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三章 一陽来復

風木之悲

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何故、私は。
仁の病気に気付かなかったのだろう。


初期であれば。
切除し、完治も可能であっただろうに。


もって半年?
……もう、手遅れだと?

嘘だろう、そんな。


私は、まだ。


*****


「元々、殿下の乳母はわたしだったのだ。なのに、殿下は耀耀と、おまえのことばかり重用する。おまけのように扱われ、わたしがどれほど辛い思いでいたか、わかっているのか!?」
仁は、これまでとはまるで別人のように叫んだ。

このような表情で、話す人ではなかった。

「嫌がらせを受けても、おまえは涼しい顔をしていたね。わたしは、塗炭の苦しみであったのに。官吏を操り、わたしを排除しようとしたのは、おまえだったのではないか?」
まるで、悪鬼に憑かれたような表情で。

「そもそもおまえを拾ったのも、乳母として称賛を得るためで、愛していたわけではない。……悪魔の忌み子として棄てられた、呪われた子など、拾うのではなかった!」


本心では、ないはず。
決して。

このようなことを、言うような人では。


「もうよせ、仁。下がれ」
厳しい声が、響き渡る。

……殿下。


殿下は、控えていた兵に命じ、仁を医局まで運ばせた。

興奮したせいだろう。
仁は、ぐったりとした様子であった。

医局まで着いていきたかったが。
私を見て、また、興奮させてしまったら。その恐れが私に二の足を踏ませた。


「申し訳ありません。……身内が、お見苦しいところを……」

「構わぬ。乳母だ。我にとっても身内である。耀、部屋に来い」
殿下は踵を返し、先に歩き出した。


*****


「……脳を、病魔に冒されているのだそうです。それ故の妄言でありましょう」


仁、の名の通りに。
思いやりや慈しみの心を持つ人であった。

輝くような人生を、と。
耀のいみなをくれたのも。


他人である私を拾い育ててくれた恩に報いるため、恥ずかしくないようにと日々精進努力してきたつもりである。
けれど。

「私は未だ、仁に、恩返しのひとつも出来ていないのです」

仁から受けた恩を。
何一つ、返せてはいないというのに。


殿下の私室に着いて。
寝台に座るよう促された。

ぎゅっと、頭を抱え込まれる。

「知っている。耀は、仁の恥にならぬよう、必死に学んでいたと。あまりに健気で、両方登用したのだと父上が仰っていたぞ。思ったより有能で驚いたとも」
陛下が。

「耀は、眉目秀麗で学もあり武も素晴らしい。自分には勿体無いくらいの、自慢の子だと仁は言っていたぞ」


殿下は、私の頭を撫でている。
「脳の病は、人を鬼へも変えるものだ。……耀、許す。我の前で、泣くがいい。親の大事だ。仕方ない」


私は、殿下のお言葉に甘えた。


*****


仁の妄言は、日毎に酷くなっているとのことであった。

耀が自分を殺しに来る、と怯えて暴れていると。
故に見舞いにも行けぬまま、病状は悪化し。やっと病室へ入ることができたのは、危篤の報せを受けた時であった。


仁は、すっかり痩せ衰えてはいたが。
穏やかな顔で眠っていた。

「仁。……親孝行できずに、申し訳なかった」

手を握ると。
目を開いて、私を見た。

仁は、天人のように微笑んで、言った。

「おまえが愛す者は、必ず不幸になる。おまえは呪われた子だ」


それが、最期の言葉であった。


殿下の胸をお借りすることを許され。
後に、私に命じられた。

「耀。お前はこれより我にのみ仕え、我のこと以外考えず、我にのみ心を許すのだ。良いな?」


私はその命に縋り、従った。
盲目的なまでに。



*****


殿下は13になった或る日、精通された。


自慰の仕方を教えろ、と。
命じられるままに、私の手で、絶頂まで導いた。

殿下も、私の魔羅に触れ。まるで、競うように高めあった。


そうして、何度か夜を過ごした頃。
寝台に横になっているよう命じられ、従った。

殿下は夜着を脱ぎ、一糸纏わぬ姿で私の胴を跨ぐと。
「お前を、にする。お前は我の一番の臣。生涯決して離さず、側に置いてやる」


来世も共に。

そう告げて。
私の魔羅に、腰を落としたのだった。
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