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三章 一陽来復
避坑落井
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「んんー……、」
陛下は寝返りを打った。
夜着の裾が乱れ、白い脚が見えている。その柔そうな太股に、釘付けになる。
知らず、ごくり、と喉が鳴った。
あの肌に触れたことを思い出すと。
血圧が上昇しそうだ。
秋の夜は、冷える。
風邪を召されないように、だ。
そう心の中で唱えながら、白い腿から目を逸らしつつ乱れた裾を直し、羽绒被を掛ける。
陛下の髪から、薔薇の香油が薫った。艶やかな黒髪。
花も恥らうほどの美しさとは、この方に相応しい。
すやすやと眠るその姿は、天女の姿を描いた一幅の絵のようである。
*****
甘い唇であった。
反応からして、他の誰も、味わったことがないのだろうと。
……何を色惚けている、広陵耀。
自分の立場を思い出せ。
頭を振り、床に這い、鍛錬を始める。
心身を鍛えたのは、何の為であるか。
他でもない、陛下をお守りする為であろうが。
こちらの陛下は、ご自身を守れるほど、鍛錬を積んでいないのだ。
あまりに無防備で。
容易く押し倒……いや、何故そっちに行くのだ。
覚えたての猿ではあるまいし。
亮とは、毎晩のように交接していたせいだろうか?
欲望を吐き出さないと、妄想が止まらないのか?
厠に行き、何とか吐き出すべきだろうか。
しかし。
そのような不埒な理由で、陛下のお側を離れるわけには。
慌しい足音が近付いてきて。
「大変だ、陛下の部屋から、爆発物が……!」
崔公が飛び込んできた。
陛下は、起きる上がるなり、問うた。
「気体? 液体? 固体?」
「え? ええと……か、火薬だから固体……かな?」
火薬か。
扱いに制限があるものなら特定は容易いが。
「ところで……広陵丞相は、何やってるの?」
崔公に問われ。
「……眠気覚ましに、鍛錬を」
起き上がり、汗を拭った。
まさか、妄想と戦っている間に、朝が明けていたとは。
「広陵丞相が陛下にえっちなイタズラしたせいで寝台を追い出されて罰ゲーム中かと思った」
何もしていない。ここでは。
「いいから、概要を話せ」
*****
あの後。
武公と崔公、刑部官らで危険物除去作業……油拭きと現場検証をしていたという。
……ついでに淫具を探そうとするな。使うわけがないだろう。
しかし、それで寝台の裏側を覗いた崔公が、時限爆弾を発見したという。
悪戯心が役に立ったようだ。
爆発まで残り5分のところで、急ぎ爆発物処理班を呼び、無事解体。
怪我人は無しとのこと。
成程、武公に部屋を追いやられていなかったら、危険なところだったのか。
懐剣はこっちに持って来ていたが。
あの部屋で鳴り続けていたのは、犯人が近くに居たせいで鳴り止まぬものかと思っていたが。
捕らえた宦官は、爆弾の存在は知らず。
犯人は、他にも存在していたようだ。武公は早速爆発物の入手経路を探っており、崔公は連絡と護衛の増強のため、ここへ来たとのこと。
陛下は、少し考えた後。
「それこそ、例の汚職ヤロウの犯行なんじゃないの? ……とりあえず、宦官全員の裏は洗った?」
「え、」
「え、じゃねえよ。買収された宦官が掃除の時とかに取り付けた可能性が高いだろ」
「あ、確かに!」
崔公は急ぎ、武公と刑部尚書に連絡を入れた。
寝起きだというのに、陛下の頭脳は素晴らしい。
*****
しかし。
皇宮内勤の宦官を集めさせ、居なかった者を捜索したところ、皇宮の庭から、その宦官が首吊り死体で発見されたという。
その宦官は、どこの派閥にも属していない、至って普通の家の出の者であった。
ただ家族が金銭に困っていたのだが、最近多額の送金があったようだ。爆弾の材料を入手したのも、その宦官名義であった。それ以外の情報は無いようだ。
遺書もなく、犯行の動機も不明。
「口封じか……」
「あ、やっぱり口封じだよね。自殺に見せかけてあったけど、他殺だったし」
崔公は首を傾げた。
「官僚の誰かですかねえ? ほら、皇帝には、もしもの時のために子供のクローンが用意されているらしいし。御しやすい子供を新しく皇帝に仕立て上げて、権力を自分達のものにする計画なのでは?」
そんな話、初耳だが。どこでそんな噂が?
「陛下ぁ、この件も陛下の華麗な名推理でちゃちゃっと解決しちゃってくださいよ~」
崔公は、駄々っ子のように陛下の肩を揺すった。
陛下は寝返りを打った。
夜着の裾が乱れ、白い脚が見えている。その柔そうな太股に、釘付けになる。
知らず、ごくり、と喉が鳴った。
あの肌に触れたことを思い出すと。
血圧が上昇しそうだ。
秋の夜は、冷える。
風邪を召されないように、だ。
そう心の中で唱えながら、白い腿から目を逸らしつつ乱れた裾を直し、羽绒被を掛ける。
陛下の髪から、薔薇の香油が薫った。艶やかな黒髪。
花も恥らうほどの美しさとは、この方に相応しい。
すやすやと眠るその姿は、天女の姿を描いた一幅の絵のようである。
*****
甘い唇であった。
反応からして、他の誰も、味わったことがないのだろうと。
……何を色惚けている、広陵耀。
自分の立場を思い出せ。
頭を振り、床に這い、鍛錬を始める。
心身を鍛えたのは、何の為であるか。
他でもない、陛下をお守りする為であろうが。
こちらの陛下は、ご自身を守れるほど、鍛錬を積んでいないのだ。
あまりに無防備で。
容易く押し倒……いや、何故そっちに行くのだ。
覚えたての猿ではあるまいし。
亮とは、毎晩のように交接していたせいだろうか?
欲望を吐き出さないと、妄想が止まらないのか?
厠に行き、何とか吐き出すべきだろうか。
しかし。
そのような不埒な理由で、陛下のお側を離れるわけには。
慌しい足音が近付いてきて。
「大変だ、陛下の部屋から、爆発物が……!」
崔公が飛び込んできた。
陛下は、起きる上がるなり、問うた。
「気体? 液体? 固体?」
「え? ええと……か、火薬だから固体……かな?」
火薬か。
扱いに制限があるものなら特定は容易いが。
「ところで……広陵丞相は、何やってるの?」
崔公に問われ。
「……眠気覚ましに、鍛錬を」
起き上がり、汗を拭った。
まさか、妄想と戦っている間に、朝が明けていたとは。
「広陵丞相が陛下にえっちなイタズラしたせいで寝台を追い出されて罰ゲーム中かと思った」
何もしていない。ここでは。
「いいから、概要を話せ」
*****
あの後。
武公と崔公、刑部官らで危険物除去作業……油拭きと現場検証をしていたという。
……ついでに淫具を探そうとするな。使うわけがないだろう。
しかし、それで寝台の裏側を覗いた崔公が、時限爆弾を発見したという。
悪戯心が役に立ったようだ。
爆発まで残り5分のところで、急ぎ爆発物処理班を呼び、無事解体。
怪我人は無しとのこと。
成程、武公に部屋を追いやられていなかったら、危険なところだったのか。
懐剣はこっちに持って来ていたが。
あの部屋で鳴り続けていたのは、犯人が近くに居たせいで鳴り止まぬものかと思っていたが。
捕らえた宦官は、爆弾の存在は知らず。
犯人は、他にも存在していたようだ。武公は早速爆発物の入手経路を探っており、崔公は連絡と護衛の増強のため、ここへ来たとのこと。
陛下は、少し考えた後。
「それこそ、例の汚職ヤロウの犯行なんじゃないの? ……とりあえず、宦官全員の裏は洗った?」
「え、」
「え、じゃねえよ。買収された宦官が掃除の時とかに取り付けた可能性が高いだろ」
「あ、確かに!」
崔公は急ぎ、武公と刑部尚書に連絡を入れた。
寝起きだというのに、陛下の頭脳は素晴らしい。
*****
しかし。
皇宮内勤の宦官を集めさせ、居なかった者を捜索したところ、皇宮の庭から、その宦官が首吊り死体で発見されたという。
その宦官は、どこの派閥にも属していない、至って普通の家の出の者であった。
ただ家族が金銭に困っていたのだが、最近多額の送金があったようだ。爆弾の材料を入手したのも、その宦官名義であった。それ以外の情報は無いようだ。
遺書もなく、犯行の動機も不明。
「口封じか……」
「あ、やっぱり口封じだよね。自殺に見せかけてあったけど、他殺だったし」
崔公は首を傾げた。
「官僚の誰かですかねえ? ほら、皇帝には、もしもの時のために子供のクローンが用意されているらしいし。御しやすい子供を新しく皇帝に仕立て上げて、権力を自分達のものにする計画なのでは?」
そんな話、初耳だが。どこでそんな噂が?
「陛下ぁ、この件も陛下の華麗な名推理でちゃちゃっと解決しちゃってくださいよ~」
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