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三章 一陽来復

盈満之咎

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自ら香油で慣らされた様子だが。
きつく、痛いほどであった。

殿下は苦痛を見せず。不敵に笑んでみせるそのお姿に、私は見惚れていた。


眩いまでの、黄金色。
腰を揺するたび、汗が飛ぶたびに、内から光が溢れてくるようで。

何と生命力に満ちたお姿だろうか。
まさしく、光の御子。


「耀。……我の中に、放て。お前の、子種を」

腹に手を当て、そのように命じられ。
私は、きつく締め付けるそのはらわたに、精を放った。


それから、毎夜のように床を共にして。
絆を固めていった。


私の方が背が高いせいか。
殿下は寝台では逆に私を見下ろせるのがお好きなようで。

体位を崩すことは、決して許されなかった。


*****


殿下は15に成り、劫、の字を戴いて。

殿下から、陛下に御成りあそばせた。
先の皇帝陛下は、式を見届けた後、お隠れになってしまわれた。


それでも、陛下は涙一つ、泣き言も漏らさず。
見事に新皇帝として、葬儀を終えられたのだった。

初勅は、人員の入れ替えであった。

それまで調べ上げていた、三公並びに官僚が裏で行っていた離反行為を突きつけ、罰した。
皇帝に対する侮辱である。死罪に処した。

澱んだ朝廷を、新しいものへと変えるためである。


私は丞相を任じられた。
他の人員は好きなようにしろと命ぜられたので、次の太尉にと目されていた武 宗元ぶ そうげんを大尉ではなく、御史大夫に推した。

何度か手合わせを願ったこともある。武人としての腕も惜しいが、个人电脑パソコンの扱いにも慣れ、人心掌握術にも長け、何より公明正大な人格者であった。
これ以上の人材は見つからないと考えたのだ。


武公は、どうせなら太尉が良かった、と渋っていたが。
自分が目をかけている崔 伯裕さい はくゆうを太尉にするなら受ける、と言った。

崔伯裕は武公の子弟で、18の若さでかなりの武功を上げているとのこと。
私も名を覚えていたので、了承した。


*****


尚書令には、官吏であった趙 羽ちょう うを指名した。
以前から仕事の出来る人間だと目をつけていた者だ。

刑部尚書けいぶしょうしょの指名は御史大夫、兵部尚書ひょうぶしょうしょの指名は太尉に任せた。
自分の部下なら、間違いがないだろうと思ったのである。


とりあえずは、綺麗になったと思いたいが。
出世欲や金銭欲というものは、人の心を変えてしまうものだ。周囲の人間も。

私欲に負けないことを願う。


崔公は、隙を見ては陛下の背後を取ろうとするのが困りものだが、気配を辿る練習にもなるので放置していた。
しばらくしたら、小刀を投げられていた。

懲りるどころか、崔公はむしろ殺る気で投げて欲しい、などと言っていた。
陛下を修行に使うな。


武公は期待通り、目覚しい活躍をしてくれた。

自分が御史大夫になったからには不正は許さぬ、と。諸侯及び各省に通達し、締め上げただけでなく。
職場の効率化をはかり、御史台は電脳の砦と化した。

適材適所、という言葉が浮かんだ。


今までは、居るべき人がそこに居なかったため、滞っていたのだ。

新皇帝の治世するこの国は、更に素晴らしいものになるだろう。
そう予感させる幕開けであった。


*****


「陛下、爪が少し長いですね。削りましょう」
長椅子まで手を引き、横になっていただき、やすりを手にした。

執務中は、諱ではなく陛下と呼んでいる。


もはや宮中で知らぬものはいないだろうが。
私と陛下の関係は、公にされてはいない。それでいい。

床で身分を得た、と陰口を叩かれようが。
陛下さえ居れば、それで。


「このくらい、まだ何でもないだろう」
「引っ掛けて、怪我をされては困ります」

以前、足の爪を切り忘れ、くつの中で折れて痛い目に遭ったことがある。
たかが爪と侮るなかれ。


陛下は柳葉のような眉を上げて。
「……耀は、存外過保護なところがあるのだな?」

「転ばぬ先の杖、というものです」


どこからか、涼しい風が吹いてきた。

暑さも落ち着いたと思えば、もう秋か。
早いものだ。


先の陛下より譲位されて、もう5年も経つのか。
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