上 下
27 / 91
再び、ワーヒド国

衝撃の事実、その一

しおりを挟む
この世界では、15歳で成人として扱われるようだ。


アーディルがこの国の王様として王位を継いだのは、成人してすぐだった、って聞いた。
と、いうことは。

まだ15歳の時に父親を亡くして。そのまま跡を継いで、王様になったんだ。
それで。たった一年で、王を暗殺されて危うかったワーヒド国を、今みたいに立て直したって?

凄すぎる。
この国が、二年前にハカムから襲撃を受け、戦争をしていただなんて。国を廻って見ても、全くわからなかった。長年、ずっと平和で、栄えている国に見えた。


それは、王様であるアーディルが相当頑張ったからだろう。

大変だったろうな。
15歳の時から、王様としての態度を求められてきたなら。それらしく、大人っぽく振舞うようになるのも当然なのかも。


†††


「わ、」
ひょい、と抱き上げられる。

「では、風呂に入るか! これより、待ちに待った、夫婦の時間である。皆、邪魔をするでないぞ」
アーディルは、ついてきていた使用人たちにそう言って。

風呂場に向かいながら、ポイポイと服を脱ぎ捨てた。
つくづく羞恥心の存在しない王様である。

戦衣装の装甲が、ガシャガシャと音を立てて落ちた。
使用人が、それらを慌てて回収している。お疲れ様です……。


更衣室的スペースに入ってから、俺の服も剥かれた。
抱き上げたまま脱がすとか、器用だな。

「あっ、アーディル。そういえばまだ、訊きたいことがあったんだけど、」

「ん? 何でも訊くがよい」
アーディルは上機嫌だ。こんなニッコニコなのに、俺と逢うまでは笑みを見せなかったとか、信じられない。


「……ここ、ハーレムとか、あるのかなって……」

嫉妬してるみたいで、みっともないかなって思うけど。
惚れた相手に、愛人とかお妾さんがいたら。普通、気になるよな?

一国の王様に対して、自分一人だけを愛して欲しい、なんて。
我儘だとはわかってる。

けど。
そういうの、不実っていうか。やめて欲しい。

もし、この世界じゃそれが当たり前のことでも。


だって俺は、アーディルが何もかも初めてだったんだし!
アーディルが、そういう経験を積んだのがどういう相手だったかって、気になるじゃん!


†††


「ハーレム、とは?」
アーディルは不思議そうに首を傾げた。


あ、こっちじゃ”ハーレム”って言葉は通じないんだ。
まさか、そもそも存在しないとか?

ええと。じゃあ、他の言い方だと……。

「別の言い方だと、後宮、でいいのかな? ……お妾さんとか、他に、妃候補とか。いっぱい居たりする?」
段々、尻すぼみになってしまう。

うう。
我ながら、何て女々しいことを……。


「……クッ、」
アーディルは耐え切れない、というように吹き出した。

「何だよ、笑うなんてひど……、わぷ、」


ザバッ、と。
俺を抱いたまま、勢いよく湯船に飛び込んだ。


いたずらっ子みたいな顔をして。
全く。子供みたいなことするなっての。実際、若いんだけど。

鼻にお湯、入りそうになっただろ!?


「ここに、そのようなモノは、存在せん」
「え?」

「私は、このワーヒドに次代の マリクとなるべく産まれ、昼も夜もなく帝王学を叩きこまれ、寝る暇もなく研鑽に励んでいた。そして二年前、父上の死と同時に王位を継いだが。未だ王としては未熟ゆえ、学ぶことは多く。余所事に目をくれる暇もなく、施政に明け暮れていたのだ」

いや、アーディルは全然未熟な王様じゃないと思うけど。
理想が高いのかな?

「そう……突然現れたワーハで、と出逢うまでは、な」
ニヤリと笑った。


え? それって。
俺のこと?


†††


後宮、というか。正妃の他に、第二夫人とか。いわゆるお妾さんを住まわせる場所は、お父さんの代には一応あったそうだけど。
アーディルが王位を継いだ時、全員に、それなりの生活を保障する約束で解散させたそうだ。


閨房術けいぼうじゅつも王族のたしなみとして教わってはいたが。全て座学である。ゆえに、私はそなた以外の肌を知らぬのだがな?」
何だよ、ニヤニヤしちゃって。


今まで実践で授業はしてなくて、全部、座学で習ったって?
嘘だぁ。あんなエロエロで?

え?
ってことは。

……つまり。ええと。

嘘だろ……?
本当に!? マジで!?


「アーディルさんてば、そんな顔して、どどど童貞だったんですか……!?」


アーディルは目をすがめた。
「何故敬語になるのだ? 顔は関係あるまい。……それにもう、私は童貞ではなかろう?」

「ひゃっ!?」
えっちな指が、を撫でる。


男同士でも、童貞卒業したってことでいいのか?

じゃあ俺は、バックバージン喪失? 童貞なのに処女じゃなくなった……ってことになるのか?
それは何か、やだな……。


アーディルは、にやついていた顔を引き締めて。真剣な顔になった。

そして。
俺をまっすぐに見つめて告げた。


「私が生涯をかけて愛し、この腕に抱くのは。そなた一人だけでよい」


†††


アーディル。

そんなこと。
一国の王様が言って良いのかよ。

正直言って、他に目を向けることなく愛されるのは、嬉しいよ? アーディルに、他に相手がいたら嫌だって思うし。
アーディルの相手に嫉妬して。つい、後宮のこと訊いちゃったけど。

でも。王様なんだし。
やっぱり、跡取りとか必要だろ?

男の俺じゃ、子供なんて産めないし。
跡継ぎを作るのは不可能だ。


ほんと、今更だけど。
何で俺、こんなにアーディルのこと、好きになっちゃったんだろう?

好きじゃなければ、見ないふりして。
先のことを思い悩むことなんて無かったのに。


「子も、しばらくは 要らぬ。ミズキとの蜜月を味わいたいからな」
ぎゅっと抱き締められた。


「……は?」

いや、子供は要らない、って言われても。
しばらくも何も。


「俺、男だよ?」

「それは良く知っているつもりだが?」
お尻を撫でながら言うな。


そうだね。
何度も裸、見てるしね。口にもしたし。

……じゃなくて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【R18】魔王様は勇者に倒されて早く魔界に帰りたいのに勇者が勝手に黒騎士になって護衛してくる

くろなが
BL
【第8回BL大賞にて奨励賞頂きました!!投票本当にありがとうございました!】 2022/02/03ユタカ×リスドォルの番外編を追加開始です。全3話17時頃更新予定です。 ~内容紹介~ 勇者に倒されないと魔界に帰れない魔王様が、異世界転移の高校生勇者に一目惚れされてしまった。しかも黒騎士となって護ると言われ、勝手に護衛を始めてしまう。 新しく投入される勇者を次々に倒して仲間にし、誰も魔王様を倒してくれない。魔王様は無事に魔界に帰ることができるのか!?高校生勇者×苦労人魔王 三章まで健全。四章からR18になります。ほのぼの大団円ハッピーエンドです。【本編完結済】 表紙は(@wrogig8)はゆるふ様から頂きました。 小説家になろう(R15)・ムーンライトノベルズ(R18)に掲載しています。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...