上 下
66 / 84
三章 一陽来復

愁苦辛勤

しおりを挟む
「あ、葉っぱついてる」
陛下は動揺もせず、武公の髪についていた葉を取っている。

「おや。今朝、皇宮の周辺を捜索した時にでもついたのですかな?」
「へー。これ、ツツジの葉だ。紅葉してる。秋だなあ」

「へ、陛下、攫われてるのに、暢気なことを!」

武公は早足で歩いているのだが、やたらと速い。
皆で追うが、裳の裾が邪魔で走りにくい。

誰だ、内勤の文官をこのような衣装に決めたのは!


「俺、攫われてるの?」
陛下は無邪気に訊かれているが。

「いえ、安全な場所に保護、です。俺の腕の中が一番安全だと思っていただければ重畳」

安全なものか。
それは貴方に肉欲を抱いている、危険な狼ですよ!!


*****


陛下は何か武公と言葉を交わして。
ぎゅっと武公の首に抱き付いて、後ろを振り返ると。

追い払うような仕草をし。
此方に見せ付けるように、武公の頬に口付けた。


「………………!?」

武公は。
そのまま悠々と正門を潜り、陛下を御史台へ連れ去った。


青震殿へ戻ったが。
何故か崔公と李公も着いて来ていた。

「くっそ、武師父の私室、セキュリティ半端ないんだよ。陛下、無事だといいけど」
「崔太尉、しーっ、」
「口を縫いつけようとするのやめて!?」
ガタガタと騒がしい。


「私のような役立たずのことなど気にせず、好きに会話すればいい……」

振り向くと。
李公は怯えた様子で崔公にしがみついた。

「うわーん広陵丞相が幽鬼みたいな形相になってるー!」

「いやいや、広陵丞相は徹夜で筋トレしてたせいで寝不足だから、精神的に不安定なんだよ! 寝よう、な?」
「……寝ていられるような状況だとでも……?」


「寝不足なら、せめて回復しましょう。ね?」
李公に手を握られて。

身体に、あたたかい気が流れてくる。
疲労回復か。


「……李公は、このような私にも優しいのだな。ありがとう」
李公の瞳を見て言うと。

「僕でよければいつでも慰めますからー!!」
がばっと抱きつかれ、頭を撫でられる。

慰めているのか、これは?

崔公も。
私が落ち込んでいるのを気にして、着いて来たのだろうか?


「李君はわりと美人なら何でもOK系だよな……」
「ハッ、ついよろめいてしまいそうに……! あ、安心してください。体臭きつそうで肌ざらざらな崔太尉は圏外ですから」

「ひっでー! え、じゃあ武師父も圏外?」
「当然じゃないですかあんなむさ苦しい熊、圏外は圏外でも大気圏外です。瀕死でも回復したくないですよ」
「それは酷いマジで酷い」
二人とも、楽しそうなのは結構だが。


陛下は今頃、何を。


*****


振動音がして。
「あ、武師父から呼び出しが」

電信か。
崔公は慌てて飛び出していった。事件に進展があったのか?


私の智能手机けいたいにも。

もしもし?」
『広陵丞相、今こっちは手が離せない状況で、丞相の許可とか必要かもしれないんだが。それより陛下を、』

陛下に。

「…………何か、あったと…………?」

『はは、散々泣かせてしまったからな。付き添って、慰めてやって欲しい。刑部尚書に門まで送らせるので、』

「……武公に丞相の一時的権限を与えることを許可する。……話は、後で聞かせて貰おう」
『ひぇ、い、いや、じょ、』

通話を切って。


「李公。一緒に正門まで来て欲しい。公の力が必要かもしれない」
「えっ、陛下に何かあったんですか!?」

武公から聞いた通りの言葉を伝えると。
李公の顔色が変わった。


*****


急ぎ、正門前で待っていたら。
陛下は私たちの姿を見て、笑顔で手を振った。

「…………?」
その笑顔は、空元気なのだろうか。

「どしたの? 耀、顔色真っ青だぞ」

「散々泣かせてしまったから付き添って慰めてやれ、と言われたのですが……」
「ええ!?」

話は長くなるというので。
とりあえず、青震殿へ行き。お茶を煎れ、器を手渡した。


爆弾犯と、宦官殺人犯並びに国家反逆思想を持つ宗教団体を捕らえたらしい。
教祖こそ神であり、皇帝は贋者だと謳う教団の信者と。広陵の身内を騙る官僚が犯人であった。
御史台のほぼ全てと、教団の捜査には軍部と大理寺が動き、刑を執行したという。

前代未聞の大事件に、大捕り物だったのだと陛下は語った。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...