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三章 一陽来復

千錯万綜

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「だから、俺は元クイズ王であって、探偵じゃないんだって……」

「くいず王って何です?」
洋甘菊茶カモミールティーと茶菓子を手にした李公が入って来た。


「難しい問題を出されて、それに答える大会の優勝者……」

「なるほど。でしたら、難事件も正解できるんじゃないですか? 実際、宦官による放火殺人を事前に防いだじゃないですか」
「そうそう。爆破犯の犯行も未然に防いだことになるよね」

李公と崔公は陛下に謎解きをさせたいようだ。


*****


「そりゃ宗元が仕事熱心だったお陰だろ。爆破物の存在まではわからなかったんだから」
奥ゆかしいことだ。


「それを含めて、陛下の”天命”かと存じます」
陛下の髪を結いながら、意見を述べる。

宦官の再調査のため、身の回りのお世話は全て私が引き受けたのである。

「前の陛下も、偶然なされたことが解決の糸口になった、ということが数多くありました」
「そうそう。天子は”天運”を持っている、っていうしね」
崔公も頷いた。


「本物と違って、俺は不思議な力なんか持ってないけど」
ご謙遜を。

「陛下……貴方は神に認められた本物の天子ですよ?」

輝くような、黄金色の気が示している。
今日も、美しい。


「……次は冠ですが、重いと仰られていたので、簡易版でよろしいでしょうか?」

「うん……、」
陛下ははにかむような顔で、頷かれた。


*****


餅乾ビスケットいっぱい焼いたから、広陵丞相にもあげますねー」
李公に、焼菓子を数枚手渡された。
「手作りだったとは。……ありがとう」

「いやあ、お茶の葉集めるのが趣味で。お茶のお伴探してたら、自分で作った方が早いかなって」
つくづく器用な呪師である。私も何か教わろうか。


李公から餅乾を頂いて。
ふと見ると。

陛下は部屋の隅に呼ばれ、崔公が何か耳打ちをしていた。


浅黒い肌に、金色の髪、緑色の瞳。
古代の石像のように美しく整った容姿の男だ。

肉体美を見せ付けるような格好を好んでしているので、軽薄に思われがちだが。そのように見せかけているだけで、中身は実直である。

陛下は、崔公を気に入られているのだろうか?
あのように側に寄ってべたべたしていても、嫌そうではない。


崔公は背後に回り、陛下に抱き付いて。
「じゃ、俺と恋しない?」

首を伸ばすようにし、頬にちゅっ、と口付けをした。

危うく茶器を握りつぶすところだった。


「……はあ?」
「付き合ってくれるなら、浮気しないし。オレ、わりと一途だし、好きな相手には尽くすタイプだよ?」

隙あらば口説こうとするな。
全く、油断も隙もない。


*****


「崔公、陛下に対し、無礼であろう!」

注意したが。崔公は口を尖らせて。
「陛下嫌がってないし、フリーだし。恋人でもない広陵丞相に文句言われる筋合いありませ~ん」

それは、そうかもしれないが。
そう気軽に皇帝陛下を口説くのは如何なものか。


「無礼って言ったら、演技のはずが興奮して襲い掛かって、陛下の初めてのキスを無理矢理奪った広陵丞相の方だと思うしー」

「!?」
気付かれていたのか。


「どうせ、こっちの陛下のたおやかな白い腕や柳腰に、思わず興奮しちゃったんだろうけど?」
陛下の細い腰に腕を回しながら、揶揄するように言われ。

「な……っ、何を、」
動揺のあまり、言葉を失う。


崔公は輝くような笑顔で。
「わかるよ。その気持ち。だってオレも武師父も、同じだもん。こっちの陛下ってばすごく可愛くて。とろとろに甘やかしたいし、めちゃくちゃに抱きたくなるよねって話してたんだ」

武公と、そのような話を?
二人とも、陛下に。肉欲を抱いているというのか?


「俺の性癖までついでにバラすな、」
「いてっ」
崔公は武公に容赦ない拳骨を食らい、頭を押さえている。

武公は陛下を持ち上げ、腕に座らせるような形で抱えた。
「御史台にある俺の私室なら、警備も完璧。火を放たれるような危険はないので、ゆっくりできますよ。陛下」

……ゆっくり、何をするというのだ。


踵を返し、部屋を出て行ってしまう。
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