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三章 一陽来復
忘我混沌
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「陛下……、それでは、」
私が至らないせいで。
静電気か何かが床単などに引火したのが、火事の原因だというのだろうか。
「いや、景気良く油をぶっかけたりしない限り、ここまでは染み込まない。燃えやすいように、わざと寝具に油を染み込ませた犯人がいる」
では。
他に犯人が、居るのか。
殺意を持って、ここに香油を撒いた者が。
それは、誰だ?
陛下は、まるで悪戯を思いついた少年のような表情で。
「犯人を捕まえるための作戦があるんだが……乗るか?」
「……当然です。何でも致します」
「よし、いい覚悟だ。……じゃあ、」
耳元で囁かれた作戦は。
*****
智能手机で武公と崔公に此度の作戦を知らせ。
宦官らに見つからないよう待機して欲しい、と通達した。
準備完了の報せを受け、作戦を開始する。
「あ、懐剣めちゃくちゃ震えてる。……どうしよう、これ」
受け取り、枕元に置いた。
懐剣が震えたのならば。そろそろ頃合だろう。
「……亮、」
諱を呼ぶのが、開始の合図である。
陛下は頷いて。私の背へ手を回した。
自分は経験がないから私に全て任せる、と言われた。
普段通りにして欲しい、とのことだが。
……本当は、こんな風に上になり、抱き合ったことなど無かった。
しかし。普段通りに上に乗られるより、私が覆い被さっていた方が、陛下への危険度が減るだろう。
抱き締めて。
愛撫をする振りをする。
「ん、」
息が掛かるのか。くすぐったそうに身を竦ませている。
薄い絹の夜着一枚なので、こうして腕に抱いていると、体温が伝わってくる。
あたたかい。
私をぎゅっと抱き締めている、細い腕。
片腕に納まるほどの細い腰。
すりすりと、甘えるように胸板に頬を摺り寄せてくる。
……何と愛らしいのか。
*****
「え、」
足を抱え上げ、股間を押し付ける。
私が勃起していることに、気付いたのであろう。
「っ、あ、」
淡い月明かりに浮かぶ、戸惑う表情も愛らしく。情欲を掻き立てられる。
細い腰を掴み。
打ち付けるように、腰を振る。
「亮……、」
「ひゃ、あ、だめ、」
逃げようとする腰を、引き寄せ。
「あ、……耀、やめ、……んぅ、」
たまらず、唇を奪った。
貪るように、その甘い唇を味わう。
「んん、……っは、」
もう一度、唇を重ねる。
抗議するように背を叩いていた手は、今はしがみついている。
初心で、可愛らしい反応。
……このまま、犯してしまいたい。
*****
大量の水が、何者かに浴びせられている音で、我に返った。
……私は今。
何を。
「そこまでだ! 放火の現行犯、神妙に縛につけ!」
武公が、ずぶ濡れの男を押さえ付けた。
男は叫んだ。
「御史大夫様!? 何故ここに……!?」
灯りがつき。
薄暗かった部屋を、煌々と照らした。
武公は、刑部尚書に手錠をかけさせていた。
皇宮には一定以上の身分でないと入れないためだ。
居合わせている皆、官僚級の者たちばかりだ。
そんな耳目のある中、私は。何という無様を晒したのだ。
「いやあ、熱演でしたね、陛下。ほんとにヤってるみたいでしたよ!」
どこからか様子を伺っていたらしい崔公も。私兵を連れ、入ってきた。
熱演も何も無い。
置かれた状況を完全に忘れ、かれを貪ることに、溺れてしまっていた。
何を考えているのだ、私は。
犯人確保のために、演技をしていた筈ではなかったのか。
「で、犯人は。……ええと……誰?」
崔公は、首を傾げた。
目立たないようにだろう、全身、黒い装束。
顔に見覚えは、あるような、無いような。
すれ違っても、記憶に残らなさそうで。どこにでも居そうな、平凡な容姿の男だ。
御史大夫である武公も、見知らぬ顔だと言う。
陛下は、乱れた裾を直しながら。
「そいつは使用人……宦官の一人だ。耀に、……広陵丞相に、横恋慕していたんだろう」
「宦官……!?」
私が至らないせいで。
静電気か何かが床単などに引火したのが、火事の原因だというのだろうか。
「いや、景気良く油をぶっかけたりしない限り、ここまでは染み込まない。燃えやすいように、わざと寝具に油を染み込ませた犯人がいる」
では。
他に犯人が、居るのか。
殺意を持って、ここに香油を撒いた者が。
それは、誰だ?
陛下は、まるで悪戯を思いついた少年のような表情で。
「犯人を捕まえるための作戦があるんだが……乗るか?」
「……当然です。何でも致します」
「よし、いい覚悟だ。……じゃあ、」
耳元で囁かれた作戦は。
*****
智能手机で武公と崔公に此度の作戦を知らせ。
宦官らに見つからないよう待機して欲しい、と通達した。
準備完了の報せを受け、作戦を開始する。
「あ、懐剣めちゃくちゃ震えてる。……どうしよう、これ」
受け取り、枕元に置いた。
懐剣が震えたのならば。そろそろ頃合だろう。
「……亮、」
諱を呼ぶのが、開始の合図である。
陛下は頷いて。私の背へ手を回した。
自分は経験がないから私に全て任せる、と言われた。
普段通りにして欲しい、とのことだが。
……本当は、こんな風に上になり、抱き合ったことなど無かった。
しかし。普段通りに上に乗られるより、私が覆い被さっていた方が、陛下への危険度が減るだろう。
抱き締めて。
愛撫をする振りをする。
「ん、」
息が掛かるのか。くすぐったそうに身を竦ませている。
薄い絹の夜着一枚なので、こうして腕に抱いていると、体温が伝わってくる。
あたたかい。
私をぎゅっと抱き締めている、細い腕。
片腕に納まるほどの細い腰。
すりすりと、甘えるように胸板に頬を摺り寄せてくる。
……何と愛らしいのか。
*****
「え、」
足を抱え上げ、股間を押し付ける。
私が勃起していることに、気付いたのであろう。
「っ、あ、」
淡い月明かりに浮かぶ、戸惑う表情も愛らしく。情欲を掻き立てられる。
細い腰を掴み。
打ち付けるように、腰を振る。
「亮……、」
「ひゃ、あ、だめ、」
逃げようとする腰を、引き寄せ。
「あ、……耀、やめ、……んぅ、」
たまらず、唇を奪った。
貪るように、その甘い唇を味わう。
「んん、……っは、」
もう一度、唇を重ねる。
抗議するように背を叩いていた手は、今はしがみついている。
初心で、可愛らしい反応。
……このまま、犯してしまいたい。
*****
大量の水が、何者かに浴びせられている音で、我に返った。
……私は今。
何を。
「そこまでだ! 放火の現行犯、神妙に縛につけ!」
武公が、ずぶ濡れの男を押さえ付けた。
男は叫んだ。
「御史大夫様!? 何故ここに……!?」
灯りがつき。
薄暗かった部屋を、煌々と照らした。
武公は、刑部尚書に手錠をかけさせていた。
皇宮には一定以上の身分でないと入れないためだ。
居合わせている皆、官僚級の者たちばかりだ。
そんな耳目のある中、私は。何という無様を晒したのだ。
「いやあ、熱演でしたね、陛下。ほんとにヤってるみたいでしたよ!」
どこからか様子を伺っていたらしい崔公も。私兵を連れ、入ってきた。
熱演も何も無い。
置かれた状況を完全に忘れ、かれを貪ることに、溺れてしまっていた。
何を考えているのだ、私は。
犯人確保のために、演技をしていた筈ではなかったのか。
「で、犯人は。……ええと……誰?」
崔公は、首を傾げた。
目立たないようにだろう、全身、黒い装束。
顔に見覚えは、あるような、無いような。
すれ違っても、記憶に残らなさそうで。どこにでも居そうな、平凡な容姿の男だ。
御史大夫である武公も、見知らぬ顔だと言う。
陛下は、乱れた裾を直しながら。
「そいつは使用人……宦官の一人だ。耀に、……広陵丞相に、横恋慕していたんだろう」
「宦官……!?」
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