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砂漠の王との結婚
結婚式の日
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アーディルの補佐役であるイムラーンが、ワーヒド国を案内しながら、この世界の歴史を教えてくれた。
アーディルが他の国に俺のオアシスを作る力を分け与えたくなかったのには、個人的な我儘で言ってたんじゃんじゃなくて、ちゃんとした理由があったんだって事も。
それは、隣国であるイスナーン国の国王であるハカムが残忍で、やたらと好戦的な性格であるからだという。
ハカムはイスナーン国を侵略する前に、他のオアシスも、元々いた人たちを虐殺して奪い、自分のものにして使い潰してきた。
ワーヒド王国は昔から剣術や攻撃魔法の研究でも他国の先を進んでいて、今まではイスナーンや他国が攻撃してきても難なく撃退してきたそうだ。
でも、ハカムの卑怯な手段によって前王が襲われて、命を落としてしまった。
アーディルが王位を継いでからは、警備が強化されて、国内に侵入を許してないそうだけど。
そのような危険な国まで富ませて、国力を上げさせてしまってはろくなことにならない、というのがアーディルの意見だという。
それならそうと、最初に言ってくれれば良かったのに。
俺だって、考え無しにオアシスを作りまくるのも善し悪しだって、制限したよ。
悪人にまで親切にしてあげようとか思わないし。俺はそこまで善人でもない。
実際、俺が神様から遣わされた天使だったら。人類みんな平等にオアシスを与えなくちゃいけなかったのかな?
神様からは特に何をしろ、とかの指示はされなかったんだけど。
一国だけを贔屓しちゃいけないのだろうか?
でも、まだこの国ではアーディルとイムラーンの話しか聞いてないからな。
この話が本当かどうか、判別できないのが問題かもしれない。
話を聞くのが片一方だけでは、どうしても、個人的な主観が入ってしまうものだ。
不公平な判断をしないためには、イスナーン側の言い分も聞いてみたいところだけど。
残虐だっていう噂のある王様に逢うのは、ちょっとどころじゃなくこわいかな……。
†††
ワーヒド王国に攫われて、アーディルのものにされたあの朝から、一週間が経った。
つまり。
俺とアーディルの結婚式の日が来たわけだ。
一方的に決められてしまった結婚だけど。何故だか嫌だとは思わないんだよな。
もしかしたら。
初めてオアシスでアーディルと出逢って。
射貫かれるような金色の瞳に目を奪われた、あの時。
俺もアーディルに一目惚れしていたのかも。
とか思ってしまったり。
……って、少女漫画じゃあるまいし。乙女かよ!
俺が来てから、この国のオアシスから湧き出る水量は安定して、以前よりも水が豊かになって。植物も良く育つようになったとの噂が一部で囁かれていたが。
結婚式の頃には、もう国民の間で、国王は水の精霊を娶った、故に国がかつてないほど潤っている、との話題でもちきりだそうだ。
俺は精霊とか天使ではないし。
予想とはかなり違った感じになってしまったけど。
神様に願った、他人から必要とされる、俺がいることで感謝される、という条件は叶ったわけだ。
お風呂を作ってもらって快適だし。ご飯も口に合った。
”王様の寵姫”という立場のおかげか、衣食住全く困らない、上げ膳据え膳生活だ。
アーディルの腕に抱かれるのは心地好いし。エッチも気持ちいいし。
もう、人生リセットしなくてもいいかも……と思い始めている。
現金かな?
ただ、アーディルには改善してもらいたいことがある。
アーディルが絶倫すぎること。
体力の差がありすぎて、身体がついていかないこと。毎回気絶寸前まで抱かれてしまうから、せめて、回数を減らして欲しい……くらいかな?
†††
「用意は出来たか? もういいか?」
また、アーディルが控え室に顔を出した。
もう。何十回目だよ? 一分ごとに来てないか?
そわそわしすぎだってば。
落ち着かないのは、俺もだけど。
「もうじきですから、花婿の控え室でお待ちください!」
俺の世話係につけられたセーレムが、いい加減うんざりした顔で答えた。
豪奢な衝立があるので姿は見えないが。アーディルの方はすでに着替え終わったようだ。
この世界での花婿の衣装ってどんな感じなのか、俺も気になる。
アーディルは顔もスタイルも完璧だから、どんな格好でも似合ってて格好良いに違いないことは確定してるけどな!
「……ありがとうございます」
セーレムが呟いた。
「前王亡き後、スルタンの笑顔が見られるようになったのは、全てお妃さまのお陰です」
アーディルは、前王に劣らぬ立派な王になろうと、ずっと張り詰めていたようで。
国王を継いでからはずっと、皆に厳しい顔しか見せなかったという。
「どうか、お幸せに……」
願うように言われて。
アーディルは臣下から本当に慕われているんだな、としみじみ感じた。
「ええい、花嫁の支度はまだか! この私を待たせているのだぞ!」
駄々っ子みたいなアーディルに。
思わずセーレムと顔を合わせて笑ってしまった。
「……はいはい、もうよろしいですよ!」
頭にかぶる布を調整して、セーレムが立ち上がった。
「おお、待ち侘びたぞ!」
セーレムの許可と共に、衝立を蹴倒して。
花婿が入って来た。
世にも美しい、俺の花婿が。
†††
黒装束なのは相変わらずだけど。
金糸の模様の入った豪奢な花婿衣装に包まれたアーディルは、想像以上に。輝くほど美しかった。
世界で一番美しい花婿は。
こっちを見て。ぽかんとした顔で固まっている。
俺の服は、アーディルのと色違いの、金糸の模様の入った薄い青の衣装だ。
やっぱり俺にこんな格好、似合ってなかったのか? と不安になったが。
そっと頬に触れられて。
ベッドで見せるようなエロい顔をして、囁いた。
「……私の花嫁があまりに美しすぎて、今すぐサリールへ連れ去りたくなった」
耳元で囁かれる、低く甘い声に。
条件反射みたいに、身体が熱くなってきてしまう。
こうやって、いつも所かまわず恥ずかしい事ばかり言うんだから、困る。
「アーディルは、目をどうかしてるんじゃないか? べ、別に、普段と変わらないだろ?」
いつもよりも格好良く見えるアーディルの姿を直視できなくて。
あらぬ方に視線を逸らしてしまう。
アーディルが他の国に俺のオアシスを作る力を分け与えたくなかったのには、個人的な我儘で言ってたんじゃんじゃなくて、ちゃんとした理由があったんだって事も。
それは、隣国であるイスナーン国の国王であるハカムが残忍で、やたらと好戦的な性格であるからだという。
ハカムはイスナーン国を侵略する前に、他のオアシスも、元々いた人たちを虐殺して奪い、自分のものにして使い潰してきた。
ワーヒド王国は昔から剣術や攻撃魔法の研究でも他国の先を進んでいて、今まではイスナーンや他国が攻撃してきても難なく撃退してきたそうだ。
でも、ハカムの卑怯な手段によって前王が襲われて、命を落としてしまった。
アーディルが王位を継いでからは、警備が強化されて、国内に侵入を許してないそうだけど。
そのような危険な国まで富ませて、国力を上げさせてしまってはろくなことにならない、というのがアーディルの意見だという。
それならそうと、最初に言ってくれれば良かったのに。
俺だって、考え無しにオアシスを作りまくるのも善し悪しだって、制限したよ。
悪人にまで親切にしてあげようとか思わないし。俺はそこまで善人でもない。
実際、俺が神様から遣わされた天使だったら。人類みんな平等にオアシスを与えなくちゃいけなかったのかな?
神様からは特に何をしろ、とかの指示はされなかったんだけど。
一国だけを贔屓しちゃいけないのだろうか?
でも、まだこの国ではアーディルとイムラーンの話しか聞いてないからな。
この話が本当かどうか、判別できないのが問題かもしれない。
話を聞くのが片一方だけでは、どうしても、個人的な主観が入ってしまうものだ。
不公平な判断をしないためには、イスナーン側の言い分も聞いてみたいところだけど。
残虐だっていう噂のある王様に逢うのは、ちょっとどころじゃなくこわいかな……。
†††
ワーヒド王国に攫われて、アーディルのものにされたあの朝から、一週間が経った。
つまり。
俺とアーディルの結婚式の日が来たわけだ。
一方的に決められてしまった結婚だけど。何故だか嫌だとは思わないんだよな。
もしかしたら。
初めてオアシスでアーディルと出逢って。
射貫かれるような金色の瞳に目を奪われた、あの時。
俺もアーディルに一目惚れしていたのかも。
とか思ってしまったり。
……って、少女漫画じゃあるまいし。乙女かよ!
俺が来てから、この国のオアシスから湧き出る水量は安定して、以前よりも水が豊かになって。植物も良く育つようになったとの噂が一部で囁かれていたが。
結婚式の頃には、もう国民の間で、国王は水の精霊を娶った、故に国がかつてないほど潤っている、との話題でもちきりだそうだ。
俺は精霊とか天使ではないし。
予想とはかなり違った感じになってしまったけど。
神様に願った、他人から必要とされる、俺がいることで感謝される、という条件は叶ったわけだ。
お風呂を作ってもらって快適だし。ご飯も口に合った。
”王様の寵姫”という立場のおかげか、衣食住全く困らない、上げ膳据え膳生活だ。
アーディルの腕に抱かれるのは心地好いし。エッチも気持ちいいし。
もう、人生リセットしなくてもいいかも……と思い始めている。
現金かな?
ただ、アーディルには改善してもらいたいことがある。
アーディルが絶倫すぎること。
体力の差がありすぎて、身体がついていかないこと。毎回気絶寸前まで抱かれてしまうから、せめて、回数を減らして欲しい……くらいかな?
†††
「用意は出来たか? もういいか?」
また、アーディルが控え室に顔を出した。
もう。何十回目だよ? 一分ごとに来てないか?
そわそわしすぎだってば。
落ち着かないのは、俺もだけど。
「もうじきですから、花婿の控え室でお待ちください!」
俺の世話係につけられたセーレムが、いい加減うんざりした顔で答えた。
豪奢な衝立があるので姿は見えないが。アーディルの方はすでに着替え終わったようだ。
この世界での花婿の衣装ってどんな感じなのか、俺も気になる。
アーディルは顔もスタイルも完璧だから、どんな格好でも似合ってて格好良いに違いないことは確定してるけどな!
「……ありがとうございます」
セーレムが呟いた。
「前王亡き後、スルタンの笑顔が見られるようになったのは、全てお妃さまのお陰です」
アーディルは、前王に劣らぬ立派な王になろうと、ずっと張り詰めていたようで。
国王を継いでからはずっと、皆に厳しい顔しか見せなかったという。
「どうか、お幸せに……」
願うように言われて。
アーディルは臣下から本当に慕われているんだな、としみじみ感じた。
「ええい、花嫁の支度はまだか! この私を待たせているのだぞ!」
駄々っ子みたいなアーディルに。
思わずセーレムと顔を合わせて笑ってしまった。
「……はいはい、もうよろしいですよ!」
頭にかぶる布を調整して、セーレムが立ち上がった。
「おお、待ち侘びたぞ!」
セーレムの許可と共に、衝立を蹴倒して。
花婿が入って来た。
世にも美しい、俺の花婿が。
†††
黒装束なのは相変わらずだけど。
金糸の模様の入った豪奢な花婿衣装に包まれたアーディルは、想像以上に。輝くほど美しかった。
世界で一番美しい花婿は。
こっちを見て。ぽかんとした顔で固まっている。
俺の服は、アーディルのと色違いの、金糸の模様の入った薄い青の衣装だ。
やっぱり俺にこんな格好、似合ってなかったのか? と不安になったが。
そっと頬に触れられて。
ベッドで見せるようなエロい顔をして、囁いた。
「……私の花嫁があまりに美しすぎて、今すぐサリールへ連れ去りたくなった」
耳元で囁かれる、低く甘い声に。
条件反射みたいに、身体が熱くなってきてしまう。
こうやって、いつも所かまわず恥ずかしい事ばかり言うんだから、困る。
「アーディルは、目をどうかしてるんじゃないか? べ、別に、普段と変わらないだろ?」
いつもよりも格好良く見えるアーディルの姿を直視できなくて。
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