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三章 一陽来復

寤寐思服

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机には飲み物と。
食べてもいいが、主に投げるための木の実が提供されている。

食べられるものを投げる意味がわからないが。
災い避けに米を撒くようなものだろうか。


「そういえば、入洞房って、具体的に何するの?」
花嫁が愛らしく首を傾げ。
簪の旒が、しゃらりと鳴った。

「え、」
皆の動きが止まる。


私もしばし困惑して固まった。

国民の耳目がある場所で、説明しろと?
初夜のあれこれを。


*****


「ごめん、李君ちょっとパス」
「”ぱす”とは? え、持ってるだけで良いんですか、これ?」

崔公は摄像机を李公に預け。
花嫁の旒を暖簾のようにかきわけ、耳元で説明をしているようだ。

武公は旒をかきわけて内緒話をしている二人の様子が笑いのツボに入ったようで。
腹を抱えて笑っている。


「はぁ? 初夜も何も、俺たちとっくに寝うぷ、」
危うい発言を、崔公が口を手で覆って塞いだ。

「放・送・中☆」

「っていうか生放送なのかこれ。編集しないの?」
「もうすぐ宮廷チャンネルで入洞房生放送、って速報入れたら視聴率が90%超えたんだもん。国民の皆さんの期待には応えないと」

皆、入洞房生放送の何を期待しているというのだろう。
人前で何かしようとは思わないが。

……崔公、花嫁に顔が近すぎるのではないか? 


宴の間は、賓客の説明や各儀式の説明を入れたそうだが。それでも7割の国民が放送を見ていたようだ。
何しろ千年ぶりの行事である。

それに、普段は見られない皇帝の麗しい姿を見られるのだ。
国民の興味も増すだろう。


*****


「それで、闹洞房って何して騒ぐんだ? 踊るの?」


さて。
私も参加したことが無いので、何をするのかはわからない。

「んー。じゃあ、広陵丞相……今は花婿でいいか。花婿さん、花嫁を口説いてー。それ邪魔するから」
と、こちらを見た。

何故、肩を抱く必要があるのか。

「……くっつきすぎだ、崔公」

「あ、ハイ……」
崔公は素直に謝ると。花嫁から身体を離した。


武公はまだ笑っている。
早くも酔っているのだろうか。


「はい、スタート!」
摄像机を構えた崔公が合図を出した。

愛らしい花嫁の肩を引き寄せ、その花のかんばせを正面から見詰めながら、想いを伝える。

「今宵の貴方は更に美しく、私を惑わせる。願わくばその服の襟になり、貴方の馨しい首の匂いを常に嗅いでいたい。もしくは裳の帯となり、その細い腰を束ねたい。あるいは髪に塗る油になり、貴方の艶やかな黒髪をくしげずりたい。貴方のその長い睫毛になり、視線の動きを追いたい。時には寝台の敷布となり、貴方のしなやかな身体の重みを感じ、休ませてやりたい。履物になって、貴方の白く美しい素足を包み、共に歩むのも良いだろう。日中は貴方の影になり、常に行動を共にしたい。夜の間は蝋燭になり、貴方の姿をやわらかく照らしたい。夏の間は扇子になり、優しく涼風を送ってやりたい。……しかし、それでは愛らしい貴方をこうして腕に抱くことはできますまい。それが可能な私はこの世で一番の幸せ者だ」


閑情賦からの引用であるが。
これ以上にしっくりくる詩は他にないと思ったのだ。

しかし、花嫁を口説くのを邪魔しにくるはずではなかったか。
最後まで言いきってしまったではないか。

「っていうか、何でみんな邪魔しに来ないの!?」

花嫁は、真っ赤になっている。
可愛らしいことだ。


*****


皆、邪魔をするのも忘れ、ぽかんと口を開け、こちらを見ていた。
そんなに、驚かなくとも良いものを。

笑う私の背を、花嫁が怒ったようにぽかぽかと叩いている。
決してからかったわけではないのだが。

「す、すみません。つい、本音が溢れて」
「もう! って本音なのかよ!」


「めちゃくちゃ本気っぽくてこわい! ドン引きだったよ!?」
崔公は鳥肌を立てていた。

冗談ではない。本気だというのに。

「広陵丞相もそのように笑うのか。……そうか、笑うようになったか」
武公は苦笑していた。
どうやら、今まで心配させていたのだと気付いた。


「びっくりして、目が冴えてしまいました……」
李公は完全に目を覚ましたようだ。

眠っていても構わないが。
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