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おまけ:中華風異世界の天子、日本へ行く。

彼も人なり我も人なり

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もう皇帝ではないのに”朕”はおかしいな。
”私”でよいか。


「そうか。直正とやら。わたしはとても困っているのだ。名も住まいも思い出せん」
東亮の真似をしてみることにしよう。

「……すごく、皇帝陛下っぽいですが……?」

言い当てられた。
まさかこやつ、覇気で皇帝とわかるのかと思ったが。

自分の姿を見下ろし、気付く。
我は東亮が着ていた服と成り代わったはずであるが。

東亮は、皇帝の衣装に着替えていたのか。


この世界では、らすとえんぺらーはとうに亡くなっているということだが。
劫国にあたるのは、中華人民共和国というのか? もはや劫国とは別物である。


「ふむ、この衣装か? こすぷれであろうか?」

「そういう知識はあるのか……」
直正は肩を落とした。


*****


「夏物しか積んでなくて、申し訳ないですが……」

この格好では目立つので、と。
直正の替えの服とやらを渡された。

「よし、着替えさせよ」
命じると。
がっくりと肩を落とした。

「服の脱ぎ着も一人で出来ないとか、本当に皇帝陛下なのでは……?」
直正はぶつぶつ云いながら、我の衣服を脱がしていく。


実際に皇帝である。
服の着脱など、貴人が自分ですることはない。

「かなり本格的というか、高価な布だなあ。手縫いだし……」

直正は服飾関係の仕事のようだ。
なかなか良い目をしている。

下着にぎょっとしつつも丁寧に服を畳み、我に服を着付けていく。


包帯を巻いた足に視線を止め。
「あれ、足はお怪我を?」


「否、怪我ではないが。気にするな」
「はあ……」


*****


「おお、身が軽い」

短い裳に、わいしゃつか。
この沓は、さんだると云うようだ。


しかし、素の手足を出すのは恥ずかしいものだな。
こちらでは当たり前のようだが。

しかし、慣れなくてはならんのか。

剥きだしの膝小僧を撫でていたら。
直正は背中から包むように毛巾を掛けてきた。

「車に乗るまでは、半袖で我慢してください」


「のう直正」
「何ですか?」

「何故、そなたは敬語で話すのだ。見てくれからして、わたしは直正よりも年下ではあるまいか?」
我の王オーラとやらが、威圧感を与えるのであろうか。


「今更言いますかそれを!?」


*****


くるうざあが岸に着き。
船をもやいに固定している。

ふむ、ここは神奈川県の葉山港。まりーな、という場所のようだ。
何でも知っているな、あやつ。


「ん、」
両手を差し出すと。

直正は諦めたように、毛巾ごと我を抱え上げた。
鍛えているのか、なかなか良い身体をしているようである。支える手に、不安はない。


直正の帰りを待っていたのであろう、細身の眼鏡男が、車から降りてきて寄って来た。

「社長、お早いお帰りで……あの、その、腕に抱えられている方は……?」
「海で拾った。記憶がないそうだ。着ていた物は中に、」

そう云うと。
眼鏡男はもう一人居た黒服の男をくるうざあに走らせた。


黒服が戻って来て。
手にした我の服を見て、困惑している。

簪や玉堅を確認し、本物の金、翡翠であると言った。こやつも見る目があるな。


「どこかの国の、王子様でしょうか?」

「東京湾を一人で泳いでいたんだが……他に誰もいなかった」
「あの服で、ですか!?」

ごちゃごちゃと五月蝿い。


「直正、寒いぞ」
襟を引くと、慌ててこちらを見た。

「ああ、失礼しました。すぐに車の中に」


直正は黒服に扉を開けさせ、車の中に入った。


*****


車を走らせ。
たわーまんしょんとやらに着いた。最上階に住んでいるようだ。

何とかと煙は高いところを好むというが。火に撒かれたら逃げ場がないであろう。
……おお、へりこぷたあとやらがあるのか。

東亮の知識を一部共有しておいて良かった。余計なものが多いのが難であるが。


「日本語は……妙な方向で堪能なようですね?」
妙とは何だ。

眼鏡の男は直正の秘書であった。
名は花岡 譲はなおか ゆずるというようだ。諱はない。

花岡、と呼んで欲しいと言われた。よく出来た使用人のようだ。
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