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秋の国

印の持つ力

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エセルの耳たぶに、青くて丸い石みたいなのがあった。

これ、ピアスじゃなくて”印”だったのか。
じゃあ、俺の耳にも、似たようなのが付けられたということか?

触っても、何かついてるのはわかるけど。
形まではよくわかんないな。


翌朝になって。

『……子は授からなかったか』
エセルは残念そうに言った。


当たり前だぞ?
愛を育む時間とか、全くなかったよな? 出逢って即、押し倒されたようなもんだからな、俺。


『はじめてだったか? 無理をさせて、すまなかったな』
頬を撫でられる。

いや、初めてではないけど。
あんな大きさのは初めてです、はい。


◆◇◆


……落ち着いて考えたら。

最初の二人は、無理矢理っつーか、強引にヤられちゃったわけだけど。
ザラームの時は合意だったものの、流されてヤっちゃった感じだし。

今回のエセルも、ろくに抵抗もしないで、されちゃったわけで。


いくら異世界だといっても。
同性同士で子供が授かるっていう特異な環境だからって。

四人もの男と関係するって、どうなの!?
流されすぎにもほどがあるだろ!? 俺の貞操観念、こんなにゆるゆるだったのか。

清純な、童貞男子高校生だったのに……!!


何なの? 神様とやらはいったい、俺に何を望んでるんだよ!
言ってくれよ。

よくわかんないまま、時代も場所も飛ばされて。
何でだか王様にばっかり気に入られるとかさ。いくらこの世界じゃカワイイ存在だからって。
俺の常識が壊滅状態だよ!


ああ、普通の日常が恋しい。

っていうか。
元の世界に帰れたとして、”普通”に戻れるのか? 俺。

四人の王様に抱かれてる時点で、もう普通じゃない気がする。


◆◇◆


拝啓、両親及び祖母殿。それと我が子と孫と曾孫へ。


俺は今、”偉大なる皇帝の国”こと、”秋の国”で。
”偉大なる皇帝”エセル様とやらと結婚式を挙げています。

そろそろ、この国では人口の減少が深刻になってきてるようで。
この式を見て発奮して、国民が結婚に乗り気になってくれたらいいなあ、と神官が言ってました。

そうだね。
人口、増えたらいいね。


俺はここで、何をするべきなのかな?

夏の国は、わからないけど。とりあえず、子供は出来てたみたいだ。
春の国は、未来の話をして、発明王が未来の道具を作って。文化が飛躍的に発展したんだよな。
冬の国は、氷菓子や観光で復興したようだし。

……ま、いいか。なるようになれだ。


『イチ、もっと側においで』
膝の上に乗っけられて。ぎゅっと抱き締められる。

沿道から、冷やかしの口笛が。

みんな楽しそうだからいいけど。
幌をあけた幌馬車に乗って、国民に皇帝の結婚を知らせる祝賀パレードなるものをしている。


エセルは王冠を被って、金色の装飾の豪華な服を着ている。
婚礼用の礼服らしい。うん、眩しいほど美形だね。

俺は真っ白なドレスみたいな服に、レースを頭から被せられて、顔は隠されている。
手首と足首に、またもや小さな鈴がつけられてて。

動くと、しゃらしゃら鳴るんだけど。
これって。やっぱりあれか。


后妃、ってことになってるから、みんな、俺のことを女だと思ってるのかな? 顔見えないし。
まあ男でも、愛さえあれば子供が出来るんだが。


この世界の男女観、さっぱりわかんない。


◆◇◆


女の人、春の国ではわりと見たけど。沿道には、あんまりいないみたいだ。

……あ、いた。
やっぱ、スタイルいいなあ。


『后妃様、お幸せに!』

超絶美女に手を振られたので、手をひらひらと優雅そうに振り返してみたり。
すると、きゃあきゃあと嬉しそうだ。

美人が喜んでくれて、俺も嬉しい。
元の世界では、100%間違いなく絶対に天地がひっくり返っても有り得ないことだろうし。


……今、とんでもないことに気づいてしまったぞ。

胸元が大きく開いたドレス姿の美女を見てもドキドキしないって。
俺ってば、もしかして……。


いや違う。
美形過ぎて、人形を見るような、あれだ。

ほら、外国人のお姉ちゃんのヌードはなんか芸術っぽくて興奮しないけど、同級生の水着姿は生々しくてエッチに見えるっていう、あれ!

同級生の水着姿を見て興奮したことは一度もないが。
それだ。


『どうした、イチ?』
甘ったるく微笑まれて、ドキドキしてる場合ではない。

……ん?

なんか。
胸が、ざわざわする。


視線を感じたような気がして、そっちを向いたら。
こちらに向け、弓矢をつがえてる人が。

狙ってるのは、皇帝か。


◆◇◆


「あぶない!」

咄嗟に、エセルを座席に伏せるように突き飛ばす。
と。

避けきれない、当たる! と覚悟してた矢が。
俺に当たる前に、四散した。

……胸の、ザラームのつけた印が熱くなってる。


これって。もしかして。”印”の、加護?
后の印にまで、そんな力があるもんなんだ?

そういえば、ザラームが自分の力をコントロールすることを覚える前までは、印持ち同士じゃないと悪影響があったらしいけど。俺はなんともなかったし。


国民がざわめいた。

『后妃を、矢から守った……?』
『皇帝の偉大なる力だ』
『皇帝陛下、万歳!』

皇帝を称える声で、いっぱいだ。
皇帝を狙った賊は、警備の兵に取り押さえられたようだ。


『……?』

エセルは、馬車の座席に伏したまま、困惑している。

『な、何が起こったのだ……?』

ですよねー。
今のは、俺の胸の印の力だったもん。


どうやら暗殺者は、名ばかりで無力な皇帝に罰を下すと言って、皇帝の命を狙っていたようだ。
賊は、死罪に処された。


◆◇◆


『イチには、不思議な力があるのか?』
エセルは目をきらきらさせている。

俺がやったと思ってるんだ。
さすがに自分の力だと勘違いはしなかったようだ。

いや、そんな、期待に満ちた目をされても。


「”印持ち”なら、力は使えるんじゃないの?」

『え?』
ああ、何も知らないようだ。妃の印はつけられたのに。自覚は無いのか?


「ちょっと神官!」

印を授ける神官を呼んで、聞いてみたら。
一番強い印を授かった者が王になる、としか伝わってないという。

この国は、代々”印持ち”がいるだけでも稀で。
印を持たない王もいたとか。

后の”印”も。王が自分のもの、という印をつけられる、くらいにしか思ってなかったそうだ。


まあ俺も、”印持ち”が超能力者みたいな力を使えるって、ザラームの時に初めて知ったんだけど。
最強の力を持つザラームですら、自分の力の可能性には気付いてなかったくらいだし。


この世界の人って、与えられたものに疑問を持たない性質なのかな?
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