神様の手違いで幸運値ゼロだったお詫びに異世界で救世主に転生するはずだった俺が砂漠の王様に攫われて寵妃にされてしまいました。

篠崎笙

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イスナーン国にて

お迎えが来た!

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「少し見て廻っただけだけど、これだけはわかった。……ハカム。あんたにはこの国を任せることはできない、ってな」

「何、ですと……!?」
「あんたみたいな奴になんか、王様は向いてないってことだよ」
はっきりと言ってやったら。

「く……っ、」
ハカムは顔色を変えた。

美しい顔が、見る間に醜悪なほどの憎悪に染まった。
いくら生まれつき姿かたちが美しくても、中身がこうだと魅力も半減、いや醜くなるものだと思った。

俺がずっとハカムから感じていた何とも言えない気持ち悪さは、隠していた醜い性根を肌で感じ取っていたせいかもしれない。


†††


「愛らしい姿ゆえ、丁重に扱って差し上げようとしたのに。……此方に叛意はんいがあるのならば、少々強引に御身を王宮に監禁せざるを得ませんね」

ハカムは、部下の兵に手信号で何かを命じて。
俺を取り囲むように配置させた。


「はあ? 監禁だって? が、この俺を? どうやって?」
わざと居丈高に言ってやる。

ハカムに向かって、人差し指を突き出して。

そのまま、すっ、と指を横に動かしてみせる。


次の瞬間。
ハカムの長い髪が、顎の下あたりでスパッと切れて落ちた。

「な……っ!?」
ハカムの髪が切り落されたのと同時に。
ハカムの部下の持っていた槍や刀も、刃の部分が真っ二つになって地面に落ちた。

綺麗にカットされた刃先を、部下たちは茫然と見ている。


「ダイヤすら真っ二つにできる、水の刃だよ。切れ味は見ての通り。……どうする? 素直に投降し、跪いて俺の命令を聞くか。それとも、」

我ながら中二ソウル丸出しな台詞で恥ずかしいが。
異世界なのでセーフ。

「何を……っ、」
身じろぎしたハカムに、人差し指を向ける。

「……動くな。次は髪じゃなく、その首を狙う」

水を自在に操れるならこれも可能だろうとは思ってたけど。
成功して良かった……! 内心、ヒヤヒヤしてた。


「く……っ、」
「おお、偉大なる神の子、マラークよ、……何なりとご命令を申し付けください」
ハカムは悔しそうに。
部下たちは何故かうっとりした様子で跪いて。俺に最敬礼してみせた。

神様に対して、信心深い世界で良かった。


†††


「……私の愛しいマラークは、愛らしいだけでなく。少々凶暴な面もあったのだな?」

後ろから。
笑いをかみ殺すような。聞き慣れた声がした。


……この美声は。

間違いようもない。


「……アーディル!?」
振り向けば。

瓦礫の向こうに、純白の頭布をひるがえし。勇ましい戦衣装いくさいしょうに身を包んだ、戦神のように雄々しく美しい男がいた。
長い曲刀を携えた、隙の無い立ち姿。

アーディルが、国の軍隊を引き連れて。
たった今、到着したところだった。

迎えに来てくれたんだ!


「アーディルだ、」
両手を広げているアーディルの胸に、飛び込んだ。

逞しい身体が、俺の全体重を難なく受け止めてくれる。

「アーディル、アーディル、アーディル!」
戦争も辞さない覚悟で迎えに来てくれたのが、あまりに嬉しくて。
ただ、名前を呼ぶことしかできない。

「ああ、ミズキ。愛しい私の妃よ。不覚にも、我が国民とイスナーンの侵入者が入れ替わっていたのに気づかず、かような狼藉を許してしまい、すまなかった」
真剣な顔で、謝罪される。

暗殺者の気配には敏感だけど。殺意を感じなかったため、侵入者スパイに気づかなかったようだ。
まあ、みんな頭からすっぽり同じような布を被ってるからな。確かに気付きにくいだろう。
そういう風に、違和感なく見せかけるような偽装魔法も使ってたかもしれないし。


「すぐに追ったのだが。大事ないか? 恐ろしくはなかったか?」
ぎゅっと抱き締められて。

「絶対来てくれるって信じてたから、大丈夫」
俺も、自分の腕をアーディルの逞しい背に回した。

……ああ、この匂いだ。

「アーディルだ……、」
胸一杯に、アーディルの匂いを吸い込む。

数時間しか離れてなかったはずなのに。どうしてか、懐かしく思える。
この、力強い腕の感触も。

自分では冷静だと思っていたつもりだけど。
俺、かなり不安だったみたいだ。

こうしてアーディルに逢えて、その体温に。抱き締められる感覚に。
心の底からほっとしてる。


†††


「もー、早くうちに帰って、お風呂に入りたいよ……」

「ああ、共に帰ろう。我がワーヒドへ」
アーディルは無事でよかった、と嬉しそうに笑っている。

ワーヒド国に帰る前に、この国の問題を何とかしないといけないんだけど。
もうアーディルに丸投げしちゃっていいかな?


すっかり戦意を喪失した様子のハカムは、おとなしく縄を打たれて。
ワーヒド軍が占拠したイスナーンの王宮へと連行された。

さすがのハカムも、不可視の刃で首をちょんぎられる恐怖には勝てなかったようだ。

俺のことを、出来ることは水を出したり植物を生やせるくらいの、無害で善良なだけの存在だと思って見くびっていたんだろう。
まあ、天使だと思ってれば当たり前か。

自分でもあんなことが出来るなんて、びっくりだった。

オアシスを産む能力って、応用すれば色々なことに使えるんだよな。
この世界を緑と水で満たしたりとか、プラス方向だけじゃなくて。使いようによっては、国を滅ぼすことだって可能だろう。

恐ろしい力だけど。
神様はきっと、俺ならこの力を悪用しないって信じて与えてくれたんだと思う。

だって。傍に寄るのも嫌がられるような厄病神扱いは、もうごめんだ。

俺が出逢った人たちには、笑顔でいて欲しいから。
神様からもらったこの力で、出来るだけ多くの人を救いたいと思う。
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