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ジャングル風呂

サイード王、怒る

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イルハム王は、攻撃した相手である俺たちに目もくれず。
自分を親父、と呼ぶ青年が、幼くして置いていった我が子だと知って。ただひたすら驚いているようだ。

異空間から戻ってきたら幼かった息子が大きくなって飛び蹴りかましてきたら、そりゃ驚くだろうけど。


サイード王はそんなイルハム王に。
自分はアシャラ国の王である、と名乗った後。
叱りつけるように言った。

「スィッタ国スルタンよ。先程貴方が傷付けた相手をどなたがご存じか? あの方は、偉大なるワーヒド国のスルタンである」
砂漠の世界で最大のオアシスを主有する国を統べる、立派な王である、と告げた。

「……!? 何故、」
イルハム王は、目を瞠ってアーディルを見た。

「貴方が攻撃により巻き込みかけたあの方こそは、天よりの使いであり、ワーハを産み、我々を死の未来より救ってくださったマラーク様であったのだ。マラーク様は、ワーヒド国のスルタンの伴侶であるのだから、妃の危険を庇うは当然であろう。そして、貴方がソーバン・カビラと呼び、殺意を向けたのは。マラーク様のしもべであるツチノコ殿だ。ヒトに対し害意を持たぬばかりか、我々に糧を与えて下さった、慈悲深き神の御使いである!」


世界の水と緑を元通りにした場合、アシャラ国は氷漬けになるだろうというので、国を移動することにしたところ。
ハカムを捕らえ、イスナーン国の仮王にもなったアーディルに、自分の代わりにイスナーン国の王にならないかと誘われた。

でも、飢えにより国民を減らしてしまった自分は王に相応しいのかわからないので悩む自分に、アーディルは自分たちと一緒に旅をして代替地を探す間に考えればいいと言ってくれた。

サイード王は、ここにいる皆は、そういう事情で来たのだと。
今まであったことを説明してくれた。

アーディルのことで、こんなに怒ってくれて。
いい人だなあ。

こんな人もいたのに。
すべてを放り出そうとしたのが申し訳なくなる。


「この世界の砂漠化は、ここにある次元の亀裂が原因であると突き止め。ワーヒド国の魔法使いたちと共に、マラーク様は、その偉大なる御力で亀裂に引かれる力を弱まらせ、塞いでくださったのだぞ!」

自分が攻撃してしまったのが、他ならぬ、自分を救ってくれた恩人であると知り。
大蛇の姿を見て、あまりに動揺したのでつい攻撃をしてしまったことを、イルハム王は平に謝罪した。

まあ、それでも許さないけど。いつまでも根に持つけどな!


カマルの飛び蹴りで肋骨にヒビが入ったみたいで、痛そうだったけど。
軽々しく攻撃魔法を放ったことを心から反省して欲しい。

肩を吹っ飛ばされたアーディルの方が、もっと痛かっただろう。
ツチノコだって、痛い目に遭った。

いくらもう治ってるからって。
許されると思うなよ?

俺が神様の力を持ってなかったら、アーディルは死んでたんだからな!


†††


とりあえず、イルハム王からこれまでの事情を聞きたい、とアーディルが言って。
イルハム王は、今まであったことを話した。


前王である父が毒虫によって亡くなったので、22歳だったイルハムは王位を継いだ。
イルハムにはすでに妻がいて。愛する息子はすくすく育ち、3歳になったところだった。

国民は120人ほどの、国というより村のような規模だけど。
それで充分だと思って国を治めていた。他の国の事は知らされていなかった。


ある日、鳥が来て。それは手紙に変わった。

この国で文字が読めるのは、前王から特別に教育されたイルハム王だけだった。
届いた手紙によって、この国の他にも国があること。他の国では水が足りなくて困っていることを知った。

探してみたら、昔の手紙もあったので。全部読んだ。


イルハム王は、困っているなら、助けたいと思った。
ここには未開であるけど。広大な土地があるから。

しかし、手紙を飛ばす魔法は教わっていなかった。自国の魔法使いに訊いても、誰もその魔法を知らなかった。


イルハム王は自らトビトカゲを繰って、初めて国の外を見た。
それで実際に世界が砂漠化していたことを知った。

そして、このスィッタ国だけが異常なのだということも。

空から自国を見たら、水蒸気によって覆われて、よく見えなかったが。
その水蒸気が、薄い場所があった。

いや、よく見れば、発生している水蒸気がに吸い込まれているようだ。
あそこに原因があるに違いない。


今は、吸い込まれている影響か、植物に覆われたこの国も。
世界を砂漠にした後。ここの水も全て吸い込まれて、植物は枯れ、滅びるだろう。

そう考えたイルハム王は、他の国にも応援を頼もうと考えた。


話すのは自分の方が得意だから、と妻が言い。
とりあえず近くの国へ交渉に行く、と言ってトビトカゲに乗って出かけたが。


そのまま、帰って来なかった。


†††


しびれを切らしたイルハム王が自ら探しに出てみると。

行商人らしき男が声を掛けてきた。
その珍しい生き物を、前にも見たのだと。

乗っていた人は、大蛇に噛み殺されたようだ。
そしてその珍しい生き物はハカムに奪われた、あんたもやつらに見つかる前に逃げた方がいい、とその人は言った。

珍しい生き物に乗っていたから。
ただ、それだけで。
ハカムの一族に目をつけられてしまったのだろう、と。

毒の実験をするためか、遺体も回収されてしまったらしく。
葬式をあげてやることもできない。


国民は、王妃の死を知って嘆き悲しんだ。

他国に頼るのはやめた。
子のため、未来のために亀裂は塞ぐべきだが。それは自分たちだけで何とかするべきだ、と。


率先して捜索に出た者は、国の中央に向かって。
そのまま戻って来なかった。


彼らを探しに出た者たちも。次々といなくなった。
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