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ハムサ国にて
未曽有の災害
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「これが早く成人してくれれば、すぐにでも王の座を譲るつもりなのですが、まだまだ子供で……。ワーヒド国スルタンのように優秀であれば、安心して退けるのですが」
ナエフ王は、さっきヤスミンと名乗った少年を示した。
えっ? この子、身形は良さそうだなって思ってたけど。
近衛兵とかじゃなくて、王子様だったんだ。
それも、未成年? 15歳以下なの!? 俺より背が高いのに!!
声からして、若そうだな、とは思ってた。
でも、まさか、15歳以下だとは。
でもって、次の王様ってことは。
まさかこの、老人にしか見えない王様の子供なの……!?
†††
「……先王が亡くなり、退位していたナエフが王に戻ったのだ」
驚きが顔に出ていたようで。
アーディルがこっそり教えてくれた。
あ、そうなんだ。
口に出さなくて良かった。気まずい雰囲気になるところだった。
親御さんを亡くしてるとか、シャレにならない。
「ははは、腰さえ痛めてなければ、まだまだ現役ですぞ?」
聞こえてたのか、ナエフ王が笑って言った。おお、地獄耳……。
って。
もしかして、フォローしてくれたのかな? 良い人じゃん。
いや、腰が治れば今だって、このくらいの年齢の子供だって作れるとか、胸を張って言われても……。
ああ、でもこの孫が祖父と似てるなら、若い頃はモテモテだったって話も信じられるかもしれない。
昔は美青年だった面影が無いことも無い……かな? 目の色も同じだし。
「あいたたた、」
笑ったのが腰に響いたようで、腰を押さえてる。
「全く。御祖父様、いくらマラーク様が愛らしいとはいえ、年甲斐もなくはしゃがないでください」
ヤスミン王子は、じろりと祖父を睨んだけど。
「これ、人前ではスルタンと呼べと言っておるだろう」
「あっ」
逆に叱られて、慌てていた。
こんなだから安心して跡を任せられんのだ、と肩を竦めている。
仲が良さそうだ。
悪くない感じで自己紹介を終えて。
ハムサ国の王様と、次代の王様も交えて会談を始めた。
†††
ここも、年々オアシスが減少していってる状態で。井戸の水も枯れてきたという。
国民に魔法使いが多いので、何とか糊口を凌げている状態だという状況らしい。
40年ほど前までは、1万人ほどの国民がいたけど。
10年前、未曽有の災害による事故が起きて、今ではもう、千人ほどまで減ってしまったという。
先代の王様も、その事故が原因で亡くなったとか。
事故と災害で、都市並みにあった人口が町とか村レベルにまで激減するなんて。
10年前、何があったんだろう?
「……磁気嵐か……」
アーディルが、痛ましそうな表情をして呟いた。
10年前。
この世界全体で、人口が激減するような大嵐が起こったらしい。
小規模なものなら数年に一度起こる程度だけど。
その年に吹き荒れた磁気嵐は、過去最大の勢力だったという。
アルバ国に到達する頃にはだいぶ勢力を弱めていたようだけど。
イスナーンもかなり被害を被り、強固な結界を張ったワーヒド国ですら犠牲者が出たほどで。
イスナーン国がハカムに容易く乗っ取られてしまったのも、その時に負ったダメージが原因だったのでは、と考えられているそうだ。
サラーサ国は、建物が堅牢だったので大丈夫だったみたいだ。
それでも一部倒壊したので、強固に作り直したのが今のあのドームだって。凄いな。
そして、ここハムサ国では、かつてないほど甚大な被害を被った。
このピラミッドもどきの大きさは今の倍以上あって、数も3つあったようだ。
……今の倍って。とんでもない大きさだな。
この建物は、横からの揺れや大風などには強いけど、磁気嵐による落雷には無力だったらしい。
落雷により、他の2つはほぼ全壊。
ここは上部が倒壊して、半分くらいの大きさになった。
先代の王様は、我が子と国民を守るために倒壊した塔に残り、魔法でこれ以上の被害を食い止めていたけど。
力尽きて、命を落としたという。
†††
そんな大変なことがあったんだ。
更に、水源も減っていって。
近頃はもう、この国の存続を諦めて、他の国に頼るべきか悩んでいたとか。
でも。
「これも神の与えし試練かと諦めましたが。まだ人は、見捨てられてはいなかったようですな」
ナエフ王は俺を見て、目を細めて笑った。
「神の思し召しにより、水のマラーク様が降臨され。皆を、この世界を助けて下さるという。これで安心して孫に国を譲ってやれるのですから」
オアシスを作る能力は、どこの国も喉から手が出るほど欲しいって。
わかっていたのに。理解していたはずなのに。
寄せられる期待があまりに大きすぎて。プレッシャーを感じていたら。
アーディルは、自分がついているから安心しろ、というように俺の背中をポンポン、と叩いた。
大きな手の平から感じる体温。
……そうだった。
俺は、もう一人じゃない。
世界一頼りになる王様の、アーディルが一緒にいてくれるんだから。
この世界を水で満たした後。もしかしたら、ここは極寒の地になってしまうかもしれない、と伝えたけど。
ナエフ王もヤスミン王子も、最終的に、国と国を繋ぐ川や海を作ることに賛成してくれた。
†††
じゃあまずは、オアシスを作らないとな。
このピラミッドもどきの内側に植物を生やすのは、スペース的に難しそうなので。
外に大きなオアシスを作ることにした。
その代わり、一階の広いスペースには大きめの公衆浴場を作ることが決定した。
地熱や日差しで温めるにしては、どちらも足りないので。
ここでは水からお湯を沸かす方式にしてもらった。
施設の作り方はもうラシッドが知ってるから、ここの魔法使いたちに指導して、建ててもらおう。
俺は、その間にオアシス作りだ。
ナエフ王は、さっきヤスミンと名乗った少年を示した。
えっ? この子、身形は良さそうだなって思ってたけど。
近衛兵とかじゃなくて、王子様だったんだ。
それも、未成年? 15歳以下なの!? 俺より背が高いのに!!
声からして、若そうだな、とは思ってた。
でも、まさか、15歳以下だとは。
でもって、次の王様ってことは。
まさかこの、老人にしか見えない王様の子供なの……!?
†††
「……先王が亡くなり、退位していたナエフが王に戻ったのだ」
驚きが顔に出ていたようで。
アーディルがこっそり教えてくれた。
あ、そうなんだ。
口に出さなくて良かった。気まずい雰囲気になるところだった。
親御さんを亡くしてるとか、シャレにならない。
「ははは、腰さえ痛めてなければ、まだまだ現役ですぞ?」
聞こえてたのか、ナエフ王が笑って言った。おお、地獄耳……。
って。
もしかして、フォローしてくれたのかな? 良い人じゃん。
いや、腰が治れば今だって、このくらいの年齢の子供だって作れるとか、胸を張って言われても……。
ああ、でもこの孫が祖父と似てるなら、若い頃はモテモテだったって話も信じられるかもしれない。
昔は美青年だった面影が無いことも無い……かな? 目の色も同じだし。
「あいたたた、」
笑ったのが腰に響いたようで、腰を押さえてる。
「全く。御祖父様、いくらマラーク様が愛らしいとはいえ、年甲斐もなくはしゃがないでください」
ヤスミン王子は、じろりと祖父を睨んだけど。
「これ、人前ではスルタンと呼べと言っておるだろう」
「あっ」
逆に叱られて、慌てていた。
こんなだから安心して跡を任せられんのだ、と肩を竦めている。
仲が良さそうだ。
悪くない感じで自己紹介を終えて。
ハムサ国の王様と、次代の王様も交えて会談を始めた。
†††
ここも、年々オアシスが減少していってる状態で。井戸の水も枯れてきたという。
国民に魔法使いが多いので、何とか糊口を凌げている状態だという状況らしい。
40年ほど前までは、1万人ほどの国民がいたけど。
10年前、未曽有の災害による事故が起きて、今ではもう、千人ほどまで減ってしまったという。
先代の王様も、その事故が原因で亡くなったとか。
事故と災害で、都市並みにあった人口が町とか村レベルにまで激減するなんて。
10年前、何があったんだろう?
「……磁気嵐か……」
アーディルが、痛ましそうな表情をして呟いた。
10年前。
この世界全体で、人口が激減するような大嵐が起こったらしい。
小規模なものなら数年に一度起こる程度だけど。
その年に吹き荒れた磁気嵐は、過去最大の勢力だったという。
アルバ国に到達する頃にはだいぶ勢力を弱めていたようだけど。
イスナーンもかなり被害を被り、強固な結界を張ったワーヒド国ですら犠牲者が出たほどで。
イスナーン国がハカムに容易く乗っ取られてしまったのも、その時に負ったダメージが原因だったのでは、と考えられているそうだ。
サラーサ国は、建物が堅牢だったので大丈夫だったみたいだ。
それでも一部倒壊したので、強固に作り直したのが今のあのドームだって。凄いな。
そして、ここハムサ国では、かつてないほど甚大な被害を被った。
このピラミッドもどきの大きさは今の倍以上あって、数も3つあったようだ。
……今の倍って。とんでもない大きさだな。
この建物は、横からの揺れや大風などには強いけど、磁気嵐による落雷には無力だったらしい。
落雷により、他の2つはほぼ全壊。
ここは上部が倒壊して、半分くらいの大きさになった。
先代の王様は、我が子と国民を守るために倒壊した塔に残り、魔法でこれ以上の被害を食い止めていたけど。
力尽きて、命を落としたという。
†††
そんな大変なことがあったんだ。
更に、水源も減っていって。
近頃はもう、この国の存続を諦めて、他の国に頼るべきか悩んでいたとか。
でも。
「これも神の与えし試練かと諦めましたが。まだ人は、見捨てられてはいなかったようですな」
ナエフ王は俺を見て、目を細めて笑った。
「神の思し召しにより、水のマラーク様が降臨され。皆を、この世界を助けて下さるという。これで安心して孫に国を譲ってやれるのですから」
オアシスを作る能力は、どこの国も喉から手が出るほど欲しいって。
わかっていたのに。理解していたはずなのに。
寄せられる期待があまりに大きすぎて。プレッシャーを感じていたら。
アーディルは、自分がついているから安心しろ、というように俺の背中をポンポン、と叩いた。
大きな手の平から感じる体温。
……そうだった。
俺は、もう一人じゃない。
世界一頼りになる王様の、アーディルが一緒にいてくれるんだから。
この世界を水で満たした後。もしかしたら、ここは極寒の地になってしまうかもしれない、と伝えたけど。
ナエフ王もヤスミン王子も、最終的に、国と国を繋ぐ川や海を作ることに賛成してくれた。
†††
じゃあまずは、オアシスを作らないとな。
このピラミッドもどきの内側に植物を生やすのは、スペース的に難しそうなので。
外に大きなオアシスを作ることにした。
その代わり、一階の広いスペースには大きめの公衆浴場を作ることが決定した。
地熱や日差しで温めるにしては、どちらも足りないので。
ここでは水からお湯を沸かす方式にしてもらった。
施設の作り方はもうラシッドが知ってるから、ここの魔法使いたちに指導して、建ててもらおう。
俺は、その間にオアシス作りだ。
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