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三章 一陽来復

風紀紊乱

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『……あまりに畏れ知らず故、これは万が一の可能性で。あくまでも推測なのですが。不正を調べられ、断罪されるのを恐れた官吏が、陛下ごと丞相を亡き者にせんと寝所に火を放った……いえ、放とうと計画したものではないかと』

陛下をも巻き込むとは、あまりに畏れ知らずな。
有り得ないだろう。

不正で断罪どころではない。
皇帝への叛逆は、罪もない一族郎党までも死罪になるほどの大罪というのに。


しかし。
……私が原因で、陛下を?


*****


ねやでは誰しも油断しますからねー。特に事後は』
『そんなもんなの? あ、でも確かに自分でした後、眠くなるかも……』

崔公の相槌に。
陛下はそんな言わなくても良いような赤裸々な話を……。

『これからは御身自ら手を汚されなくとも、オレが気持ち良くして差し上げますよ?』
何を口説いている。


『陛下、伯裕のような口だけ小僧よりも、大人の男から、手解きを受けてみませんか?』
武公まで。

隙を見て口説こうとするとは。さすがにこれ以上は捨て置けん。


わざと大きな音を立てて、坤巻殿の扉を開けた。
「私を追い出して、どのような内密の話があるのかと思えば……崔公に武公、陛下を口説くのはよしなさい!」

「異議あり! この陛下はまだ誰のものでもないはずだ。貴公に咎められる謂れはない!」
武公は陛下を抱き締め。
あろうことか、頬ずりまでした。


、だと?

「武師父ずるい! オレも陛下を抱きたい!」
「あ、僕も僕も! 陛下を抱きたいです!」
李公まで、何と不埒なことを。


ぶちり、と何かが切れる音がして。

「来世も共にと誓ったのだから、この陛下も私のものだ!!」
私は武公の腕から、陛下の御身を奪い返した。


「本音が出たな、広陵丞相!」
「このムッツリすけべ!」
「僕にも抱かせてってばー!」

大混乱であった。


*****


「全員、正座!!」


陛下の命令に。
頭に上っていた血が下がっていく。

私は、いったい、何を。


「同じ姿でも、俺は前の皇帝と違うって、わかってるよな?」
「はい……」

東亮。
名も姿も似ているが、別人であると。理解しているはずだった。


「突然、よく知らない人から求愛されても困るわけだ。中身はどうでもいいのか、身体だけが目的なのかと思っちゃうからな?」

「はい……」
よくよく考えれば、何と罪深いことを。


「……陛下、」
「何だ? ……え、何泣いてんの!?」

「私を、馘首クビにしていただけませんか……?」
「ええっ!?」

「私は、別人と理解し、忠誠を誓うと言っておきながら……、おこがましくも、他の者が御身に触れるのを許せず、挙句、来世も共にと誓ったのだからこの陛下も私のもの、などという浅ましい暴言を……、」

「いや、やっぱりまだ混乱してるんだよ。頭では理解してても、恋人と同じ姿じゃ、そう思っても仕方ないんじゃないか?」
何とお優しい、慈悲深い方だろう。


しかし。
「それに、私が原因で、陛下が身罷みまかられたとあらば……自分を到底許せません」


*****


「親戚の咎まで被ることはないよ。というかまだ、そいつが犯人と確定したわけじゃないし。それとも、恋人と同じ顔をした俺に仕えるのが辛いなら。……しばらく、誰かに代わってもらうか?」


辛くはない。
許されるなら。むしろ、後を託されたこの方を、私が守らねば。

かれに託した亮に。あまりにも申し訳が立たないではないか。


「いいえ、かなうのなら……御身の傍で……私が、お守りしたい……!」

「中身が、別人でも?」
「はい。陛下は、陛下です。これより私情を捨て、職務に徹することに執心致します」
手を合わせ、叩頭礼をした。


「……よし、許す。丞相には、引き続き俺の世話を頼もう」
「御意」
更に深く、頭を下げる。


「その他大勢も、もういいから。解散!」

「扱いが雑すぎる!」
文句を言いながらも、三々五々、帰っていった。
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