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再び、イスナーン国へ
イスナーン国再訪
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魅了の魔法、か。
ハカムはあの美貌と、魅了の魔法で誘惑して。相手を言いなりにするのが得意だったようだ。
あの、甘ったるいような香水もそうだったのかな?
取られた手を、つい払っちゃった時。
ハカムは、傷ついたような顔をしたんじゃなくて。
あれは、魅了の魔法を使ってるのに効果が無いことに驚いていたのか。
誘惑しても、俺には効果が無かったから。
それで、聖性を失っていない……まだ、アーディルに抱かれてないと思ったんだろうな。
単に、俺にはハカムの魔法が効かなかっただけだったんだろうけど。
だって神様だもんな。
†††
その後の航海の旅は問題なく過ぎて。
帆船は無事、イスナーン国の近くの沿岸に到着した。
着く前に、船着き場っぽいのを作っておいて、そこに寄せる。
他の船のことを想定して。
波が穏やかな、座礁しそうな岩場の少ない、安全そうなところを港にすることにした。
「地面だー!」
タラップから真っ先に駆け降りていったカマルが、砂漠でぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいる。
床の下が海、っていうのは慣れないと心細いだろうし、落ち着かないよな。
全く揺れなかった訳でもないし。
みんな、初めての船旅を、よく文句も言わず我慢してたなあ。
ツチノコが様子を報告してくれていたおかげで、ニーリーたち大トカゲも特に問題なく過ごしていたようだ。
それでもやっぱり砂漠の砂が恋しかったらしく、着いてすぐに砂を食べてる。
やっぱり、慣れたものが一番だよな。
「こんなに早く到着するとは。”船”と言うのは凄いですね」
戻るのに一週間以上かかるだろうと予想していたラシッドが感心していたけど。
「……いや、ちょっとズルして追い風吹かせたから……」
普通の帆船だったら、大トカゲたちの足の方がずっと速いと思う。
でも、トカゲには運べないような大きな荷物を運んだり、大陸間を移動するのは便利だ。
一長一短ってやつかな?
エンジンを使えば、また違うんだろうけど。
「ああ……、そうでしたか……」
ラシッドは遠い目をしている。
「あ、そうだ。これが基本的な”船着き場”だから。覚えておいて欲しいんだ」
ラシッドとバッシャール、イルハム王に示した。
地形的に大きな船を寄せるのが難しい場合、アンカーを下ろしておいて小舟で向かう方法もあることとか。
帆船はアンカーを下ろして、ロープで船着き場にあるボラードっていう杭でくくってある。
もやい結びを実演してみせたり。
†††
「あの白いのは、何だ?」
カマルが海の向こうの空を指差した。
「あ、雲だ」
雲一つなかった、砂漠の世界の空に。
とうとう、雲が発生したんだ。
まだ、うっすらと、だけど。
亀裂は塞がったから。
もう、水蒸気が吸い込まれることはなくなった。だから。
「あれが、雲……?」
カマルが雲を見上げている。
「そう。あれは、海から昇った水蒸気が集まってできてるんだ。水蒸気がもっと集まって、雲が空を覆うほど大きくなったり灰色っぽくなったら、雨が降るよ」
「雨が。……本当に……?」
サイード王たちも、雲を見上げている。
「うん。もうすぐ、本当にこの世界に雨が降る」
きっぱりと、言い切る。
雲ができたなら。もうすぐ、自然に雨も降る。絶対に。
俺が力を使えば、今すぐ雨どころか雪でも何でも降らせることはできるだろうけど。
そうじゃなくて。自然の力で降らせたい。
「ああ、我らが尊きマラーク様。この世の全ての人類の悲願を叶えていただき、感謝します」
振り向けば、ラシッドだけじゃなくて。
バッシャールとサイード王、アシャラ国の人たち。イルハム王にカマル。ワーヒド国の兵士たちも。
全員が、俺に向かって跪いていた。
俺じゃないよ、神様が俺をここに送ってくれたからだよ。って言おうとしたけど。
傍らにいたアーディルが、肩を抱いて。
「皆、そなたに。ミズキに対して、感謝をしているのだ」
他の誰でもなく。
みんながこうして心から感謝しているのは、見たことのない神様じゃなくて。
目の前にいる、俺に対して、だって。
そう言ってくれたから。
素直に、感謝を受け取る気になれた。
†††
イスナーン国からも、海から大きな船が来たのは見えていたようで。
船だとは知らず、”謎の物体”を偵察に来た、自称・マラーク親衛隊のアブドラが俺たちに気づいて。
大喜びで迎えてくれた。
さっそく、海で獲ったばかりだという海の幸でご馳走を作らせると言って。
大急ぎで戻って行った。
それは楽しみだ。
「スルタン、おかえりなさいませ」
イスナーン国に出向して復興の指導をしていたというワーヒド国の兵士が礼をした。
イスナーン国は、見違えるように、すっかり復興していた。
道には屋台も出ていて。
国民は、元気に外を歩いている。
前に来た時とは違って、活気がある。
まるで別の国みたいだ。
アシャラ国の国民たちと、同行してきたワーヒド国の兵士たちは、王宮で一休みしてもらうことにして。
「で、例のものは?」
「こちらです」
案内されて。
王様たちと一緒に、王宮の地下へ向かった。
本当に、王宮の地下にハカムの一族の研究施設があったんだ……。
こんなもの、早いとこ、どうにかしなくちゃな。
ハカムはあの美貌と、魅了の魔法で誘惑して。相手を言いなりにするのが得意だったようだ。
あの、甘ったるいような香水もそうだったのかな?
取られた手を、つい払っちゃった時。
ハカムは、傷ついたような顔をしたんじゃなくて。
あれは、魅了の魔法を使ってるのに効果が無いことに驚いていたのか。
誘惑しても、俺には効果が無かったから。
それで、聖性を失っていない……まだ、アーディルに抱かれてないと思ったんだろうな。
単に、俺にはハカムの魔法が効かなかっただけだったんだろうけど。
だって神様だもんな。
†††
その後の航海の旅は問題なく過ぎて。
帆船は無事、イスナーン国の近くの沿岸に到着した。
着く前に、船着き場っぽいのを作っておいて、そこに寄せる。
他の船のことを想定して。
波が穏やかな、座礁しそうな岩場の少ない、安全そうなところを港にすることにした。
「地面だー!」
タラップから真っ先に駆け降りていったカマルが、砂漠でぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃいでいる。
床の下が海、っていうのは慣れないと心細いだろうし、落ち着かないよな。
全く揺れなかった訳でもないし。
みんな、初めての船旅を、よく文句も言わず我慢してたなあ。
ツチノコが様子を報告してくれていたおかげで、ニーリーたち大トカゲも特に問題なく過ごしていたようだ。
それでもやっぱり砂漠の砂が恋しかったらしく、着いてすぐに砂を食べてる。
やっぱり、慣れたものが一番だよな。
「こんなに早く到着するとは。”船”と言うのは凄いですね」
戻るのに一週間以上かかるだろうと予想していたラシッドが感心していたけど。
「……いや、ちょっとズルして追い風吹かせたから……」
普通の帆船だったら、大トカゲたちの足の方がずっと速いと思う。
でも、トカゲには運べないような大きな荷物を運んだり、大陸間を移動するのは便利だ。
一長一短ってやつかな?
エンジンを使えば、また違うんだろうけど。
「ああ……、そうでしたか……」
ラシッドは遠い目をしている。
「あ、そうだ。これが基本的な”船着き場”だから。覚えておいて欲しいんだ」
ラシッドとバッシャール、イルハム王に示した。
地形的に大きな船を寄せるのが難しい場合、アンカーを下ろしておいて小舟で向かう方法もあることとか。
帆船はアンカーを下ろして、ロープで船着き場にあるボラードっていう杭でくくってある。
もやい結びを実演してみせたり。
†††
「あの白いのは、何だ?」
カマルが海の向こうの空を指差した。
「あ、雲だ」
雲一つなかった、砂漠の世界の空に。
とうとう、雲が発生したんだ。
まだ、うっすらと、だけど。
亀裂は塞がったから。
もう、水蒸気が吸い込まれることはなくなった。だから。
「あれが、雲……?」
カマルが雲を見上げている。
「そう。あれは、海から昇った水蒸気が集まってできてるんだ。水蒸気がもっと集まって、雲が空を覆うほど大きくなったり灰色っぽくなったら、雨が降るよ」
「雨が。……本当に……?」
サイード王たちも、雲を見上げている。
「うん。もうすぐ、本当にこの世界に雨が降る」
きっぱりと、言い切る。
雲ができたなら。もうすぐ、自然に雨も降る。絶対に。
俺が力を使えば、今すぐ雨どころか雪でも何でも降らせることはできるだろうけど。
そうじゃなくて。自然の力で降らせたい。
「ああ、我らが尊きマラーク様。この世の全ての人類の悲願を叶えていただき、感謝します」
振り向けば、ラシッドだけじゃなくて。
バッシャールとサイード王、アシャラ国の人たち。イルハム王にカマル。ワーヒド国の兵士たちも。
全員が、俺に向かって跪いていた。
俺じゃないよ、神様が俺をここに送ってくれたからだよ。って言おうとしたけど。
傍らにいたアーディルが、肩を抱いて。
「皆、そなたに。ミズキに対して、感謝をしているのだ」
他の誰でもなく。
みんながこうして心から感謝しているのは、見たことのない神様じゃなくて。
目の前にいる、俺に対して、だって。
そう言ってくれたから。
素直に、感謝を受け取る気になれた。
†††
イスナーン国からも、海から大きな船が来たのは見えていたようで。
船だとは知らず、”謎の物体”を偵察に来た、自称・マラーク親衛隊のアブドラが俺たちに気づいて。
大喜びで迎えてくれた。
さっそく、海で獲ったばかりだという海の幸でご馳走を作らせると言って。
大急ぎで戻って行った。
それは楽しみだ。
「スルタン、おかえりなさいませ」
イスナーン国に出向して復興の指導をしていたというワーヒド国の兵士が礼をした。
イスナーン国は、見違えるように、すっかり復興していた。
道には屋台も出ていて。
国民は、元気に外を歩いている。
前に来た時とは違って、活気がある。
まるで別の国みたいだ。
アシャラ国の国民たちと、同行してきたワーヒド国の兵士たちは、王宮で一休みしてもらうことにして。
「で、例のものは?」
「こちらです」
案内されて。
王様たちと一緒に、王宮の地下へ向かった。
本当に、王宮の地下にハカムの一族の研究施設があったんだ……。
こんなもの、早いとこ、どうにかしなくちゃな。
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