上 下
53 / 91
ハムサ国にて

未曽有の災害

しおりを挟む
が早く成人してくれれば、すぐにでも王の座を譲るつもりなのですが、まだまだ子供で……。ワーヒド国スルタンのように優秀であれば、安心して退けるのですが」
ナエフ王は、さっきヤスミンと名乗った少年を示した。


えっ? この子、身形は良さそうだなって思ってたけど。
近衛兵とかじゃなくて、王子様だったんだ。

それも、未成年? 15歳以下なの!? 俺より背が高いのに!!

声からして、若そうだな、とは思ってた。
でも、まさか、15歳以下だとは。


でもって、次の王様ってことは。
まさかこの、老人にしか見えない王様の子供なの……!?


†††


「……先王が亡くなり、退位していたナエフが王に戻ったのだ」

驚きが顔に出ていたようで。
アーディルがこっそり教えてくれた。

あ、そうなんだ。

口に出さなくて良かった。気まずい雰囲気になるところだった。
親御さんを亡くしてるとか、シャレにならない。


「ははは、腰さえ痛めてなければ、まだまだ現役ですぞ?」
聞こえてたのか、ナエフ王が笑って言った。おお、地獄耳……。

って。
もしかして、フォローしてくれたのかな? 良い人じゃん。

いや、腰が治れば今だって、このくらいの年齢の子供だって作れるとか、胸を張って言われても……。

ああ、でもこの孫が祖父と似てるなら、若い頃はモテモテだったって話も信じられるかもしれない。
昔は美青年だった面影が無いことも無い……かな? 目の色も同じだし。


「あいたたた、」
笑ったのが腰に響いたようで、腰を押さえてる。

「全く。御祖父様、いくらマラーク様が愛らしいとはいえ、年甲斐もなくはしゃがないでください」
ヤスミン王子は、じろりと祖父を睨んだけど。

「これ、人前ではスルタンと呼べと言っておるだろう」

「あっ」
逆に叱られて、慌てていた。

こんなだから安心して跡を任せられんのだ、と肩を竦めている。
仲が良さそうだ。


悪くない感じで自己紹介を終えて。
ハムサ国の王様と、次代の王様も交えて会談を始めた。


†††


ここも、年々オアシスが減少していってる状態で。井戸の水も枯れてきたという。
国民に魔法使いが多いので、何とか糊口ここうしのげている状態だという状況らしい。


40年ほど前までは、1万人ほどの国民がいたけど。
10年前、未曽有みぞうの災害による事故が起きて、今ではもう、千人ほどまで減ってしまったという。

先代の王様も、その事故が原因で亡くなったとか。

事故と災害で、都市並みにあった人口が町とか村レベルにまで激減するなんて。
10年前、何があったんだろう?

「……磁気嵐アシファト・マグナティシアか……」
アーディルが、痛ましそうな表情をして呟いた。


10年前。
この世界全体で、人口が激減するような大嵐が起こったらしい。

小規模なものなら数年に一度起こる程度だけど。
その年に吹き荒れた磁気嵐は、過去最大の勢力だったという。

アルバ国に到達する頃にはだいぶ勢力を弱めていたようだけど。
イスナーンもかなり被害をこうむり、強固な結界を張ったワーヒド国ですら犠牲者が出たほどで。
イスナーン国がハカムに容易く乗っ取られてしまったのも、その時に負ったダメージが原因だったのでは、と考えられているそうだ。

サラーサ国は、建物が堅牢だったので大丈夫だったみたいだ。
それでも一部倒壊したので、強固に作り直したのが今のあのドームだって。凄いな。


そして、ここハムサ国では、かつてないほど甚大な被害を被った。

このピラミッドもどきの大きさは今の倍以上あって、数も3つあったようだ。
……今の倍って。とんでもない大きさだな。

この建物は、横からの揺れや大風などには強いけど、磁気嵐による落雷には無力だったらしい。

落雷により、他の2つはほぼ全壊。
ここは上部が倒壊して、半分くらいの大きさになった。


先代の王様は、我が子と国民を守るために倒壊した塔に残り、魔法でこれ以上の被害を食い止めていたけど。
力尽きて、命を落としたという。


†††


そんな大変なことがあったんだ。

更に、水源も減っていって。
近頃はもう、この国の存続を諦めて、他の国に頼るべきか悩んでいたとか。

でも。

「これも神の与えし試練かと諦めましたが。まだ人は、見捨てられてはいなかったようですな」
ナエフ王は俺を見て、目を細めて笑った。

「神の思し召しにより、水のマラーク様が降臨され。皆を、この世界を助けて下さるという。これで安心して孫に国を譲ってやれるのですから」


オアシスを作る能力は、どこの国も喉から手が出るほど欲しいって。
わかっていたのに。理解していたはずなのに。

寄せられる期待があまりに大きすぎて。プレッシャーを感じていたら。

アーディルは、自分がついているから安心しろ、というように俺の背中をポンポン、と叩いた。
大きな手の平から感じる体温。


……そうだった。
俺は、もう一人じゃない。

世界一頼りになる王様の、アーディルが一緒にいてくれるんだから。


この世界を水で満たした後。もしかしたら、ここは極寒の地になってしまうかもしれない、と伝えたけど。
ナエフ王もヤスミン王子も、最終的に、国と国を繋ぐ川や海を作ることに賛成してくれた。


†††


じゃあまずは、オアシスを作らないとな。


このピラミッドもどきの内側に植物を生やすのは、スペース的に難しそうなので。
外に大きなオアシスを作ることにした。

その代わり、一階の広いスペースには大きめの公衆浴場を作ることが決定した。


地熱や日差しで温めるにしては、どちらも足りないので。
ここでは水からお湯を沸かす方式にしてもらった。
施設の作り方はもうラシッドが知ってるから、ここの魔法使いたちに指導して、建ててもらおう。


俺は、その間にオアシス作りだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...