50 / 51
黒の王とスキーに行く
アブヤド、初めての恋
しおりを挟む
「っ!?」
ザラームの唇に、わたしの唇を合わせた。
合わせたというよりは、ぶつける勢いであったけれど。
「え、アブヤド?」
ザラームは目をみひらいた。
「わ、わたしのはじめての接吻を奪ったのです。責任取って、長生きしてもらわねば困ります!」
奪ったのはわたしである。
もはや支離滅裂だ。
◆◇◆
ザラームは大笑いしている。
「接吻って。今のは、頭突きの間違いじゃないのか?」
うう。
「……ほんとの接吻というのはな、」
こういうもんだ、と。
「んぅ、」
頭を引き寄せられた。
”ほんとの接吻”は。
甘い、氷菓子の味がした。
「……ん、」
唇が離れた。
「色っぽい顔しちゃってまあ。……これは、責任取らなくちゃだな?」
頭を撫でられる。
「はい。わたしが死ぬまで、死ぬことを赦しません」
「……すげえプロポーズ聞いた気がするんだが。自覚はあるのか? ぼっちゃんよ」
「?」
「ジジイには眩しすぎるぜ……」
ザラームの背に、手を回す。
見た目は若いのに。中身はぼろぼろである。
生きる気力を手放してしまったせいであろうか?
ザラームの死滅していた細胞を修復していると。
それ以上の速度で、細胞の修復が始まった。
速い。
能力の強さより、熟練度のほうが上回るのか。
「ありがとう。生きる気力がわいてきた」
抱き締められ、接吻された。
頬に。
親が、子にするような。親愛をこめた接吻を。
そこではじめて、気付いた。
……ああ、わたしは。
ザラームに、恋をしたのだ。
◆◇◆
大変な相手を好きになってしまった。
相手は318歳で。
恋敵は、自分の母上だという。
母上はわたしなどよりずっと愛らしくて。誰もが母上を好きになる。
300年もの間、追い求めていたのに。
母上の幸福を願い、身を引こうと思うほどの、深い愛。
敵う気がしない。
恋というものは、幸福なものだと思っていた。
きらきらと、世界が輝いて見えるような。
なのに。
このように、苦しいものだとは知らなかった。
恋だと気付かなければよかった。
このように、ぴったりと肌が密着するほど、抱き合っているのに。
心は遠い。
「ええと。……これからは、ちゃんと頑張って生きるので。そろそろ、その、」
ザラームが、気まずそうな声で。
「若くてかわいいのに乗っかられてるとな、いかな俺でも、そろそろ、我慢の限界というか。身体を活性化したら、あっちも活性化したっつーか、」
何やらしどろもどろになっている。
「……?」
何か、おしりに当たっているような。
触れてみたら。
「うっ、」
丸みのある、この形。
あ、脈打ってる。
これ、ザラームの男のあかし?
でも。先端がここまで来るなど、有り得るのだろうか?
充血して、体積が増したのだろうか?
父上のも、ご立派であったけれど。
このような状態ではなかった。
……わたしに、反応した?
わたしの身体に?
さきほどまで、命を手放そうとしていたのに。
……このように、熱くして。
◆◇◆
「ちょ、それは、撫でちゃ、いけません、……くっ、」
何で敬語になってるの?
ザラームはわたしの腕を掴んで、そこから離そうとした。
すごい力だ。
わたしはもう子供ではないから、知っている。
ここを擦ると、とても気持ちが良いのを。
なのに、どうしてやめさせようとするのであろうか。
「ザラームが元気になってくれて、とてもうれしいです」
「いや、確かに、元気だけれども!?」
「ちょ、」
額に接吻をしようとしたのに、避けられてしまった。残念。
さすがに勘が鋭い。
「……今、何しようとしてたのかな?」
「わたしの印を授けようかと」
「俺が后!?」
「名称など、どうでも良いのです。わたしはザラームと契りを結びたい。……どうかわたしの印を、受け入れてください」
その気になれば、わたしのほうが印の力は上である。
いざ。
「ぎゃー!?」
「王子、いかがなされました!?」
ラク。
「……これは、どのような状況で?」
ラクは微妙な顔をしていた。
「今まさに、俺の貞操がピンチ」
「ザラームに求愛してるところー」
わたしがザラームを押し倒しているかたちであった。
◆◇◆
「ムリヤリはいけません」
ラクに、こってり叱られてしまった。
「でも、途中までは良い雰囲気だったんだよ。ほんとの接吻を教えてくれたし!」
湯上りの牛乳は格別である。
のぼせかけていたし。
ザラームはコーヒー牛乳とやらを飲んでいる。そちらも美味しそう。
「……ほんとの接吻? ……ザラーム王……? それはいったい、どういうことなのでしょう」
「面目次第もございません」
ザラームは頭を下げた。
すごいよラク。
神王に謝罪をさせている……。
「王子。ザラーム王は、イチ様の夫ですよ?」
そんなこと。
改めて諭されなくても。
「知ってるもん」
「……アズラクには、ずいぶん甘えた口調なんだな?」
にやりと笑っている。
はっ。
わたしとしたことが、いつまでも子供気分で。
「ラクは、わたしが生まれたときよりずっと世話係をしてくれているもので、つい」
「じゃあ、かわいくてしょうがないだろう?」
ザラームはラクに言った。
「王子はいつでもかわいらしいですが何か?」
真顔で返した。
「人間ってのは、変わるもんだが。あいつは全然変わってなかった……」
ザラームは遠くを見るような目をして。
「そうですね。出逢った時と、全く変わりなく。驚きました」
母上のことだろう。
懐かしそうな顔をして。
ラクも。
あんなことを言っておいて。
わたしよりも母上を好いているのだ。
わたしが好きな人はみな、わたしよりも母上を好いている。
もう子供ではないから、わたしを見て。わたしを好きになって、と。
泣いて、我儘も言えないのだ。
大人とは、つまらないものだ。
ザラームの唇に、わたしの唇を合わせた。
合わせたというよりは、ぶつける勢いであったけれど。
「え、アブヤド?」
ザラームは目をみひらいた。
「わ、わたしのはじめての接吻を奪ったのです。責任取って、長生きしてもらわねば困ります!」
奪ったのはわたしである。
もはや支離滅裂だ。
◆◇◆
ザラームは大笑いしている。
「接吻って。今のは、頭突きの間違いじゃないのか?」
うう。
「……ほんとの接吻というのはな、」
こういうもんだ、と。
「んぅ、」
頭を引き寄せられた。
”ほんとの接吻”は。
甘い、氷菓子の味がした。
「……ん、」
唇が離れた。
「色っぽい顔しちゃってまあ。……これは、責任取らなくちゃだな?」
頭を撫でられる。
「はい。わたしが死ぬまで、死ぬことを赦しません」
「……すげえプロポーズ聞いた気がするんだが。自覚はあるのか? ぼっちゃんよ」
「?」
「ジジイには眩しすぎるぜ……」
ザラームの背に、手を回す。
見た目は若いのに。中身はぼろぼろである。
生きる気力を手放してしまったせいであろうか?
ザラームの死滅していた細胞を修復していると。
それ以上の速度で、細胞の修復が始まった。
速い。
能力の強さより、熟練度のほうが上回るのか。
「ありがとう。生きる気力がわいてきた」
抱き締められ、接吻された。
頬に。
親が、子にするような。親愛をこめた接吻を。
そこではじめて、気付いた。
……ああ、わたしは。
ザラームに、恋をしたのだ。
◆◇◆
大変な相手を好きになってしまった。
相手は318歳で。
恋敵は、自分の母上だという。
母上はわたしなどよりずっと愛らしくて。誰もが母上を好きになる。
300年もの間、追い求めていたのに。
母上の幸福を願い、身を引こうと思うほどの、深い愛。
敵う気がしない。
恋というものは、幸福なものだと思っていた。
きらきらと、世界が輝いて見えるような。
なのに。
このように、苦しいものだとは知らなかった。
恋だと気付かなければよかった。
このように、ぴったりと肌が密着するほど、抱き合っているのに。
心は遠い。
「ええと。……これからは、ちゃんと頑張って生きるので。そろそろ、その、」
ザラームが、気まずそうな声で。
「若くてかわいいのに乗っかられてるとな、いかな俺でも、そろそろ、我慢の限界というか。身体を活性化したら、あっちも活性化したっつーか、」
何やらしどろもどろになっている。
「……?」
何か、おしりに当たっているような。
触れてみたら。
「うっ、」
丸みのある、この形。
あ、脈打ってる。
これ、ザラームの男のあかし?
でも。先端がここまで来るなど、有り得るのだろうか?
充血して、体積が増したのだろうか?
父上のも、ご立派であったけれど。
このような状態ではなかった。
……わたしに、反応した?
わたしの身体に?
さきほどまで、命を手放そうとしていたのに。
……このように、熱くして。
◆◇◆
「ちょ、それは、撫でちゃ、いけません、……くっ、」
何で敬語になってるの?
ザラームはわたしの腕を掴んで、そこから離そうとした。
すごい力だ。
わたしはもう子供ではないから、知っている。
ここを擦ると、とても気持ちが良いのを。
なのに、どうしてやめさせようとするのであろうか。
「ザラームが元気になってくれて、とてもうれしいです」
「いや、確かに、元気だけれども!?」
「ちょ、」
額に接吻をしようとしたのに、避けられてしまった。残念。
さすがに勘が鋭い。
「……今、何しようとしてたのかな?」
「わたしの印を授けようかと」
「俺が后!?」
「名称など、どうでも良いのです。わたしはザラームと契りを結びたい。……どうかわたしの印を、受け入れてください」
その気になれば、わたしのほうが印の力は上である。
いざ。
「ぎゃー!?」
「王子、いかがなされました!?」
ラク。
「……これは、どのような状況で?」
ラクは微妙な顔をしていた。
「今まさに、俺の貞操がピンチ」
「ザラームに求愛してるところー」
わたしがザラームを押し倒しているかたちであった。
◆◇◆
「ムリヤリはいけません」
ラクに、こってり叱られてしまった。
「でも、途中までは良い雰囲気だったんだよ。ほんとの接吻を教えてくれたし!」
湯上りの牛乳は格別である。
のぼせかけていたし。
ザラームはコーヒー牛乳とやらを飲んでいる。そちらも美味しそう。
「……ほんとの接吻? ……ザラーム王……? それはいったい、どういうことなのでしょう」
「面目次第もございません」
ザラームは頭を下げた。
すごいよラク。
神王に謝罪をさせている……。
「王子。ザラーム王は、イチ様の夫ですよ?」
そんなこと。
改めて諭されなくても。
「知ってるもん」
「……アズラクには、ずいぶん甘えた口調なんだな?」
にやりと笑っている。
はっ。
わたしとしたことが、いつまでも子供気分で。
「ラクは、わたしが生まれたときよりずっと世話係をしてくれているもので、つい」
「じゃあ、かわいくてしょうがないだろう?」
ザラームはラクに言った。
「王子はいつでもかわいらしいですが何か?」
真顔で返した。
「人間ってのは、変わるもんだが。あいつは全然変わってなかった……」
ザラームは遠くを見るような目をして。
「そうですね。出逢った時と、全く変わりなく。驚きました」
母上のことだろう。
懐かしそうな顔をして。
ラクも。
あんなことを言っておいて。
わたしよりも母上を好いているのだ。
わたしが好きな人はみな、わたしよりも母上を好いている。
もう子供ではないから、わたしを見て。わたしを好きになって、と。
泣いて、我儘も言えないのだ。
大人とは、つまらないものだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
643
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる