限界オタクだった俺が異世界に転生して王様になったら、何故か聖剣を抜いて勇者にクラスチェンジした元近衛騎士に娶られました。

篠崎笙

文字の大きさ
上 下
13 / 61
華麗なる少年王の半生

美貌の勇者ふたたび

しおりを挟む
ふらついているアルベルトに肩を貸し、城内にある、アルベルトの私室に連れて行った。
驚くほど簡素な部屋だった。

着いてきていた近衛騎士は追い出した。


アルベルトをベッドに寝かせて、怪我の状態を見る。
鎧は、下手に脱がせないほうがいいだろう。割れたのが肉に食い込んでいる。

……かなり深い傷だ。
あちこち鎧は砕け、肉が抉れているのに。よく立ち上がって歩けたものだ。

こんな状態なのに。自分より、他の二人を先に回復させて欲しい、だなんて。


俺なら泣いてる。
むしろ最初の一撃で気絶してるだろう。

痛そうで。もう俺が泣きそうだよ。


*****


ドラゴンの爪での攻撃には、呪いのような効果が付与されていたようだ。
神聖魔法でも、全快は難しいかもしれない。


「多少、痕が残るかもしれないが……」

「陛下御自ら治療して頂けるのですか? 光栄です」
引き攣れたように、口元が動いた。

包帯が、血で貼りついているのだ。
どうやら、微笑みを浮かべたようだが。わからない。

あの、腹が立つくらい、完璧なまでに美しかった微笑みを。見せて欲しい。


満身創痍のアルベルトに回復魔法を掛けて。
押し出されてきた鎧の残骸を引っぺがす。抉れていた肉が盛り上がり、綺麗に傷が塞がっているのを確認して。

恐る恐る、顔の包帯を外してみた。


額から眉にかけてと、頬に少し。
ドラゴンの爪痕が残っているが。

……よかった。
思っていたよりは酷いことになっていなかった。

ほっとして、気が抜けた。
アルベルトの綺麗な青藤色の目が潰れてなくて良かった。


「……少々傷が残ってしまったが。元より男前が上がったかもしれんな?」

アルベルトは、自分の顔に手をやった。
傷を確かめているようだ。

「近衛騎士に戻れるくらいの傷でしょうか……」
何を弱気な。

「そのくらい、容易なことだ。しかし、お前はもはや救世の勇者なのだからな。今更、私の近衛騎士に戻る必要はないだろう」
そう言うと。

アルベルトは微笑んだ。
傷があっても全く問題ない、綺麗な笑顔だが。


笑顔が、何だか弱々しく感じるのは。
さすがに長く続いたドラゴンとの戦いで疲弊しているせいか。


*****


それにしても。
「このような怪我を負ってまで、叶えたい望みとは……、」


まさか、そんな強敵だなんて思ってなかった。

伝説の聖剣があるんだし。
一撃でやっつけて、すぐ帰ってくる程度のものだと思ってた。

漫画やゲームでも、竜退治なんてそう簡単にはいかないのに。
甘く見過ぎてたんだ。

ここまで頑張らなくても。
別に、リーゼロッテとの結婚くらい、許してやったのに。

俺はそこまで鬼畜じゃないぞ。


「それは……、」
起き上がろうとしたアルベルトを、手で制した。

「ああ、今は言わなくて良い。望みは明日の褒章授与式で聞かせてもらおう。……竜との戦闘の上、転移魔法を使って疲れただろう。今日はゆっくり休め」


死に際のドラゴンによる最期の攻撃で、仲間がすぐに手当てをしないと助からないような状態になったため、やむなく転移魔法を使ったんだろう。

自分の怪我をも顧みず。
自分もあんなひどい傷を負っていたのに。痛かっただろうに。

俺なら、我先にと回復してもらうと思う。


アルベルトは、本当に勇者……我が国の誇る、英雄だ。
つまらない理由で僻んで、嫉妬していたのがバカバカしいほど。


*****


翌日。
ドラゴン退治に対する褒章の授与式である。


授与式の準備はもう進めていたので、帰ってきた次の日に式をやっても進行に問題はなかったが。
予定外だったのは、犠牲者が出てしまったことだ。

予言では、勇者が帰ってくる、ということしか言及されてなかったのだ。
褒美の代替案を考えなければならない。

功績に応じた勲章を授けるのは、国王である俺の役目で。
なお、俺は今日が初めての授与式となる。


うわあ。
めちゃくちゃ緊張するなあ。ヒッキーには重責過ぎるんですけお! けお!

手のひらに人って書いて飲み込んでみたりして。


しかも、みんな気になっているだろうからって。
授与式の様子は投影魔法により各家庭にある鏡を通じて、全世界に報じられるという。
世界中の人が見てるとか、プレッシャー半端無いっての。

この国のある惑星の反対側でもリアルタイムで見られるので、テレビの衛星中継のようなものか。
さすがに世界規模の投影は、滅多に使われないそうだ。

そりゃそうだ。


斃したドラゴンの死骸は、薬になる血や肉だけでなく、加工して武器になる骨や皮も全て高額で取引されるレアアイテムである。
巨大なドラゴンだったので、莫大な額になると推測される。

お陰で予算は潤沢なので、褒美は思いのままだ。
といっても限度があるが。

望めば、勇者パーティ全員が一生遊んで暮らせるくらいは余裕で出せるだろう。


この国には、莫大な大金を望むような欲深い人間はいないと思うが。
国民全員に祝い金を出せるくらい残ればいいな、と思う。


*****


まずは勇者の仲間たちから。
一等勲章と、予算内で収まる範囲での褒美を与える。


戦死した戦士……いやダジャレじゃなく。
戦士ランベルト・クラインベックはその功績を称え、遺族の生活を、国で保障することにした。我が国初の遺族年金である。


魔法使いマルセル・ユーベルヴェークは、魔術の研究のため解体の立ち合いと、竜の血ひと瓶……一リットルくらいか? を望んだ。
それを許可し、分与に関する書類を作成して渡した。


僧侶クラウス・ワーナーは、蘇生魔法も使えず犠牲者を出してしまい、役に立てなかったので褒美は辞退すると言ったが。
寺院の修繕・改築を褒美とすると告げたら、感動してひれ伏し、泣いてしまった。


そして。
いよいよ我らが勇者、アルベルト・フォン・ロイエンタールの番である。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...