限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙

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近衛騎士、勇者になる

幸福を知る

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「む~、」

陛下は、自由な足で私を蹴るでもなく。
身振りでこの枷を外せ、と示された。

話がある、と?
このご様子だと、自決されそうにはないが。


「……絶対に、おかしな真似はなさらないと、約束していただけますね?」
拘束具を外し。

念のため、陛下の両手を寝台に抑え込む。


「……拘束しないと、興奮しないのか?」
陛下は目を眇められて。

開口一番、そう仰った。


*****


「とんでもない! そんな趣味はありません!」

慌てて否定した。
おかしな趣味を持った男だと誤解されてしまったようだ。

決して、そのような趣味は。
……無いはず。

決して拘束して愉しんだりする趣味などはない、と否定してみせたが。


「私はお前の希望通り、皆の前で求婚を受けると宣言したではないか。抵抗しない相手を拘束するからには、何か理由があるのだろう?」
陛下は拗ねたように唇を尖らせ、そう呟かれた。

確かに、全く抵抗はされなかったが……。
臣下に裏切られた絶望故に、抵抗することを諦められたかと。


「それは……、元臣下に凌辱される屈辱で陛下が自決されるかと思い……」

陛下は私の言った屈辱、という言葉に。
不思議そうに首を傾げられた。

「私を、辱めるつもりなのか?」
「いえ、そのつもりはありませんが。元臣下ごときに身体を自由にされるなど、陛下にとっては耐えられない屈辱でしょう?」


王族としての教育を受けてこられたならば。
当然、他の貴族とも違う、ご自分が高貴で特別な存在である、という自負持っているはずで。

公爵家の血筋ではあるが、その跡を継ぐ予定もなく。
近衛騎士という立場である私が国王陛下を花嫁に望むことなど、天地がひっくり返ってもありえない。
赦されない行いである。

ただの騎士であれば、下心を持って近づいたという時点でお手討ちになってもおかしくない。


なのに私は。
身の程知らずな欲を。望みを持ってしまった。

何よりも大切なはずのクリスティアン陛下を。
脅してでも自分のものにしようなどという、浅ましい考えを持ち。

その上、陛下の身体を拘束し、己の好きにしようなどと考えた。


己の愚行を悔いて俯いていた私の耳に、とんでもない言葉が聞こえた。
それは。


*****


「痛かったり拘束されるのは嫌だが、お前に触れられるのは嫌ではない」


「……えっ!?」
今。
お前に触られるのは嫌ではない、という信じがたい言葉が聞こえた気がするが。

願望が聴かせた、幻聴であろうか?

痛い行為や、拘束されるのは嫌だというのは、至極当然な内容である。
しかし。

私に、触れられることがお嫌ではない、と?
そう仰ったというのか。

陛下が?


これは。
私の願望が見せた夢なのか?


聞こえた内容があまりにも予想外で。

己の耳が信じられず、しばし硬直していた私に。
陛下はまるで、困った悪戯をする子供のような視線を向けられた。


「私は、、お前の花嫁になると言ったのだぞ。二言はない。世を儚み自決するなど有り得ん」


驚くべきことに。
陛下は、その場しのぎのごまかしなどではなく。

自らの意思をもって、私の花嫁になって下さるつもりでいらっしゃったのか。

何もかもを理解された上で。
私の願いを受け入れて下さったのか。


その覚悟を決めた故に。
皆の前で、生涯添い遂げると宣言して下さったのか。


*****


忘れもしない、あのお言葉。

”私、クリスティアン・フォン・ローエンシュタイン=ディートヘルムの名において宣誓する。勇者アルベルト・フォン・ロイエンタールの花嫁となり、生涯添い遂げることを誓う”


その場だけの嘘であっても。
あの時、死んでもいいと思うほど幸せだと思った。

それが。
真実、皆に誓ったと。


胸が締め付けられるような思いでいっぱいになり。
目頭が熱くなった。


「ああ……陛下……、何と、広いお心か……。愛しています」

誰かを。
人を。ここまで愛おしく思えるようになるとは。

私自身でも予想外だった。


そして、この思いを直接お伝えできる喜びを。
何と表現したらいいものか。


「愛しているというなら、優しく扱え」
少し拗ねたように仰った。

何とお心が広いのだろう。
私よりも9歳も年下だというのに。


「はい。ガラス細工グラスアーベイテンのように大切に扱います。……神と陛下に誓って」
陛下の手を取り、手の甲に口づけを落とす。

微笑みを浮かべて陛下へ顔を向けると。
やはり、あの少し困ったようなお顔をされているが。

決して嫌悪の感情ではないことは伝わった。


作り笑いではなく。
私がこうして心からの笑顔を浮かべることができるのは、唯一、陛下の前だけだと。

周囲の者たちは、すでに気付いていたというのに。
私自身が陛下に対する恋心に気づいていなかったとは。


我ながら、自分の心に鈍感すぎた。


*****


気付けば、陛下の頬が赤らんで。
何やらちらちらと下の方が気になるご様子なので、視線を下ろすと。


……ああ。
陛下の太ももに、私の勃起した性器が当たっていた。
それが、気になっておられたのだ。

嬉しさのあまり、興奮しすぎたようだ。
恋心を意識してから、我慢がきかなくなったのだろうか。


「ところで、私は前王の遺言……予言により、結婚までは清らかな身でいないといけない。……その、夫婦の営みは、式の後にして欲しい」

恥じらい、視線を彷徨わせながら、そのようなお可愛らしいことを。
今すぐ奪いたい気持ちになったが。

予言でそう決められているのなら、従うべきだ。

陛下が私と”夫婦の営み”をすること自体を拒絶されていないのなら。
なおさら。


「すぐに式の準備を進めます。少々お待ちください」

私は急いで寝台から降り。
可及的速やかに結婚式の準備を済ませるため、寝室を離れた。


*****


人目がなければ、あまりの喜びに踊り出しそうな気分であった。
実際、足取りは羽が生えたように軽かった。


急いで無理矢理襲わなくともいい。
力で奪わなくても、私から逃げたりされない。

求婚を、受け入れていただけたのだから。


授与式が終わり休憩していた大臣たちを呼び寄せ。
急ぎ、陛下と結婚式を挙げたいと告げた。

さきほどのやり取りでことはすでに予想していたらしく。
こちらの打ち合わせは割合早く終わった。

優秀な大臣だちである。


後は陛下の署名を戴くだけの書類を受け取る。
教皇になったばかりのクラウスに、大聖堂使用と結婚式の許可を得なければ。

貸しは充分作った。
多少の無理はきくだろう。
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