神様の手違いで幸運値ゼロだったお詫びに異世界で救世主に転生するはずだった俺が砂漠の王様に攫われて寵妃にされてしまいました。

篠崎笙

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砂漠の王との結婚

砂漠の王様との結婚式

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これから、こんな美貌の王様と並んで結婚式を挙げるのかと思うと。
今更ながら、心臓がバクバクしてきた。


「毎日、心からそなたを可愛いと思う気持ちをそのまま口にしているというのに。ミズキは私の言葉を信じておらぬのか? 王は偽りを申さぬ」

所長が好きで観てた西部劇でいう”インディアン嘘つかない”くらい信用できないんだが。
そもそもネイティブアメリカンは自分のことインディアンなんて言わないだろ、と突っ込みたい。

「だから。何で俺なんかをそんな風に思えるのか、わかんないんだってば」

俺なんて、アーディルがそんなに褒めてくれるほど綺麗じゃないし。
性格だって、素直じゃない。

こんな俺のどこに惚れたんだか、未だに理解できない。


「”俺なんか”、だと?」
アーディルは俺の言葉を復唱して。

両頬を、大きな手で挟まれ、上を向かされた。
怒ったような顔をして。

「私の最愛の伴侶をおとしめるのは、いくらそなたとて、許さんぞ?」


うう。
至近距離でも、完璧なほど綺麗な顔してやがる……!

だって。こんな次元の違う美形と一緒にいたら。
いくら自分の顔が平均以上だと自負していても、秒で自信喪失するっての!

っていうか。今更だけど。

何で俺、こんなことになってんの?
王様と結婚するために、異世界に生まれ変わったんじゃないのに。

ここに来てから一週間。
ほとんどベッドでアーディルに抱かれてるばかりだというのに。

砂漠の真ん中に小さなオアシスをひとつ作った後は、この国のオアシスを少々潤すくらいしかしてないし。
なのに、周囲からは神の使いだとか持ち上げられるし、王様と同じ生活レベルだから衣食住も最高に贅沢だし。

こんな甘い生活送ってていいの? 俺、罰が当たったりしないか?


†††


「スルタン、式場へ」
しびれを切らしたイムラーンが呼びに来たので。

アーディルはもうしばらく二人きりで居たかったものを、とか言いながら。
しぶしぶ俺の手を引いて、式場へ向かった。


広場にある祭壇の前に、二人で並んで。
アーディルは儀礼用の、大きな宝石のついた金の王笏おうしゃくを片手で掲げた。

かなり重そうなそれを、軽々と持っている。

力持ちだなあ。
俺のこともひょいひょい持ち上げるから、知ってたけど。

祭壇の周りには、軍の護衛が配置されていて。
王宮前の広場には、王様の結婚を祝うため、この国の全国民が集まっている、という話だ。

凄い人垣だ。
ざっと見、一万人くらいはいそう。

みんな、被ってる布が新品みたいに真っ白なのは、祝い事だから新調したとか?
快晴なもんだから、日差しを反射する白が目に眩しい……。


「この偉大なるワーヒドのマリクである我、アーディルと。尊き神の島より我が元へ舞い降りたマラーク、ミズキ。我らは今、これより生涯を共にする夫婦となる」

凛とした声で。
太陽に向かって、結婚を宣誓した。


俺とアーディル以外の全員、祭壇に向かってひざまずいている。

この世界では、太陽が唯一神で。万物は神によってもたらされているという。
王族は神の直系の子孫だと言われているため、アーディルは神を自分の祖先として敬う気持ちはあるけど、跪きはしないそうだ。

だから俺が神の使いだと聞いても、一人だけ跪いたりしなかったんだ。

確かに太陽神の化身だと言われても納得しそうな、眩しいほどの美形だ。
他の国の王様は見てないけど。みんな美形なのかな?

「我が民よ、顔を上げよ。そして歓び寿ことほぐがよい。この婚姻により、我が国の未来は幸福に彩られたものとなろう」

王笏の、ダイヤのような宝石が眩しいくらい輝いている。
神秘的な光景だ。

これは、王様が神様の子孫っていう話も信じてしまうだろう。

周囲から、スルタンを讃える声が上がった。
俺が水を操る天使マラークだというのもすっかり定着しているようで、めちゃくちゃ讃えらえた。

神の子孫であるアーディルと水の天使である俺が結婚することで、この国は安泰だ、と国民が大喜びしているらしい。
みんなが喜んでくれるのは嬉しいし。良かったと思う。

でも、思ってたのとは何か違うんだよな……。


†††


この後は、大トカゲが引く輿こしに乗って、国内を一周するそうだ。

どの世界でも祝賀パレードみたいな催しはあるんだなあ。
他人の結婚式とか、そんなに見たいもんかね?


祭壇から降りて。
レッドカーペットの敷かれた道を歩くと。周囲からお祝いの花が撒かれた。

花籠を持った子供が一生懸命花を撒いてる姿が可愛らしい。
思わず笑みがもれる。


……あれ?
真っ白な中に、灰色っぽい布の人が何人かいるな。

と。
突然、視界が紫色の煙に包まれた。

スモークか?

どういう演出だろう。
こんなにモクモク煙らせたら、全然前が見えなくなっちゃうじゃないか。

こういう場合、その場から動くのは危険だ。
追突事故の元だからな。


「ミズキ!?」
煙幕の向こうから、珍しくアーディルが動揺しているような声が聞こえて。

これは、式の余興や演出ではないのだと気付いた。


「わぷ、」
口を、布のような物で塞がれて。

手足を掴まれて。
背中を支えている手の感じから、数人に運ばれているようだ。


何これ。
もしかして俺、誰かに誘拐されてるの?

また!?
今度は何だよ!?


†††


ガタガタ揺れているような感覚で、気が付いた。

どうやら、何か乗り物に乗せられているようだ。
全身を布に包まれたままで、どこかへ運ばれているらしい。

前に乗せられた、大トカゲかな?


何か薬でも嗅がされたのか、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

これは間違いなく。
攫われている。誘拐だ。

犯人は、ワーヒド王国の人ではない。他の国の人だと思う。

真っ白の布の中に、微妙に灰色っぽい布の人達がいた。
恐らく、あれが誘拐犯だったんだ。

この砂漠ばかりの世界で水を操る力なんて、喉から手が出るほど欲しい国もあるだろう。
どこからか噂を聞きつけて、”水の天使”を攫いに来たのかもしれない。
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