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三章 一陽来復

煙視媚行

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「では、その申し出、ありがたくお受けしよう。崔公に武公、かたじけない」

「陛下のためですしー」
「その通り。広陵丞相のためではないので悪しからず」
二人は笑っている。

「ではお二方、明日もどうか、よろしく願う」
礼をする。


最後に皇帝が結婚式を挙げたのは、ほぼ千年も前のことで。
都どころか国全体が活気に溢れ、祭りのように盛り上がっているようだ。

その一世一代の晴れ姿を見せたい相手は。
もう、この世にはいないのだが。


*****


衣装の着付けは、皇宮ではなく、内務府の建物ですることにした。
年中皇宮に入り浸っていたため、一度も使ったことのない、丞相の私室である。


髪を結い上げ、金色の冠とかんざしで留め。裾の長い上衣は赤地に金の刺繍で四神が象られている。蔽膝へいしつには鳳凰の刺繍。帯は金、下裳は黄。

このような派手な色の着物を着るのは初めてで、少々気恥ずかしい。


「用意できた~?」
親迎に同行する崔公と武公が顔を出した。

「うおっ、」
二人とも、何故か後ろへ引いている。

「……どこか、おかしいだろうか?」

「いや、こうして見ると、広陵丞相も見目麗しかったのだな、と」
「え、今頃気がついたんすか武師父……」

この衣装を褒められたのだろうか?
「馬子にも衣装というやつか? 陛下と並んで見劣りがしなければ、それでいいのだが」

「OKOK、バッチリよ。んじゃ、馬車とか待機してる広場まで送るよ」
背を押され。送迎の車に乗り込んだ。


8頭立ての馬車18台、戦車8両、護衛車88台がずらりと揃っている光景は、かなり壮観であった。


*****


「よ……いや、広陵丞相!」


馬を用立ててくれた広陵の伯父たちが出迎えてくれた。
私の婚礼服を、涙の滲んだ目で見られ。

「何とご立派なお姿……仁も喜んでいることでしょう」

「だといいのですが。ああ、大伯父殿も、この度のご好意、ありがたく」
手を取り、挨拶をした。

「そんな、贈り物の礼にもなりませんや。馬も、それで増やしたようなもんで」


広陵の一族には、毎年送金していた。
仁に対しての恩返しが出来なかった代わりのようなものだ。

「仁には、何もしてやれなかったので」
「……喜んでますよ、息子がこれだけ立派になったんじゃ、あの世で鼻高々でさ」

そうだといい。
空の上から、この晴れ姿を喜んでくれれば。


脳の病に冒され、最期はあのようなことになったが。
不肖の息子であった私を拾い、実の子のように慈しみ、育ててくれた恩を忘れはしない。
仁のお陰で、今の私が在るのだから。

少しは、返せただろうか?


*****


親戚らからあたたかく見送られ、先頭の花馬車に乗り込んだ。

見物客に手を振りながら、城門をくぐり皇宮正門へと向かう。
道の脇には官僚や兵が立ち並んで、手を振っている。

初めて丞相を見た、という声がよく聞こえた。皇宮からあまり出ないからであろうか。

声のした方へ視線をやると。
何人か、卒倒した。

どうした? 立ちくらみか。


『えー、丞相、危険なので。流し目を送るのは陛下相手だけにしてください。どうぞー』
無線で崔公から連絡が入った。

「? 了解」

浮ついているように見えるので、余所見をするな、ということだろう。
さすがに私も浮足立っているようだ。

愛しい陛下との結婚式なのだから、当然ともいえるが。


*****


皇宮正門。
門の前に、二人並んでいる。一人は付き添い役の李公である。


階段を上り。
愛しいひとへと一歩一歩近付いてゆく。

赤い宝玉と金細工で鳳凰を模った王冠。簪にはりゅうがきらめいて。
赤地に四神の金刺繍の施された上衣に、鳳凰の蔽膝、下裳も赤で。肩衣の裾は、地につくほど長く。帯は金。


ああ、何と世に秀でた美しい姿であろうか。


れ何ぞ環逸之かんいつこれ令姿うつくしきすがたの、ひと曠世以こうせいもっぐんひいづるや」
思わず口をついて出たのは、閑情賦かんじょうふであった。
今まで共感などしなかったそれが。


「あまりに美しい姿に、惚れ直してしまいました」

「うわ、」
愛しい花嫁を抱き上げて。


正門の階段を降り、花馬車へと運んだ。
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