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三章 一陽来復
誨淫導欲
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陛下は、私と李公にしたのと同じ説明をされた。
「で、何で自分が恋人だったとか嘘吐いたんだよ?」
陛下の問いに。
崔公は片目を閉じ、悪びれる様子もなく言った。
「いや、陛下は広陵丞相がお気に入りだったから諦めてたけど、記憶が無いならオレにもチャンスの目があるかなって。つい。テヘ」
つい、で陛下を謀るな。
*****
「武師父も、たぶん同じだと思う。火を放つとかありえない。むしろ、武師父はそういうのを捕まえるのが生き甲斐っていうか、天職なんだよ?」
それは、私も同意である。
しかし。
「余計な嘘を吐くのが悪い。こちらには情報が全く無い状態だったんだからな」
そう。
陛下のお怒りも尤もである。
李下に冠を正さず。
疑わしき行動は取るな、と先人の教えでも幾度も言われていように。
崔公は溜め息を吐いた。
「オレ達のことまるっきり知らないなら、そりゃ疑われるのはしょうがないけど。悲しいなあ。一番に打ち明けたのが広陵丞相ってのもさあ」
力が抜けたように、座り込み。
「……そっか。オレが知ってる陛下はもう、いないんだ……」
崔公が太尉の位を戴いて、5年である。
まるで子犬のように、陛下に付き纏っていた。信じがたい話だろう。
しかし。
我らの知る陛下は。
もう、この世にはおられぬのだ。
*****
「あ、そのカラダは陛下のものなの?」
崔公は、がばっと顔を上げた。
身体?
「李公は、DNAや虹彩、指紋、声紋は陛下と同じだと言っていたが」
「え、李君にも話してたの? オレが後? 三番目? ひっでえ! 皇帝直属の忠臣である三公の一人、太尉だよ!?」
泣き真似をして、陛下に飛びついた。
「ひゃ、ちょ、」
ぺたぺたと、陛下の身体を確かめるように、触れている。
何をしているかと思えば。
陛下の上衣の袖から、腕を出させた。
「広陵丞相はまだ、何にもしてなかったんだ。だから気付かなかったんだな? ほら、筋肉のつき方が、全然違うだろ?」
先程、腕を掴んだ時に気付いたようだ。
「確かに……細い」
以前の陛下は、木剣や銅剣で打ち合いなどをし、鍛えていたのでそれなりに筋肉が張っていた。
しかしこちらは、運動をしたことがないように真っ白で、細い。
身体ごと、こちらへ来たのか。
では、元々の陛下の御身体は? 異世界に、一人で放置されているのだろうか?
「まだも何も、俺は男と何かをするつもりはないんだが」
不本意そうに陛下が言われた。
何か、とは。
「あ、そっか。違う世界から来たんだっけ。……ここ、男以外、選択肢はないよ?」
崔公は理解したように手を打った。
「はあ?」
「ああ、まだ未読なんだ? えーっと。確かこの本の、この辺りだよ、」
机の上の歴史書を開いて、示した。
成程。
今の陛下のおられた世界には、まだ女性が存在しているのか。
こちらはそれがもう当たり前であったので、考えもしていなかった。
*****
「そっちのお世話、どうする? 年頃の男なんだから、必要でしょ。後宮開けて、綺麗どころ呼んでおく?」
崔公に問われ。
陛下は慌てて首を横に振っている。
下の世話の話か。
私は、前の陛下が精通されてから、ずっとお世話してきたが。
こちらの陛下はそれが当たり前ではなかったのか。今頃気付いた。
「そっか。どうにかしたくなったら、いつでも呼んでね。オレ、上手いよ? 初心者でも中イキさせてあげられるし」
陛下の手を取り、笑顔でとんでもないことを言っている。
「な、崔公、何を、」
「中イキって?」
陛下は不思議そうに首を傾げている。
ご存じないのか。
そんな無垢な方に、下世話な話を教えていいものだろうか。
焦っている内に、崔公は陛下によからぬことを耳打ちをしていた。
「へー、えー? 嘘……」
頬、耳、首と。みるみる真っ赤になっていく。
陛下のお耳を汚すな。
止めようとしたが。
そっと崔公の背後に忍び寄る武公の姿を確認。
「陛下に何を吹き込んでいる、伯裕」
「いてっ、……うわ、武師父!?」
武公は、私の代わりに崔公の頭に拳骨を落とした。
「話はみな、聞かせていただいた。陛下ではないだろうことは、あの時に気付いていたが……まさかそういうこととは」
力強く、頷いていた。
「で、何で自分が恋人だったとか嘘吐いたんだよ?」
陛下の問いに。
崔公は片目を閉じ、悪びれる様子もなく言った。
「いや、陛下は広陵丞相がお気に入りだったから諦めてたけど、記憶が無いならオレにもチャンスの目があるかなって。つい。テヘ」
つい、で陛下を謀るな。
*****
「武師父も、たぶん同じだと思う。火を放つとかありえない。むしろ、武師父はそういうのを捕まえるのが生き甲斐っていうか、天職なんだよ?」
それは、私も同意である。
しかし。
「余計な嘘を吐くのが悪い。こちらには情報が全く無い状態だったんだからな」
そう。
陛下のお怒りも尤もである。
李下に冠を正さず。
疑わしき行動は取るな、と先人の教えでも幾度も言われていように。
崔公は溜め息を吐いた。
「オレ達のことまるっきり知らないなら、そりゃ疑われるのはしょうがないけど。悲しいなあ。一番に打ち明けたのが広陵丞相ってのもさあ」
力が抜けたように、座り込み。
「……そっか。オレが知ってる陛下はもう、いないんだ……」
崔公が太尉の位を戴いて、5年である。
まるで子犬のように、陛下に付き纏っていた。信じがたい話だろう。
しかし。
我らの知る陛下は。
もう、この世にはおられぬのだ。
*****
「あ、そのカラダは陛下のものなの?」
崔公は、がばっと顔を上げた。
身体?
「李公は、DNAや虹彩、指紋、声紋は陛下と同じだと言っていたが」
「え、李君にも話してたの? オレが後? 三番目? ひっでえ! 皇帝直属の忠臣である三公の一人、太尉だよ!?」
泣き真似をして、陛下に飛びついた。
「ひゃ、ちょ、」
ぺたぺたと、陛下の身体を確かめるように、触れている。
何をしているかと思えば。
陛下の上衣の袖から、腕を出させた。
「広陵丞相はまだ、何にもしてなかったんだ。だから気付かなかったんだな? ほら、筋肉のつき方が、全然違うだろ?」
先程、腕を掴んだ時に気付いたようだ。
「確かに……細い」
以前の陛下は、木剣や銅剣で打ち合いなどをし、鍛えていたのでそれなりに筋肉が張っていた。
しかしこちらは、運動をしたことがないように真っ白で、細い。
身体ごと、こちらへ来たのか。
では、元々の陛下の御身体は? 異世界に、一人で放置されているのだろうか?
「まだも何も、俺は男と何かをするつもりはないんだが」
不本意そうに陛下が言われた。
何か、とは。
「あ、そっか。違う世界から来たんだっけ。……ここ、男以外、選択肢はないよ?」
崔公は理解したように手を打った。
「はあ?」
「ああ、まだ未読なんだ? えーっと。確かこの本の、この辺りだよ、」
机の上の歴史書を開いて、示した。
成程。
今の陛下のおられた世界には、まだ女性が存在しているのか。
こちらはそれがもう当たり前であったので、考えもしていなかった。
*****
「そっちのお世話、どうする? 年頃の男なんだから、必要でしょ。後宮開けて、綺麗どころ呼んでおく?」
崔公に問われ。
陛下は慌てて首を横に振っている。
下の世話の話か。
私は、前の陛下が精通されてから、ずっとお世話してきたが。
こちらの陛下はそれが当たり前ではなかったのか。今頃気付いた。
「そっか。どうにかしたくなったら、いつでも呼んでね。オレ、上手いよ? 初心者でも中イキさせてあげられるし」
陛下の手を取り、笑顔でとんでもないことを言っている。
「な、崔公、何を、」
「中イキって?」
陛下は不思議そうに首を傾げている。
ご存じないのか。
そんな無垢な方に、下世話な話を教えていいものだろうか。
焦っている内に、崔公は陛下によからぬことを耳打ちをしていた。
「へー、えー? 嘘……」
頬、耳、首と。みるみる真っ赤になっていく。
陛下のお耳を汚すな。
止めようとしたが。
そっと崔公の背後に忍び寄る武公の姿を確認。
「陛下に何を吹き込んでいる、伯裕」
「いてっ、……うわ、武師父!?」
武公は、私の代わりに崔公の頭に拳骨を落とした。
「話はみな、聞かせていただいた。陛下ではないだろうことは、あの時に気付いていたが……まさかそういうこととは」
力強く、頷いていた。
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