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三章 一陽来復

蘭摧玉折

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人を呼び、呪師をと頼んだが。
李公は医局に用があり、そちらにいるとのこと。

武公にも連絡を入れ、来てもらった。
すぐに飛んできた武公に、ことの経緯を伝えると。顔色を変えた。


「わかった。車を出そう。李公を迎えに行く」


*****


寝台に横になった陛下は、言葉も発さず。
眠っているかのように見える。

「亮……」
白く、血の気の失せた手。

貴方の手は、もう少し力強くはなかったか?
もっと、あたたかくはなかったか。

美しく力強かった黄金色の氣は、じわじわと消えていって。

それは、命が削られていくのを見るようであった。


「李公を呼んだぞ、」

武公の声に振り向くと。
そこには。

もう一人の。


「……亮……?」


どういうことだ。
陛下は、ここにおられるというのに。

あちらの陛下は、元の世界に戻られたはずではないのか?


「そこより動くな」
崔公に制されて、上げかけた腰を戻した。


*****


崔公と李公に、経緯を話した。

もう一人の陛下は、川で見つかったという。
それで、こちらに陛下はおられるかと連絡を寄越したのだ。


李公は両方から連絡を受けて。
とりあえず近い方より様子を見に行ったら、あちらの陛下がいらっしゃったとのこと。

「……今にも”気”が消えそうです。あ、どうやらそっちの陛下を呼ばれているようですよ」
陛下の手を握っていた李公が、あちらの陛下を呼び、手を握らせた。


「え、役目を終えていたって。どういう、」
「…………?」

かれには聞こえぬ声が聞こえるのか。天子の力だろうか。
何か、大事な話をしているようだが。


「俺を!? 嘘だろ? ……朱亮、消えちゃうのか?」

消える?

「もしかして。俺の身体? いや、いいけど。川に落ちたよ?」

川に落ちた?
それで、こちらまで流されたというのだろうか。


「…………わかった。俺、頑張るよ」
あちらの陛下が、そう宣言すると。


二人の陛下の身体が、強い光に包まれたようになり。眩しくて、思わず目を瞑った。

再び目を開くと。あちらの陛下の姿が消えており。
寝台に横たわっていた陛下が、目を開いた。


輝くような、黄金色の氣を纏っているが。

これは、どちらの陛下か。
祈るような気持ちで、発言を待った。


*****


陛下はがばっと起き上がり、こちらを見て。

「えーと、朱亮はこっちで天子をやってく資格を失ったんで、俺と入れ替わりで、あっちの世界で暮らすって」


ああ。
あちらの陛下、東亮が残ったのか。

しかし。
の陛下も、無事に生きておられるのだと聞き。

安堵で気が抜け。
足の力が萎えたように、無様にも膝を着いてしまった。


「申し訳ないが、もう少々、詳しく願えませんかね?」
武公に乞われ。
陛下は自身に起こった不思議を説明した。

今朝、突然のだという。


東亮の活躍によって天子弑逆の未来が消え、朱亮の生存も決定したが。
天子としての資格はすでに東亮の方に移ってしまっていた。

故に、朱亮はこの世界では存在できなくなってしまった、と。


一方、あちらの世界では。
火災事故に巻き込まれたはずが自力で脱出したことになっていたため、助かった”東亮”としての人生を、朱亮が過ごすことになり。
東亮が、こちらで天子として生きることになった、と。


これが、天運か。

どちらの人生も、救われたのだ。


良かった。

生きているのだ。
これからも、生きていられるのだ。……私の大切な、陛下たちは。


*****


「……亮……、」
あまりのことに力が抜けてしまい、立ち上がれず。

いざるように進み、陛下に近寄る。


陛下の手を握ると。
色は白いが、あたたかい。

その氣は、黄金色に、輝いて。
生命力に満ちている。


「貴方は、私の前から、消えたりしませんよね?」
縋るように、見上げて乞う。

「ずっと……傍にいろと。置いてやると。誓ってくれましたよね?」


それを約束したのは、今の貴方ではないけれど。

支えを。
確かな約束を頂きたい。


そうでないと。崩れてしまいそうだから。
立ち上がる力を与えて欲しい。

陛下の手を額に押し付け、願った。


「今一度……誓いを……」


が。
凛とした空気を生んだ。


思わず見上げると。
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