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三章 一陽来復
愁苦辛勤
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「あ、葉っぱついてる」
陛下は動揺もせず、武公の髪についていた葉を取っている。
「おや。今朝、皇宮の周辺を捜索した時にでもついたのですかな?」
「へー。これ、ツツジの葉だ。紅葉してる。秋だなあ」
「へ、陛下、攫われてるのに、暢気なことを!」
武公は早足で歩いているのだが、やたらと速い。
皆で追うが、裳の裾が邪魔で走りにくい。
誰だ、内勤の文官をこのような衣装に決めたのは!
「俺、攫われてるの?」
陛下は無邪気に訊かれているが。
「いえ、安全な場所に保護、です。俺の腕の中が一番安全だと思っていただければ重畳」
安全なものか。
それは貴方に肉欲を抱いている、危険な狼ですよ!!
*****
陛下は何か武公と言葉を交わして。
ぎゅっと武公の首に抱き付いて、後ろを振り返ると。
追い払うような仕草をし。
此方に見せ付けるように、武公の頬に口付けた。
「………………!?」
武公は。
そのまま悠々と正門を潜り、陛下を御史台へ連れ去った。
青震殿へ戻ったが。
何故か崔公と李公も着いて来ていた。
「くっそ、武師父の私室、セキュリティ半端ないんだよ。陛下、無事だといいけど」
「崔太尉、しーっ、」
「口を縫いつけようとするのやめて!?」
ガタガタと騒がしい。
「私のような役立たずのことなど気にせず、好きに会話すればいい……」
振り向くと。
李公は怯えた様子で崔公にしがみついた。
「うわーん広陵丞相が幽鬼みたいな形相になってるー!」
「いやいや、広陵丞相は徹夜で筋トレしてたせいで寝不足だから、精神的に不安定なんだよ! 寝よう、な?」
「……寝ていられるような状況だとでも……?」
「寝不足なら、せめて回復しましょう。ね?」
李公に手を握られて。
身体に、あたたかい気が流れてくる。
疲労回復か。
「……李公は、このような私にも優しいのだな。ありがとう」
李公の瞳を見て言うと。
「僕でよければいつでも慰めますからー!!」
がばっと抱きつかれ、頭を撫でられる。
慰めているのか、これは?
崔公も。
私が落ち込んでいるのを気にして、着いて来たのだろうか?
「李君はわりと美人なら何でもOK系だよな……」
「ハッ、ついよろめいてしまいそうに……! あ、安心してください。体臭きつそうで肌ざらざらな崔太尉は圏外ですから」
「ひっでー! え、じゃあ武師父も圏外?」
「当然じゃないですかあんなむさ苦しい熊、圏外は圏外でも大気圏外です。瀕死でも回復したくないですよ」
「それは酷いマジで酷い」
二人とも、楽しそうなのは結構だが。
陛下は今頃、何を。
*****
振動音がして。
「あ、武師父から呼び出しが」
電信か。
崔公は慌てて飛び出していった。事件に進展があったのか?
私の智能手机にも。
「喂?」
『広陵丞相、今こっちは手が離せない状況で、丞相の許可とか必要かもしれないんだが。それより陛下を、』
陛下に。
「…………何か、あったと…………?」
『はは、散々泣かせてしまったからな。付き添って、慰めてやって欲しい。刑部尚書に門まで送らせるので、』
「……武公に丞相の一時的権限を与えることを許可する。……話は、後で聞かせて貰おう」
『ひぇ、い、いや、じょ、』
通話を切って。
「李公。一緒に正門まで来て欲しい。公の力が必要かもしれない」
「えっ、陛下に何かあったんですか!?」
武公から聞いた通りの言葉を伝えると。
李公の顔色が変わった。
*****
急ぎ、正門前で待っていたら。
陛下は私たちの姿を見て、笑顔で手を振った。
「…………?」
その笑顔は、空元気なのだろうか。
「どしたの? 耀、顔色真っ青だぞ」
「散々泣かせてしまったから付き添って慰めてやれ、と言われたのですが……」
「ええ!?」
話は長くなるというので。
とりあえず、青震殿へ行き。お茶を煎れ、器を手渡した。
爆弾犯と、宦官殺人犯並びに国家反逆思想を持つ宗教団体を捕らえたらしい。
教祖こそ神であり、皇帝は贋者だと謳う教団の信者と。広陵の身内を騙る官僚が犯人であった。
御史台のほぼ全てと、教団の捜査には軍部と大理寺が動き、刑を執行したという。
前代未聞の大事件に、大捕り物だったのだと陛下は語った。
陛下は動揺もせず、武公の髪についていた葉を取っている。
「おや。今朝、皇宮の周辺を捜索した時にでもついたのですかな?」
「へー。これ、ツツジの葉だ。紅葉してる。秋だなあ」
「へ、陛下、攫われてるのに、暢気なことを!」
武公は早足で歩いているのだが、やたらと速い。
皆で追うが、裳の裾が邪魔で走りにくい。
誰だ、内勤の文官をこのような衣装に決めたのは!
「俺、攫われてるの?」
陛下は無邪気に訊かれているが。
「いえ、安全な場所に保護、です。俺の腕の中が一番安全だと思っていただければ重畳」
安全なものか。
それは貴方に肉欲を抱いている、危険な狼ですよ!!
*****
陛下は何か武公と言葉を交わして。
ぎゅっと武公の首に抱き付いて、後ろを振り返ると。
追い払うような仕草をし。
此方に見せ付けるように、武公の頬に口付けた。
「………………!?」
武公は。
そのまま悠々と正門を潜り、陛下を御史台へ連れ去った。
青震殿へ戻ったが。
何故か崔公と李公も着いて来ていた。
「くっそ、武師父の私室、セキュリティ半端ないんだよ。陛下、無事だといいけど」
「崔太尉、しーっ、」
「口を縫いつけようとするのやめて!?」
ガタガタと騒がしい。
「私のような役立たずのことなど気にせず、好きに会話すればいい……」
振り向くと。
李公は怯えた様子で崔公にしがみついた。
「うわーん広陵丞相が幽鬼みたいな形相になってるー!」
「いやいや、広陵丞相は徹夜で筋トレしてたせいで寝不足だから、精神的に不安定なんだよ! 寝よう、な?」
「……寝ていられるような状況だとでも……?」
「寝不足なら、せめて回復しましょう。ね?」
李公に手を握られて。
身体に、あたたかい気が流れてくる。
疲労回復か。
「……李公は、このような私にも優しいのだな。ありがとう」
李公の瞳を見て言うと。
「僕でよければいつでも慰めますからー!!」
がばっと抱きつかれ、頭を撫でられる。
慰めているのか、これは?
崔公も。
私が落ち込んでいるのを気にして、着いて来たのだろうか?
「李君はわりと美人なら何でもOK系だよな……」
「ハッ、ついよろめいてしまいそうに……! あ、安心してください。体臭きつそうで肌ざらざらな崔太尉は圏外ですから」
「ひっでー! え、じゃあ武師父も圏外?」
「当然じゃないですかあんなむさ苦しい熊、圏外は圏外でも大気圏外です。瀕死でも回復したくないですよ」
「それは酷いマジで酷い」
二人とも、楽しそうなのは結構だが。
陛下は今頃、何を。
*****
振動音がして。
「あ、武師父から呼び出しが」
電信か。
崔公は慌てて飛び出していった。事件に進展があったのか?
私の智能手机にも。
「喂?」
『広陵丞相、今こっちは手が離せない状況で、丞相の許可とか必要かもしれないんだが。それより陛下を、』
陛下に。
「…………何か、あったと…………?」
『はは、散々泣かせてしまったからな。付き添って、慰めてやって欲しい。刑部尚書に門まで送らせるので、』
「……武公に丞相の一時的権限を与えることを許可する。……話は、後で聞かせて貰おう」
『ひぇ、い、いや、じょ、』
通話を切って。
「李公。一緒に正門まで来て欲しい。公の力が必要かもしれない」
「えっ、陛下に何かあったんですか!?」
武公から聞いた通りの言葉を伝えると。
李公の顔色が変わった。
*****
急ぎ、正門前で待っていたら。
陛下は私たちの姿を見て、笑顔で手を振った。
「…………?」
その笑顔は、空元気なのだろうか。
「どしたの? 耀、顔色真っ青だぞ」
「散々泣かせてしまったから付き添って慰めてやれ、と言われたのですが……」
「ええ!?」
話は長くなるというので。
とりあえず、青震殿へ行き。お茶を煎れ、器を手渡した。
爆弾犯と、宦官殺人犯並びに国家反逆思想を持つ宗教団体を捕らえたらしい。
教祖こそ神であり、皇帝は贋者だと謳う教団の信者と。広陵の身内を騙る官僚が犯人であった。
御史台のほぼ全てと、教団の捜査には軍部と大理寺が動き、刑を執行したという。
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