神様の手違いで幸運値ゼロだったお詫びに異世界で救世主に転生するはずだった俺が砂漠の王様に攫われて寵妃にされてしまいました。

篠崎笙

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幸せな未来へ

ハカムの最期

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ツチノコは、輿を下ろすなり砂クジラを捕まえて来る、と砂に潜った。

全国から王様も来るし、皆にご馳走を振舞えばいいって。
気配り上手な蛇……。しかも10歳。

あとで目一杯ナデナデしてやろう。
ニーリーへのフォローも忘れちゃいけない。


比較的近場にあるサラーサ国のウサーマ王、アルバ国のヤシム王、ハムサ国のナエフ王とヤスミン王子は、すでに到着していた。

サブア、サマニア、ティスア国の王はサブア国で合流して一緒に来るらしい。
かなりの長距離だもんな。

「お久しぶりです、マラーク様!」
ヤスミン王子が嬉しそうに飛び跳ねている。

ナエフ王はもうすっかり腰が癒えたようだ。二人とも、元気で何より。


「ハカムの裁判があると聞いて急いで来たが。まだか?」
噂のハカムの顔を見たかったらしく、ヤシム王はわくわくしていた。

「おお。愛らしく小さきマラーク様。ご健勝のこととお慶び申し上げる」
俺に向かって深く礼をした。小さいは褒め言葉なの?

「ん? 凄みが増しているな。死地を潜り抜けたようだ。一皮むけたか?」
ヤシム王はアーディルを見て、首を傾げた。

……一度死にかけたんだけど。わかるのかな?


ウサーマ王は、ドームを増設したらしい。
羊の数も増やして、毛糸をいっぱい作るそうだ。銭湯風温泉も、相変わらず大人気だって。

ウサーマ王とナエフ王はここで出会って仲良くなったらしく、毛糸の取引をする約束もしたらしい。
この先、たくさん必要になりそうだしね。


「このように、平和的に他国の王達が懇談し得るとは。奇跡をみるようだ」
「ああ。我が愛しき妃がいなければ成しえなかったであろうな」

ヤシム王とアーディルが、宴会場を見渡して、感嘆している。


何かあったら、他国へ報せの鳥を放つことは決まっていたけど。
今までは、基本的に自分の国のことでいっぱいいっぱいで。他の国なんてどうでもいい、って感じだったとか。

そりゃそうか。
水が消えつつある世界で、ほとんどの国が困ってたんだもんな。


でも。これからは。
全ての国が手を取り合って。それぞれの国の産業を頑張って、補い合って。
仲良く暮らしていければいいと思う。

いや、そうなるように。
俺が、しっかりと見ていこう。

争いのない世界を。
みんな……という訳にはいかないかもしれないけど。


大勢の人が、笑顔で暮らしていける世界を作るんだ。


†††


地下施設から徴収した研究資料、ナドヤ王妃をはじめ、実際に実験台にされた被害者たちの証言を得て。
これでハカム及び地下施設で捕らえられたハカムの一族を裁く材料は全て出揃ったことになる。


裁判当日。
ちょうど、サブア国のワシム王、サマニア国のアドル王、ティスア国のターヒル王も到着したので、みんな裁判に立ち会うことになった。

これまで、多くの国が、ハカムの一族から少なからず迷惑を掛けられていた。
だから、その最期を見届けたいという。


自称・マラーク親衛隊のアブドラは、かつて仕えていた王の裁判をどう感じているか訊いてみたら。
自分はかつてハカムに滅ぼされた国の将で。脅されて配下についたので、こうして裁かれるのは喜ばしいとか。
それでハカムが捕まった途端、手のひらを返したように俺についたわけか。
他の兵たちも。

嫌々でもハカムに仕えていた自分たちだって、決して無罪ではないが。これからの一生、マラークに仕え奉公することでその罪を贖いたいのだと言った。

アーディルにも相談して。
アブドラとその兵士たちは、それ以上の罰を受けることを免除された。


†††


裁判は、ワーヒド国の広場で行われた。
大勢の聴衆が固唾を呑んで、世紀の裁判を見守っている。


牢屋から出されたハカムは、傍聴席に9ヶ国の王が揃っていることに驚いているようだった。
自分を嗤いに来たか、と呟いてたけど。

皆、そんなに暇じゃないよ。
この世界の未来について、会議に来たんだ。

むしろこの裁判は、会議のついでに傍聴してるだけだ。


いよいよ、ハカムとハカムの一族の裁判が始まった。

裁判官はアーディルだ。壇上で書類を手にしている。
この世界は、王様が奉行所みたいなこともするんだな。大忙しだ。


ナドヤ王妃たち被害者、アブドラも証人としてハカムのした行いを証言して。

アーディルが、今まで調べ上げたハカムの罪状を読み上げていく。
そのあまりに惨い内容に、立ち眩みをおこした聴衆もいたほどだった。


「以上。ハカム及びその一族。その所業のあまりの惨さ、もはや人に非ず。故に、其方らには死罪を申し渡す。異議ある者は忌憚なく意見するがよい」
アーディルの凛々しい声が、広場に響き渡った。


もちろん、大罪人ハカムを擁護する者なんて、誰一人いなかった。

しん、と静まり返った広場に。
ハカムの笑い声。


「千年続いた我が一族も、もはやこれまで。……だが、ただでは死なぬ」

ハカムが横に並んでいた一族に手をかざすと。
彼らは、ばたばたと倒れた。

吸血鬼に血を吸い取られたミイラみたいになって。


ハカムは魔力の源である髪を切られ、魔力を失ったはずなのに。
全部刈り取るべきだったか。


「9王が揃ったのも好機。……滅びるがいい!」
ハカムが手をこちらに向けて。

膨大なエネルギーの塊が飛んできたのがわかった。
8人の王と。

その真ん中にいる、俺に向かって。


†††


「……ミズキ!?」
アーディルは、裁判官の席から飛び出した。

さすがのアーディルでも、間に合わないだろう。でも。


「えい」
蚊を叩くように、ぺしっとそれを叩き潰した。


ハカムは信じられないようなものを目にした、って表情をして。
見る間にシワシワの老人みたいになって。

ぱたりと倒れた。


一族の生命と、死力を振り絞っての攻撃だったようだけど。
相手が悪かったな。
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