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最後の国、スイッタ国
スィッタ国王の行方
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森に入って。
カマルの案内で進んでいく。
ジャングルの中は蒸し蒸ししていて、ヤブ蚊もいっぱいだ。
虫除けしといてよかった。お陰で寄って来ない。
足元もぬかるんでいて、大トカゲとかに乗ってないと、足が泥だらけになったりヒルに噛まれたり、大変だったかも。
大トカゲは足が鳥の足みたいに硬化してるので、泥や、刺す虫がいても大丈夫みたいだ。
ツチノコはお腹がすべすべしてるからか、泥がくっつかないらしい。便利だな。
しばらく進むと。
草に覆われた、大きな建物があった。石造りで、いかにも王宮っぽい外見だ。
カマルはここに、たった一人で住んでいるという。
いつからだろう?
†††
建物の入り口には薄い布が掛かっていて。布を叩いて虫を払ってから入るように言われた。
これにも虫除けの汁がついていたけど、気休め程度らしい。
「適当に潰して飲め。あと食え」
カマルは素焼きのコップと、両手いっぱいに果物を持って来た。
潰して飲むよう言われたの、見た感じはオレンジっぽいけど。何だろう……?
リンゴっぽいのもある。
これが、元々この世界にあった果実か。
石造りのテーブルに人数分のコップを置くと。
カマルは別の部屋に走って行って、沢山の手紙を抱えて戻ってきた。
中にはかなり古そうなものもあった。
「いっぱい来てたこれ、報せだとはわからなかった」
イルハム王の机の上に、そのまま山積みになっているらしい。
アーディルはその手紙を見て。
今は無くなってしまった国からの手紙もある、と言った。
昔の手紙にも、水が消えいって、ほとんどの国が困窮しているという記述はあったみたいだ。
……イルハム王は、それを知っていたのに、放置していたのかな?
「さて。では、どのような状況なのか、教えて貰いたい」
アーディルが、カマルに訊いた。
†††
カマルから詳しく話を聞いてみると。
カマルが生まれてしばらくして。少しずつ、国民が消えていったらしい。
最後には、親であるイルハム王も出て行って。
一人残って、自分を育てくれた乳母という人も、少し前に亡くなったのだという。
乳母はカマルに対し、この国の次の王としての教育をするでもなく。
ただ、このジャングルに適応するように育てたようだ。
なので、みんなが何をしに出掛けたのかは、一応聞いてはいたものの。
今までその理由をよく理解できていなかったみたいだ。
イルハム王は、鳥が届けてきた紙を見て、古い紙も探して出して、真剣な顔をして見ていたという。
そして、どこかへ出かけたと思ったらすぐに戻ってきて。
大臣らを呼んで、会議をした。
国民が消えていったのは、それからしばらくしての話らしい。
最後には、王であるイルハムが出て行って。
戻って来なかった。
それだけしかカマルは知らなかった。
イルハム王は、この国の中心に”亀裂”があることに気づいて。
その原因を探るために捜索に出たまま姿を消してしまった、という話を教えられたのは最近のことで。
育ての親の乳母は、病で亡くなる前。
カマルには「絶対に、この国の中央へは近寄るな。もし、どこからか”お客さん”が来たら歓迎するように」と言い遺したという。
それ以来、カマルは一人でここに住んでいるのだという。
自分が王の子供だったということすら知らずに。
……そうか。
だから、ここに呼んで、果物を出してくれたのか。
カマルにとって、精一杯の歓迎。
飲み水だけでも貴重な世界で。
それは、砂漠を越えてやってきた人にとっては、最高の歓迎になるだろう。
†††
「みんな、こいつの親? に乗って、亀裂ってのを捜しに行った。その時はまだ子供で乗れなかったこいつ以外、もういない」
そう言って、カマルが連れて来たのは。
大トカゲよりは小さいけど、人が乗れそうなほど大きなトカゲだった。
馬につけるような蔵みたいなのが装着されてる。
おお、新しい爬虫類だ!
背中には、蝙蝠みたいな羽根が生えている。
まさかこれ、飛ぶの!? 蝙蝠みたいに。しかも、人を乗せて?
「スィフリヤット・マズラク……。かつては大陸間移動に重宝されていたが、既に絶滅したと思われていた騎獣が。まさか、ここで生き残っていようとは……」
バッシャールはこの生き物を知っていたようで。
唖然とした表情で見ている。
滅亡したはずの恐竜を見ちゃったような感じかな? 説明ありがとう。
でもこれが、トビトカゲ? 俺の知ってるトビトカゲとは違う……。
ムササビみたいに滑空して飛ぶのなら知ってる。
「そうか。皆、亀裂に吸い込まれたか……」
アーディルは痛ましそうな顔をした。
「あんた、”亀裂”って何か、知ってるのか?」
カマルの問いに。
「ああ。私たちは、それを塞ぎに来たのだ」
アーディルはきっぱりと言い切った。
本当に、可能なんだろうか?
この国のほとんどの人が、捜索に出たまま、姿を消してしまったのに。
†††
アーディルはカマルに、この世界から徐々に水が消えていき、世界が砂漠化していることを話した。
自分はこの世界で最大と言われたオアシスの王だが。
その最大のオアシスすら、少しずつ小さくなっていること。
他国の皆、未来を憂いていたこと。
しかし。神からこの世界へ”水の天使”が遣わされ、オアシスが復活した。
天使から、他の国も水や緑で満たして世界を昔の姿に戻したいと言われ、同意し。
その時に、この世界には亀裂があるのでは、と提案された。
その亀裂の捜査のために、空間魔法に詳しいラシッドを同行させた。
それから、色々な国を廻って。
調べていくにつれ、その原因は、この国の中心にある次元の亀裂だということが判明した、という話を。
カマルの案内で進んでいく。
ジャングルの中は蒸し蒸ししていて、ヤブ蚊もいっぱいだ。
虫除けしといてよかった。お陰で寄って来ない。
足元もぬかるんでいて、大トカゲとかに乗ってないと、足が泥だらけになったりヒルに噛まれたり、大変だったかも。
大トカゲは足が鳥の足みたいに硬化してるので、泥や、刺す虫がいても大丈夫みたいだ。
ツチノコはお腹がすべすべしてるからか、泥がくっつかないらしい。便利だな。
しばらく進むと。
草に覆われた、大きな建物があった。石造りで、いかにも王宮っぽい外見だ。
カマルはここに、たった一人で住んでいるという。
いつからだろう?
†††
建物の入り口には薄い布が掛かっていて。布を叩いて虫を払ってから入るように言われた。
これにも虫除けの汁がついていたけど、気休め程度らしい。
「適当に潰して飲め。あと食え」
カマルは素焼きのコップと、両手いっぱいに果物を持って来た。
潰して飲むよう言われたの、見た感じはオレンジっぽいけど。何だろう……?
リンゴっぽいのもある。
これが、元々この世界にあった果実か。
石造りのテーブルに人数分のコップを置くと。
カマルは別の部屋に走って行って、沢山の手紙を抱えて戻ってきた。
中にはかなり古そうなものもあった。
「いっぱい来てたこれ、報せだとはわからなかった」
イルハム王の机の上に、そのまま山積みになっているらしい。
アーディルはその手紙を見て。
今は無くなってしまった国からの手紙もある、と言った。
昔の手紙にも、水が消えいって、ほとんどの国が困窮しているという記述はあったみたいだ。
……イルハム王は、それを知っていたのに、放置していたのかな?
「さて。では、どのような状況なのか、教えて貰いたい」
アーディルが、カマルに訊いた。
†††
カマルから詳しく話を聞いてみると。
カマルが生まれてしばらくして。少しずつ、国民が消えていったらしい。
最後には、親であるイルハム王も出て行って。
一人残って、自分を育てくれた乳母という人も、少し前に亡くなったのだという。
乳母はカマルに対し、この国の次の王としての教育をするでもなく。
ただ、このジャングルに適応するように育てたようだ。
なので、みんなが何をしに出掛けたのかは、一応聞いてはいたものの。
今までその理由をよく理解できていなかったみたいだ。
イルハム王は、鳥が届けてきた紙を見て、古い紙も探して出して、真剣な顔をして見ていたという。
そして、どこかへ出かけたと思ったらすぐに戻ってきて。
大臣らを呼んで、会議をした。
国民が消えていったのは、それからしばらくしての話らしい。
最後には、王であるイルハムが出て行って。
戻って来なかった。
それだけしかカマルは知らなかった。
イルハム王は、この国の中心に”亀裂”があることに気づいて。
その原因を探るために捜索に出たまま姿を消してしまった、という話を教えられたのは最近のことで。
育ての親の乳母は、病で亡くなる前。
カマルには「絶対に、この国の中央へは近寄るな。もし、どこからか”お客さん”が来たら歓迎するように」と言い遺したという。
それ以来、カマルは一人でここに住んでいるのだという。
自分が王の子供だったということすら知らずに。
……そうか。
だから、ここに呼んで、果物を出してくれたのか。
カマルにとって、精一杯の歓迎。
飲み水だけでも貴重な世界で。
それは、砂漠を越えてやってきた人にとっては、最高の歓迎になるだろう。
†††
「みんな、こいつの親? に乗って、亀裂ってのを捜しに行った。その時はまだ子供で乗れなかったこいつ以外、もういない」
そう言って、カマルが連れて来たのは。
大トカゲよりは小さいけど、人が乗れそうなほど大きなトカゲだった。
馬につけるような蔵みたいなのが装着されてる。
おお、新しい爬虫類だ!
背中には、蝙蝠みたいな羽根が生えている。
まさかこれ、飛ぶの!? 蝙蝠みたいに。しかも、人を乗せて?
「スィフリヤット・マズラク……。かつては大陸間移動に重宝されていたが、既に絶滅したと思われていた騎獣が。まさか、ここで生き残っていようとは……」
バッシャールはこの生き物を知っていたようで。
唖然とした表情で見ている。
滅亡したはずの恐竜を見ちゃったような感じかな? 説明ありがとう。
でもこれが、トビトカゲ? 俺の知ってるトビトカゲとは違う……。
ムササビみたいに滑空して飛ぶのなら知ってる。
「そうか。皆、亀裂に吸い込まれたか……」
アーディルは痛ましそうな顔をした。
「あんた、”亀裂”って何か、知ってるのか?」
カマルの問いに。
「ああ。私たちは、それを塞ぎに来たのだ」
アーディルはきっぱりと言い切った。
本当に、可能なんだろうか?
この国のほとんどの人が、捜索に出たまま、姿を消してしまったのに。
†††
アーディルはカマルに、この世界から徐々に水が消えていき、世界が砂漠化していることを話した。
自分はこの世界で最大と言われたオアシスの王だが。
その最大のオアシスすら、少しずつ小さくなっていること。
他国の皆、未来を憂いていたこと。
しかし。神からこの世界へ”水の天使”が遣わされ、オアシスが復活した。
天使から、他の国も水や緑で満たして世界を昔の姿に戻したいと言われ、同意し。
その時に、この世界には亀裂があるのでは、と提案された。
その亀裂の捜査のために、空間魔法に詳しいラシッドを同行させた。
それから、色々な国を廻って。
調べていくにつれ、その原因は、この国の中心にある次元の亀裂だということが判明した、という話を。
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