6 / 91
異世界へ
砂漠の王様に抱きしめられる
しおりを挟む
「……へ?」
腰と、背中に回された、力強い腕の感触。
硬い胸板。
俺は、”スルタン”と呼ばれた黒装束の美形に、ぎゅっと抱き締められていたのだった。
しかも、無邪気に喜んでいるような、全開の笑顔で。
こんな風に、笑顔で抱き締められたのは。記憶にある限り、初めてのことだ。
だから、抵抗するのも忘れて。ただ、戸惑ってしまった。
外国人はハグとか簡単にするらしいが。そんな感じだろうか? でも、ハグって普通は家族とか、仲の良い友人にするのでは? 初対面の相手にするものか?
わからない。
だって、そもそも、今まで他人からこんな風に好意を示されたことも、抱きしめられたこともなかったんだから。
それにしても。
こいつ、背、でかいな……。
胸板が俺の顔に当たってるってことは、190センチはあるだろう。それに、腕や胸板の感触からして、鍛えられた、かなりいい身体をしている。
男としてのコンプレックスを刺激されて。
……なんか、ムカついてきた。
「これは、運命の出逢いである!」
「うわあ!?」
突然、両脇を持たれて。軽く頭上に持ち上げられてしまった。
高い高いされるのも、生まれて初めて……だと思う。
どうせなら、子供の時にされたかった。
もう18にもなるのに。軽く持ち上げられても、少しも嬉しくない。
「見よ、この愛らしい姿を。私の理想そのものではないか!」
全開の笑顔で俺を持ち上げたまま、何だかおかしなことを言ってる。
愛らしい? 誰が? 俺!?
「このような軽装で、突如現れたワーハにいたのだぞ。ただの人間であるわけがない。神より遣わされた、マラークに違いなかろう!」
†††
どうやら、俺のいたこの場所は、周囲に何も無い、砂漠のど真ん中だったようだ。
確かに景色は一面、砂漠だったっけ。
隣の国からも相当遠くて。移動手段もなく、日除け用の布もないこんな格好でいたら、一日ももたず干からびて死んでいるという。
うわあ。
砂漠って、恐ろしいんだな。
やはり、こんな布の服一枚では砂漠に向かないようだ。
そんな恰好で放置するなんてひどい。
誰かに拾ってもらうこと前提で、ここに放置されたのだろうか?
確かに、俺がオアシスを作ったら、すぐに来たもんな。長袖で裾の長い服は暑そうだけど、日陰に入れば涼しかったし。
この人たちみたいに、肌はなるべく隠した方がいいのかも。
後で服とかもらえるかなあ?
などと現実逃避してみる俺だった。
「……ここには、神様に送られて来たっていうのは正解だけど。マラークって何?」
訊いてみると。
「! やはり、神の使いであったか!」
全開の笑顔をこっちに向けられて。
不覚にも、またドキッとしてしまった。
超絶美形の笑顔は、男女問わず破壊力があるのだと知った。
スルタンとやらは、部下らしい人たちに向き直って。
きっぱり言い放った。
「決めたぞ。私はこの者を手元で育て、王妃にする」
……何かこの人、今、とんでもないことを言っている気がする。
気のせいだと思いたい。
「スルタン!?」
「突然何を仰るのです!」
部下らしき髭のおっさんたちはおろおろしている。
本当だよ。
何が言いたいんだかさっぱりだ。
それでもって、人の話を全く聞かないタイプだと思った。部下の人たちも大変だ。
上司がこう破天荒だと困るよなあ。
「あの……スルタン、さん?」
恐る恐る声をかけると。
「スルタンは、階級を表す敬称である。私は偉大なるワーヒドのマリク、アーディル。そなたは特別にアーディルと呼ぶことを許す。光栄に思え」
笑顔で言われた。上から目線で。
†††
マリクは王様、マリカは王妃のことらしい。
ああ、何かナチュラルに偉そうだと思ったら、王子様じゃなくて王様だったのか。納得。
一人だけ黒装束で、上質そうな布を金色の紐で留めてるのも王様だからかな? 暑いだろうに。偉い人も大変だなあ。
「愛らしい私のマラークよ、そなたの名を、私は何と呼べば良い?」
王様はずっと笑顔だ。
……っていうか、俺はあんたのモノじゃないから。
「……だから、マラークって何? 俺は、神島瑞樹って名前の……」
ただの高校生だ、って言おうとして。思い留まった。
だって、その身分は、前の世界のもので。
日本で高校生だった俺は、もう死んだんだから。
ここでの、今の俺の身分は何だろう? 説明に困るな。
神様の使い、でいいのかな?
「……神島瑞樹。もうすぐ18歳なので、育てて頂かなくて結構です」
何となく、神様の使いを自称するのも憚られるので。とりあえず名前と年齢だけ言うことにした。
日本人は若く見えるらしいとはいえ、何歳だと思われてるか知らないが。
今からこの人に育ててもらうほど子供ではないことは、声を大にして言いたい。
「何と。小さき身ゆえ、子供かと思えば。大人であったか。カミスィマミズキ? 不思議な名だ」
首を傾げた。
……小さくない。
170センチは決して小さくはないと思う。
あんたらがでかすぎるんだよ! くそ、軽々と持ち上げやがって。
頭突きでもかましてやりたくなったけど。相手は一国の王様である。我慢だ我慢。
「いや、神島は名字で、瑞樹が名前」
「? 天界にはカミスィマという国があるのか? それともそれは役職か?」
首を傾げている。
「……え?」
腰と、背中に回された、力強い腕の感触。
硬い胸板。
俺は、”スルタン”と呼ばれた黒装束の美形に、ぎゅっと抱き締められていたのだった。
しかも、無邪気に喜んでいるような、全開の笑顔で。
こんな風に、笑顔で抱き締められたのは。記憶にある限り、初めてのことだ。
だから、抵抗するのも忘れて。ただ、戸惑ってしまった。
外国人はハグとか簡単にするらしいが。そんな感じだろうか? でも、ハグって普通は家族とか、仲の良い友人にするのでは? 初対面の相手にするものか?
わからない。
だって、そもそも、今まで他人からこんな風に好意を示されたことも、抱きしめられたこともなかったんだから。
それにしても。
こいつ、背、でかいな……。
胸板が俺の顔に当たってるってことは、190センチはあるだろう。それに、腕や胸板の感触からして、鍛えられた、かなりいい身体をしている。
男としてのコンプレックスを刺激されて。
……なんか、ムカついてきた。
「これは、運命の出逢いである!」
「うわあ!?」
突然、両脇を持たれて。軽く頭上に持ち上げられてしまった。
高い高いされるのも、生まれて初めて……だと思う。
どうせなら、子供の時にされたかった。
もう18にもなるのに。軽く持ち上げられても、少しも嬉しくない。
「見よ、この愛らしい姿を。私の理想そのものではないか!」
全開の笑顔で俺を持ち上げたまま、何だかおかしなことを言ってる。
愛らしい? 誰が? 俺!?
「このような軽装で、突如現れたワーハにいたのだぞ。ただの人間であるわけがない。神より遣わされた、マラークに違いなかろう!」
†††
どうやら、俺のいたこの場所は、周囲に何も無い、砂漠のど真ん中だったようだ。
確かに景色は一面、砂漠だったっけ。
隣の国からも相当遠くて。移動手段もなく、日除け用の布もないこんな格好でいたら、一日ももたず干からびて死んでいるという。
うわあ。
砂漠って、恐ろしいんだな。
やはり、こんな布の服一枚では砂漠に向かないようだ。
そんな恰好で放置するなんてひどい。
誰かに拾ってもらうこと前提で、ここに放置されたのだろうか?
確かに、俺がオアシスを作ったら、すぐに来たもんな。長袖で裾の長い服は暑そうだけど、日陰に入れば涼しかったし。
この人たちみたいに、肌はなるべく隠した方がいいのかも。
後で服とかもらえるかなあ?
などと現実逃避してみる俺だった。
「……ここには、神様に送られて来たっていうのは正解だけど。マラークって何?」
訊いてみると。
「! やはり、神の使いであったか!」
全開の笑顔をこっちに向けられて。
不覚にも、またドキッとしてしまった。
超絶美形の笑顔は、男女問わず破壊力があるのだと知った。
スルタンとやらは、部下らしい人たちに向き直って。
きっぱり言い放った。
「決めたぞ。私はこの者を手元で育て、王妃にする」
……何かこの人、今、とんでもないことを言っている気がする。
気のせいだと思いたい。
「スルタン!?」
「突然何を仰るのです!」
部下らしき髭のおっさんたちはおろおろしている。
本当だよ。
何が言いたいんだかさっぱりだ。
それでもって、人の話を全く聞かないタイプだと思った。部下の人たちも大変だ。
上司がこう破天荒だと困るよなあ。
「あの……スルタン、さん?」
恐る恐る声をかけると。
「スルタンは、階級を表す敬称である。私は偉大なるワーヒドのマリク、アーディル。そなたは特別にアーディルと呼ぶことを許す。光栄に思え」
笑顔で言われた。上から目線で。
†††
マリクは王様、マリカは王妃のことらしい。
ああ、何かナチュラルに偉そうだと思ったら、王子様じゃなくて王様だったのか。納得。
一人だけ黒装束で、上質そうな布を金色の紐で留めてるのも王様だからかな? 暑いだろうに。偉い人も大変だなあ。
「愛らしい私のマラークよ、そなたの名を、私は何と呼べば良い?」
王様はずっと笑顔だ。
……っていうか、俺はあんたのモノじゃないから。
「……だから、マラークって何? 俺は、神島瑞樹って名前の……」
ただの高校生だ、って言おうとして。思い留まった。
だって、その身分は、前の世界のもので。
日本で高校生だった俺は、もう死んだんだから。
ここでの、今の俺の身分は何だろう? 説明に困るな。
神様の使い、でいいのかな?
「……神島瑞樹。もうすぐ18歳なので、育てて頂かなくて結構です」
何となく、神様の使いを自称するのも憚られるので。とりあえず名前と年齢だけ言うことにした。
日本人は若く見えるらしいとはいえ、何歳だと思われてるか知らないが。
今からこの人に育ててもらうほど子供ではないことは、声を大にして言いたい。
「何と。小さき身ゆえ、子供かと思えば。大人であったか。カミスィマミズキ? 不思議な名だ」
首を傾げた。
……小さくない。
170センチは決して小さくはないと思う。
あんたらがでかすぎるんだよ! くそ、軽々と持ち上げやがって。
頭突きでもかましてやりたくなったけど。相手は一国の王様である。我慢だ我慢。
「いや、神島は名字で、瑞樹が名前」
「? 天界にはカミスィマという国があるのか? それともそれは役職か?」
首を傾げている。
「……え?」
45
お気に入りに追加
1,696
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートの威力はすさまじくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる