが砂クジラか……! 初めて見たぞ」
「銛も刺さらぬという砂クジラを。毒も使わず、いとも容易く仕留めるとは……。さすが、天敵と呼ばれるだけある」
ヤシムとアーディルも、初めて見る砂クジラを前に大興奮だ。
怪獣を見た少年のような反応だなあ。
†††
中断してた視察を再開したけど。小さい国なので、すぐに一周できた。
アルバ国とその周辺の視察が終わった。
植物や水量を増やしたことを、みんな喜んでくれた。
この国の国民は、ほぼ兵士のみだという。
小さいうちは近くの水場で屈強な男に育てられて、15歳になったら兵士としてこの国の国民になる。
弱い男は母親となり、子供を産むために水場で留まるんだとか。
厳しい……。
でも、”アルバ国”は水場に居る母親と子供たちを守る、見張り塔のような役割を果たしているようだ。
それで王様たちはテントみたいな簡素な家に住んでるんだな。
もし敵に攻め込まれたら、兵たちが命をかけて盾になり、子供たちを逃がす。
子供らさえ無事なら、アルバ国は滅びない、という考えらしい。
子供たちがいる水場に行って、そこも植物や水量を増やして。
子供の好きそうな果物も生やしてきた。
子供たちが大喜びで美味しそうに果物を食べているのを見て、俺も嬉しくなる。
この能力をもらって、本当に良かったと思う。
さっきの場所にに戻ると。
兵士たちが全員出て来て、砂クジラを取り囲んで騒いでいた。
「スルタン、刃が通りません」
困惑顔だ。
力自慢が集まって砂クジラを解体しようとしたけど、どうにも切れなかったようだ。
お腹は白くてやわらかそうなのに、硬いんだ? 皮、ぶ厚そうだもんな。
「俺がやろうか? 危ないからちょっとどいてて、」
ヤシム王とのやり取りを見てなかった兵たちは、その細腕で何ができる、みたいな顔をしていたけど。
「マラーク様の仰せの通りにせよ」
ヤシム王の命で、兵たちがさっと避けたので。
「えい」
ウオーターカッターで頭を落として、背開き状態にした。
「内臓は見たくないから、後よろしく」
さすがに皮の内側はやわらかそうだし、刃も通るだろう。
もしお腹の中いっぱいにカブトガニの死骸が詰まってたら、卒倒すると思う。
「おお……」
「愛らしく力強きマラークに栄光あれ!」
何やら讃えられてしまった。
†††
「くっ、悔しいけど、めっちゃ美味い……!」
砂クジラ、本当に美味しかった。
白身で、あっさりした味のように見えるのに。噛めば噛むほどじゅわっと旨味の多い肉汁が溢れて来る。
塩を振って焼いただけなのに。
まさか、こんなに美味しいとは……!
砂育ちだからかな? 川魚みたいな苔臭さも無くて、食欲をそそる匂いがする。
気に入ったらいつでも獲って来るって言ってたな。ツチノコ。
後でまたいっぱい撫でてあげよう。
可食部分が多いので、アルバ国の国民全員と、子供たちに配っても充分なくらいだった。
生やした植物も好評で。宴会はかなり盛り上がった。
「マラーク様の多大なるご慈悲によりご相伴に預かり、幸いです……!」
ヤシム王はあまりの美味さに感涙していた。
アーディルは黙々と食べている。
うん、これだけ美味しいと無口になるよな。
「美味しい?」
黙々と砂クジラを食べているアーディルに訊いてみる。
「うむ、」
こくりと頷いて、笑みを浮かべた。
……何この人、かわいいんだけど! どうしよう、俺の夫が尊い。
いつもだけど!
砂に潜って。
5分もしない内にツチノコが砂から飛び出した。
「え、もう? 早っ!?」
ツチノコは、巨大な黒い物体を、ぽい、と放り投げた。
ズズーン、という音と。砂煙と共に巨体が落下する。
砂煙が晴れて、現れたのは。
丸っこいライン。鱗のない黒い背中に白い腹。
一瞬だけなら、クジラに見えなくもないかな……って感じ。
でも。
「これが砂クジラ? クジラっていうよりナマズみたいだ……」
ひげもあるし。
どう見ても、ナマズだよこれ。
捕鯨じゃなくて捕鯰だ。
†††
「サマク・スィッラウル? かつて”川”や”沼”に棲んでいたという?」
アーディルが困惑した様子で首を傾げている。
うーん、俺からしてみれば、恐竜とか、絶滅した生き物みたいなものだろうか?
この世界ではナマズやクジラって、それほど昔の生き物なんだ。
だから、勘違いもあるだろう。
「うん。クジラっていうより、どう見てもナマズだね」
ナマズは口に入るもの何でも食べちゃう雑食だけど。
そういえば、クジラって、プランクトンを海水ごと髭で濾して食べる生き物だしな。肉食じゃない。
おそらく、こいつが餌を捕食するために顔を出した時、黒い頭の部分だけを見て、図鑑か何かで見たクジラに似ていると思ったんだろう。
確かにカブトガニくらいなら一口で食べちゃいそうなくらい大きな口だ。
でも、幸いというか。大トカゲまでは一口では無理そうなので、ちょっとだけ安心してみたり。
広場に放り出された砂クジラは、やわらかそうな腹を見せている。
もう死んでいるようだ。さすが猛毒……。
「噛み殺したのか?」
アーディルがツチノコに訊くと。
『否、マラークに捧げるため、毒を使わず締め殺した。皆も安心して食べるがよい』
得意そうに言った。
いや、美味いから是非食べろ、と勧められても……。
こいつ、主食がカブトガニなんだよな? できれば遠慮したい。
「そうなんだ……ありがと」
でも、褒めて褒めて、って顔をしているので褒めた。
取ってこいした覚えは無いんだけど。
「おお、これが砂クジラか……! 初めて見たぞ」
「銛も刺さらぬという砂クジラを。毒も使わず、いとも容易く仕留めるとは……。さすが、天敵と呼ばれるだけある」
ヤシムとアーディルも、初めて見る砂クジラを前に大興奮だ。
怪獣を見た少年のような反応だなあ。
†††
中断してた視察を再開したけど。小さい国なので、すぐに一周できた。
アルバ国とその周辺の視察が終わった。
植物や水量を増やしたことを、みんな喜んでくれた。
この国の国民は、ほぼ兵士のみだという。
小さいうちは近くの水場で屈強な男に育てられて、15歳になったら兵士としてこの国の国民になる。
弱い男は母親となり、子供を産むために水場で留まるんだとか。
厳しい……。
でも、”アルバ国”は水場に居る母親と子供たちを守る、見張り塔のような役割を果たしているようだ。
それで王様たちはテントみたいな簡素な家に住んでるんだな。
もし敵に攻め込まれたら、兵たちが命をかけて盾になり、子供たちを逃がす。
子供らさえ無事なら、アルバ国は滅びない、という考えらしい。
子供たちがいる水場に行って、そこも植物や水量を増やして。
子供の好きそうな果物も生やしてきた。
子供たちが大喜びで美味しそうに果物を食べているのを見て、俺も嬉しくなる。
この能力をもらって、本当に良かったと思う。
さっきの場所にに戻ると。
兵士たちが全員出て来て、砂クジラを取り囲んで騒いでいた。
「スルタン、刃が通りません」
困惑顔だ。
力自慢が集まって砂クジラを解体しようとしたけど、どうにも切れなかったようだ。
お腹は白くてやわらかそうなのに、硬いんだ? 皮、ぶ厚そうだもんな。
「俺がやろうか? 危ないからちょっとどいてて、」
ヤシム王とのやり取りを見てなかった兵たちは、その細腕で何ができる、みたいな顔をしていたけど。
「マラーク様の仰せの通りにせよ」
ヤシム王の命で、兵たちがさっと避けたので。
「えい」
ウオーターカッターで頭を落として、背開き状態にした。
「内臓は見たくないから、後よろしく」
さすがに皮の内側はやわらかそうだし、刃も通るだろう。
もしお腹の中いっぱいにカブトガニの死骸が詰まってたら、卒倒すると思う。
「おお……」
「愛らしく力強きマラークに栄光あれ!」
何やら讃えられてしまった。
†††
「くっ、悔しいけど、めっちゃ美味い……!」
砂クジラ、本当に美味しかった。
白身で、あっさりした味のように見えるのに。噛めば噛むほどじゅわっと旨味の多い肉汁が溢れて来る。
塩を振って焼いただけなのに。
まさか、こんなに美味しいとは……!
砂育ちだからかな? 川魚みたいな苔臭さも無くて、食欲をそそる匂いがする。
気に入ったらいつでも獲って来るって言ってたな。ツチノコ。
後でまたいっぱい撫でてあげよう。
可食部分が多いので、アルバ国の国民全員と、子供たちに配っても充分なくらいだった。
生やした植物も好評で。宴会はかなり盛り上がった。
「マラーク様の多大なるご慈悲によりご相伴に預かり、幸いです……!」
ヤシム王はあまりの美味さに感涙していた。
アーディルは黙々と食べている。
うん、これだけ美味しいと無口になるよな。
「美味しい?」
黙々と砂クジラを食べているアーディルに訊いてみる。
「うむ、」
こくりと頷いて、笑みを浮かべた。
……何この人、かわいいんだけど! どうしよう、俺の夫が尊い。
いつもだけど!
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