77 / 84
三章 一陽来復
掌中之珠
しおりを挟む
「耀はかっこいいんだから、無防備に笑った顔見せちゃダメ」
花嫁は私の頬に手を添えて、摄像机から背けさせた。
可愛らしい悋気。
ならば。
「私は常に貴方を布で覆って隠していないと、安心できないのですが?」
「……そんな甘い声。他人に聞かせるなよ」
「では、愛らしいお耳の傍で、」
旒をかき分けようとしたが。
「また始まった、このバカップル!!」
「すぐに止めさせろ、放送できなくなる!」
崔公と武公に引き離されてしまった。
放送できなくなるようなことを、する訳がないだろうに。
私の愛らしい花嫁の可愛いところを、誰が他人に見せるものか。勿体無い。
*****
闹洞房は、明確に終了の合図などは決まっていない。
皆、好きな時に銘々に帰るのが主流だという。
李公は眠気が我慢できずに帰った。今夜は薬艮殿の私室で寝るという。
摄像机は、李公の席に固定された。
酒精のせいか、花嫁も眠そうで。
私に寄りかかって、うとうとしている。
「武公も崔公も、そろそろお帰りになられたら如何か?」
「何の、まだまだ宴も酣。さあ飲め、もっと飲め」
老酒を注がれる。
武公は顔が真っ赤である。
いい加減、飲み過ぎではないのだろうか。
「はーい、武師父はその辺でストップ。烏龍茶くださーい」
崔公は武公の飲酒を止めさせ、宦官に茶を所望している。
いい師弟である。
*****
「宦官も大変だな……。ちゃんと手当てとかつくのかな」
花嫁はそれを見て、憂うような表情をした。
「宦官は、それが職務故。……手当てとは?」
武公は首を傾げた。
「看病のことじゃないよ。んーとね、一週間や一ヶ月の内、何時間労働するかが決まってて。それ以外の時間の労働とか、深夜とか、お休みの日に出勤とかの場合に時間外手当っていう料金を足すの。余計に働いたら、その分報われないと嫌だろ?」
「なるほど」
人によって仕事量が違うのに給料が同じなのは不公平である、との不満は以前から多くあった。
「確かに、不満は出ておりますね」
頷くと。
「では、国民のよりよい暮らしのために、労働基準法を制定します!」
摄像机に向かい、宣言したのは。
労働基準法、制定?
まさか。
今、この場で決めると?
「!?」
「ちょ、陛下! 会議もせずに言い切っては、」
慌てた崔公がお止めしようとしたが。
「勅令!」
「御意、」
酔っていたはずの武公も、崔公も。
私も思わず平伏した。
花嫁は、皇帝陛下であらせられるので。
*****
勅令を下し、満足されたのだろうか。
陛下はすやすやと寝息を立て、私の腕の中で眠っておられる。
「えー、花嫁もぐっすりだし、明日から物凄く大変そうなので。本日はこれで解散となります。皆様おやすみなさい」
崔公は摄像机に向かい、そう言い。電源を落とした。
心労か、ぐったりしている。
「武公も崔公も、本日は遅くまで大変な苦労をかけた。ありがとう」
礼をする。
「うわ、気持ち悪い」
気持ち悪いとはどういうことか崔公。
「明日から……大変だろうが。陛下がお望みなら、従うまでだ」
武公は肩を竦めた。
「むにゃ、耀、……何かうたって……」
夢うつつにねだられる。
さて。
「……日暮風吹、落葉依枝、寸心丹意、愁君未知」
「広陵丞相は、まこと陛下にとっての掌中之珠であったのだろうな」
「……何と?」
「否、酔っ払いの戯言よ。……ではまた明日、」
武公は手を振り。
崔公と共に、部屋を出て行った。
*****
私にとっての掌中之珠は、真実この腕の中にいる、愛おしい花嫁であるが。
武公の言った、陛下とは。前の陛下のことだろう。
これまでの私は、陛下に大事に庇護された存在であった。
丞相への悪口は、朕への悪口である、と公言されて。
耳目のあるところで一番大事なのだと示すことで、私を守ってくださっていた。
だが。
これからは、私がこのお方をお守りしたい。
強くあらねば。
身体だけでなく、その精神もお守りするために。
花嫁は私の頬に手を添えて、摄像机から背けさせた。
可愛らしい悋気。
ならば。
「私は常に貴方を布で覆って隠していないと、安心できないのですが?」
「……そんな甘い声。他人に聞かせるなよ」
「では、愛らしいお耳の傍で、」
旒をかき分けようとしたが。
「また始まった、このバカップル!!」
「すぐに止めさせろ、放送できなくなる!」
崔公と武公に引き離されてしまった。
放送できなくなるようなことを、する訳がないだろうに。
私の愛らしい花嫁の可愛いところを、誰が他人に見せるものか。勿体無い。
*****
闹洞房は、明確に終了の合図などは決まっていない。
皆、好きな時に銘々に帰るのが主流だという。
李公は眠気が我慢できずに帰った。今夜は薬艮殿の私室で寝るという。
摄像机は、李公の席に固定された。
酒精のせいか、花嫁も眠そうで。
私に寄りかかって、うとうとしている。
「武公も崔公も、そろそろお帰りになられたら如何か?」
「何の、まだまだ宴も酣。さあ飲め、もっと飲め」
老酒を注がれる。
武公は顔が真っ赤である。
いい加減、飲み過ぎではないのだろうか。
「はーい、武師父はその辺でストップ。烏龍茶くださーい」
崔公は武公の飲酒を止めさせ、宦官に茶を所望している。
いい師弟である。
*****
「宦官も大変だな……。ちゃんと手当てとかつくのかな」
花嫁はそれを見て、憂うような表情をした。
「宦官は、それが職務故。……手当てとは?」
武公は首を傾げた。
「看病のことじゃないよ。んーとね、一週間や一ヶ月の内、何時間労働するかが決まってて。それ以外の時間の労働とか、深夜とか、お休みの日に出勤とかの場合に時間外手当っていう料金を足すの。余計に働いたら、その分報われないと嫌だろ?」
「なるほど」
人によって仕事量が違うのに給料が同じなのは不公平である、との不満は以前から多くあった。
「確かに、不満は出ておりますね」
頷くと。
「では、国民のよりよい暮らしのために、労働基準法を制定します!」
摄像机に向かい、宣言したのは。
労働基準法、制定?
まさか。
今、この場で決めると?
「!?」
「ちょ、陛下! 会議もせずに言い切っては、」
慌てた崔公がお止めしようとしたが。
「勅令!」
「御意、」
酔っていたはずの武公も、崔公も。
私も思わず平伏した。
花嫁は、皇帝陛下であらせられるので。
*****
勅令を下し、満足されたのだろうか。
陛下はすやすやと寝息を立て、私の腕の中で眠っておられる。
「えー、花嫁もぐっすりだし、明日から物凄く大変そうなので。本日はこれで解散となります。皆様おやすみなさい」
崔公は摄像机に向かい、そう言い。電源を落とした。
心労か、ぐったりしている。
「武公も崔公も、本日は遅くまで大変な苦労をかけた。ありがとう」
礼をする。
「うわ、気持ち悪い」
気持ち悪いとはどういうことか崔公。
「明日から……大変だろうが。陛下がお望みなら、従うまでだ」
武公は肩を竦めた。
「むにゃ、耀、……何かうたって……」
夢うつつにねだられる。
さて。
「……日暮風吹、落葉依枝、寸心丹意、愁君未知」
「広陵丞相は、まこと陛下にとっての掌中之珠であったのだろうな」
「……何と?」
「否、酔っ払いの戯言よ。……ではまた明日、」
武公は手を振り。
崔公と共に、部屋を出て行った。
*****
私にとっての掌中之珠は、真実この腕の中にいる、愛おしい花嫁であるが。
武公の言った、陛下とは。前の陛下のことだろう。
これまでの私は、陛下に大事に庇護された存在であった。
丞相への悪口は、朕への悪口である、と公言されて。
耳目のあるところで一番大事なのだと示すことで、私を守ってくださっていた。
だが。
これからは、私がこのお方をお守りしたい。
強くあらねば。
身体だけでなく、その精神もお守りするために。
0
お気に入りに追加
306
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる