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ワーヒド国にて
砂漠の王宮に攫われる
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どうやらこの世界には、名字というものが存在しなかったようだ。
他人に名乗る時は、国名、または村の名前と身分、自分の名前という順で名乗るみたい。
一般人は、国名と自分の名前だけ。自国内では名前だけ名乗る感じ。
神様の島、という名前は児童養護施設の所長の名前だし。偶然だったんだろうけど。
俺が”神の島”から来た、ということで納得したようだ。
そして、”マラーク”というのは神様のお使い……天使のようなものを意味する言葉だった。
……俺は、そんないいものじゃないけどな。
一瞬、そう考えたけど。
でも、今の俺は、神様によってこの世界に転生した存在だから、別に神様の使いってことでもいいんだ、と思い直した。
これまで厄病神扱いされてきたせいで、かなり卑屈になってる自覚はある。
でももう、神様によって幸運値とやらも修正されただろうし。オアシスを作る能力も得たんだ。今までの俺とは違う……はず。
これからは、他人から感謝される人生を送ることも可能だろうし。
前向きにいかないと。
†††
王様は、俺を頭上に掲げていた腕を少し曲げて。
ずい、と顔を近づけてきた。
「それで。私はそなたを何と呼べばよいのだ? 愛らしいマラークよ」
うう。美形のアップは圧が半端ない。
睫毛長いし。目力強すぎる。
「瑞樹、でいいです……」
「そうか。ではミズキよ。その愛らしい唇で、小鳥のような声で。そなたの夫となる我が名を呼ぶがいい。さあ、」
何かこの人、ぐいぐい来るな。
うわあ、呼びたくない。
ものすごく呼びたくなくなったんですけど!
「いや、俺は砂漠にオアシスを作るために、この世界に来たのであって。あなたの嫁になるために来たんじゃないんで」
ここはちゃんと、きっぱり断っておこう。
いくら相手が、つい見惚れてしまうような超絶美形の王様でも。せっかく生まれ変わって異世界にまで来たというのに。男の嫁になりたいとは思わない。
王子様を夢見る乙女じゃあるまいし。そんなシンデレラストーリーは求めてない。
「……ではここは、真実、そなたが作ったワーハだと云うのか?」
王様は俺をリフトしたまま、俺が作ったオアシスをぐるりと見回した。
どうやらワーハというのは、オアシスのことを差すらしい。
所々わからない単語はあるものの。
言葉が通じるのは便利だ。これも神様のサービスだろうか?
しかし、どうせサービスしてくれるのなら、初っ端からこんな変な人じゃなく、まともな人と逢いたかったけど。贅沢は言うまい。
前の、不運だらけの人生よりはマシだろう。……マシだよな?
「うん。証拠を見せるから、いい加減地面に降ろしてくれる?」
まだ高い高いされたままだったので、静かに抗議すると。
王様は、嫌そうに、渋々俺を地面に降ろした。
そんなに俺をリフトしたままでいたかったのだろうか。
筋トレか、力持ち自慢か?
王様の腕から逃れて。
オアシスから出て、砂に手をかざしてみせる。
「今から、そこに水を湧かせるから。見てて」
†††
水が湧くように念じる。
渇いた砂は水を含み、色を変えて。
みるみる水が湧いてくる。
「おお……、」
感嘆の声が上がった。
「……こんな感じかな?」
水を湧かすのを途中でやめると。
水は、瞬く間に砂漠に沁み込んで消えていった。
かなり渇いた世界なようだ。
この砂漠一面を、オアシスに。緑に染めたら。この世界の人たちから感謝されて、喜ばれるだろうか?
やたら広い分、やりがいがありそうだ。
「まこと、神の御使いであられたか……!」
「おお、神よ……!」
男たちは俺の前に跪いて。顔の前で手を組み、頭を下げた。
この仕草が、彼らにとって最敬礼のようだ。
でも、王様は立ったままで、俺の隣にいる。
王様って、神様の使いより偉い立場なのだろうか? 別に、跪いて欲しいわけじゃないからいいけど。
「……そなたは、頼まれれば何処の誰であろうが、こうしてワーハを作ってやるつもりなのか?」
王様は、背後にあるオアシスに視線を向けた。
「たぶん。それが俺のここでの役目だと思うから」
頷いてみせる。
人から必要とされたい。
出逢った人が皆、俺がここにいることを感謝してくれる。
そんな人生を送りたい。
それが俺の願いだった。
だから神様は俺に、この砂漠の世界でオアシスを作る能力を与えてくれたんだろう。
乾いた世界を潤すために。
「……ならば、そなたを自由にするわけにはいかぬ」
王様は、先ほどまでとは違う、厳しい表情をして言った。
さすが王様というか、威圧感がある表情だった。
「え?」
突然、視界が反転した。
王様は、俺を小脇に抱えた状態で、巨大トカゲに飛び乗ったのだった。
†††
いったい、これはどういうことなんだ?
……神様が直々に謝罪してくれて。
手違いでゼロだったっていう幸運値を見直して。修正してくれたんだよな?
俺が希望する世界に送ってくれた、はず。
だよな?
それなのに。
砂漠の異世界に来て。
一番最初に出逢った、いきなり嫁にしようとしてくる電波系な王様にプロポーズ? されて。
オアシスを作りたいって言ったら、いきなり拉致られて。
あれよあれよという間に王宮に連れて来られて。
王宮の一室に監禁されて。
しまいには鎖で繋がれて、ベッドに拘束されるって。
とんでもなく不幸なことじゃないのか?
ちょっと神様。
俺の不幸体質、全然少しも治ってなくない!?
他人に名乗る時は、国名、または村の名前と身分、自分の名前という順で名乗るみたい。
一般人は、国名と自分の名前だけ。自国内では名前だけ名乗る感じ。
神様の島、という名前は児童養護施設の所長の名前だし。偶然だったんだろうけど。
俺が”神の島”から来た、ということで納得したようだ。
そして、”マラーク”というのは神様のお使い……天使のようなものを意味する言葉だった。
……俺は、そんないいものじゃないけどな。
一瞬、そう考えたけど。
でも、今の俺は、神様によってこの世界に転生した存在だから、別に神様の使いってことでもいいんだ、と思い直した。
これまで厄病神扱いされてきたせいで、かなり卑屈になってる自覚はある。
でももう、神様によって幸運値とやらも修正されただろうし。オアシスを作る能力も得たんだ。今までの俺とは違う……はず。
これからは、他人から感謝される人生を送ることも可能だろうし。
前向きにいかないと。
†††
王様は、俺を頭上に掲げていた腕を少し曲げて。
ずい、と顔を近づけてきた。
「それで。私はそなたを何と呼べばよいのだ? 愛らしいマラークよ」
うう。美形のアップは圧が半端ない。
睫毛長いし。目力強すぎる。
「瑞樹、でいいです……」
「そうか。ではミズキよ。その愛らしい唇で、小鳥のような声で。そなたの夫となる我が名を呼ぶがいい。さあ、」
何かこの人、ぐいぐい来るな。
うわあ、呼びたくない。
ものすごく呼びたくなくなったんですけど!
「いや、俺は砂漠にオアシスを作るために、この世界に来たのであって。あなたの嫁になるために来たんじゃないんで」
ここはちゃんと、きっぱり断っておこう。
いくら相手が、つい見惚れてしまうような超絶美形の王様でも。せっかく生まれ変わって異世界にまで来たというのに。男の嫁になりたいとは思わない。
王子様を夢見る乙女じゃあるまいし。そんなシンデレラストーリーは求めてない。
「……ではここは、真実、そなたが作ったワーハだと云うのか?」
王様は俺をリフトしたまま、俺が作ったオアシスをぐるりと見回した。
どうやらワーハというのは、オアシスのことを差すらしい。
所々わからない単語はあるものの。
言葉が通じるのは便利だ。これも神様のサービスだろうか?
しかし、どうせサービスしてくれるのなら、初っ端からこんな変な人じゃなく、まともな人と逢いたかったけど。贅沢は言うまい。
前の、不運だらけの人生よりはマシだろう。……マシだよな?
「うん。証拠を見せるから、いい加減地面に降ろしてくれる?」
まだ高い高いされたままだったので、静かに抗議すると。
王様は、嫌そうに、渋々俺を地面に降ろした。
そんなに俺をリフトしたままでいたかったのだろうか。
筋トレか、力持ち自慢か?
王様の腕から逃れて。
オアシスから出て、砂に手をかざしてみせる。
「今から、そこに水を湧かせるから。見てて」
†††
水が湧くように念じる。
渇いた砂は水を含み、色を変えて。
みるみる水が湧いてくる。
「おお……、」
感嘆の声が上がった。
「……こんな感じかな?」
水を湧かすのを途中でやめると。
水は、瞬く間に砂漠に沁み込んで消えていった。
かなり渇いた世界なようだ。
この砂漠一面を、オアシスに。緑に染めたら。この世界の人たちから感謝されて、喜ばれるだろうか?
やたら広い分、やりがいがありそうだ。
「まこと、神の御使いであられたか……!」
「おお、神よ……!」
男たちは俺の前に跪いて。顔の前で手を組み、頭を下げた。
この仕草が、彼らにとって最敬礼のようだ。
でも、王様は立ったままで、俺の隣にいる。
王様って、神様の使いより偉い立場なのだろうか? 別に、跪いて欲しいわけじゃないからいいけど。
「……そなたは、頼まれれば何処の誰であろうが、こうしてワーハを作ってやるつもりなのか?」
王様は、背後にあるオアシスに視線を向けた。
「たぶん。それが俺のここでの役目だと思うから」
頷いてみせる。
人から必要とされたい。
出逢った人が皆、俺がここにいることを感謝してくれる。
そんな人生を送りたい。
それが俺の願いだった。
だから神様は俺に、この砂漠の世界でオアシスを作る能力を与えてくれたんだろう。
乾いた世界を潤すために。
「……ならば、そなたを自由にするわけにはいかぬ」
王様は、先ほどまでとは違う、厳しい表情をして言った。
さすが王様というか、威圧感がある表情だった。
「え?」
突然、視界が反転した。
王様は、俺を小脇に抱えた状態で、巨大トカゲに飛び乗ったのだった。
†††
いったい、これはどういうことなんだ?
……神様が直々に謝罪してくれて。
手違いでゼロだったっていう幸運値を見直して。修正してくれたんだよな?
俺が希望する世界に送ってくれた、はず。
だよな?
それなのに。
砂漠の異世界に来て。
一番最初に出逢った、いきなり嫁にしようとしてくる電波系な王様にプロポーズ? されて。
オアシスを作りたいって言ったら、いきなり拉致られて。
あれよあれよという間に王宮に連れて来られて。
王宮の一室に監禁されて。
しまいには鎖で繋がれて、ベッドに拘束されるって。
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