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三章 一陽来復

掌中之珠

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「耀はかっこいいんだから、無防備に笑った顔見せちゃダメ」
花嫁は私の頬に手を添えて、摄像机から背けさせた。

可愛らしい悋気。
ならば。


「私は常に貴方を布で覆って隠していないと、安心できないのですが?」

「……そんな甘い声。他人に聞かせるなよ」
「では、愛らしいお耳の傍で、」

旒をかき分けようとしたが。


「また始まった、このバカップル!!」
「すぐに止めさせろ、放送できなくなる!」

崔公と武公に引き離されてしまった。


放送できなくなるようなことを、する訳がないだろうに。
私の愛らしい花嫁の可愛いところを、誰が他人に見せるものか。勿体無い。


*****


闹洞房は、明確に終了の合図などは決まっていない。

皆、好きな時に銘々に帰るのが主流だという。
李公は眠気が我慢できずに帰った。今夜は薬艮殿の私室で寝るという。

摄像机は、李公の席に固定された。


酒精のせいか、花嫁も眠そうで。
私に寄りかかって、うとうとしている。

「武公も崔公も、そろそろお帰りになられたら如何か?」

「何の、まだまだ宴もたけなわ。さあ飲め、もっと飲め」
老酒を注がれる。

武公は顔が真っ赤である。
いい加減、飲み過ぎではないのだろうか。

「はーい、武師父はその辺でストップ。烏龍茶くださーい」

崔公は武公の飲酒を止めさせ、宦官に茶を所望している。
いい師弟である。


*****


「宦官も大変だな……。ちゃんと手当てとかつくのかな」
花嫁はそれを見て、憂うような表情をした。

「宦官は、それが職務故。……手当てとは?」
武公は首を傾げた。

「看病のことじゃないよ。んーとね、一週間や一ヶ月の内、何時間労働するかが決まってて。それ以外の時間の労働とか、深夜とか、お休みの日に出勤とかの場合に時間外手当っていう料金を足すの。余計に働いたら、その分報われないと嫌だろ?」
「なるほど」


人によって仕事量が違うのに給料が同じなのは不公平である、との不満は以前から多くあった。

「確かに、不満は出ておりますね」
頷くと。


「では、国民のよりよい暮らしのために、労働基準法を制定します!」
摄像机に向かい、宣言したのは。

労働基準法、制定?

まさか。
今、この場で決めると?


「!?」
「ちょ、陛下! 会議もせずに言い切っては、」

慌てた崔公がお止めしようとしたが。

「勅令!」

「御意、」
酔っていたはずの武公も、崔公も。
私も思わず平伏した。


花嫁は、皇帝陛下であらせられるので。


*****


勅令を下し、満足されたのだろうか。
陛下はすやすやと寝息を立て、私の腕の中で眠っておられる。


「えー、花嫁もぐっすりだし、明日から物凄く大変そうなので。本日はこれで解散となります。皆様おやすみなさい」
崔公は摄像机ビデオカメラに向かい、そう言い。電源を落とした。

心労か、ぐったりしている。


「武公も崔公も、本日は遅くまで大変な苦労をかけた。ありがとう」
礼をする。

「うわ、気持ち悪い」
気持ち悪いとはどういうことか崔公。

「明日から……大変だろうが。陛下がお望みなら、従うまでだ」
武公は肩を竦めた。


「むにゃ、耀、……何かうたって……」
夢うつつにねだられる。
さて。

「……日暮風吹日はくれ風ふき落葉依枝枝に葉は落つ寸心丹意もゆる思ひは愁君未知君に知られず


「広陵丞相は、まこと陛下にとっての掌中之珠しょうちゅうのたまであったのだろうな」
「……何と?」


「否、酔っ払いの戯言よ。……ではまた明日、」
武公は手を振り。

崔公と共に、部屋を出て行った。


*****


私にとっての掌中之珠は、真実この腕の中にいる、愛おしい花嫁であるが。
武公の言った、陛下とは。前の陛下のことだろう。


これまでの私は、陛下に大事に庇護された存在であった。

丞相への悪口は、朕への悪口である、と公言されて。
耳目のあるところで一番大事なのだと示すことで、私を守ってくださっていた。


だが。
これからは、私がこのお方をお守りしたい。


強くあらねば。
身体だけでなく、その精神もお守りするために。
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