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三章 一陽来復
一期一会
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陵とは、墓という意味である。
広陵の一族は、代々王墓を守ってきていたという。
それがいつしか”生まれた皇子を育てる”という、逆転した役割を与えられ。
我が養父である仁も、御子を預かることとなった。
私の真実の氏素性は不明である。
広陵邸の前に棄てられていたのを、仁が拾い、育ててくれたのだ。
理由は恐らく、私の瞳の色であっただろう。
今は菫色だが。子の頃は空のように青かったのである。
どういう遺伝子の悪戯だろうか。先祖返りをしたのかもしれない。
とにかく、私が疎まれていたのだろうことは確かであった。
*****
訳知り顔の大人が、どのように棄てられていたかを詳しく語ってくれたのだ。頼みもしないのに。
赤子であった私の額には、悪鬼祓いの札が数枚、針でとめられていたとのことだ。
成程、針を見るとなんともいえず寒気がするのはそのせいであったか、と得心した。
痛いはずだろうに、泣き声も上げなかったという。
お前は赤子の頃から可愛げがない、呪われた子なのだろうと言われた。
物心もつかない赤子の頃の話をされても、まだ子供であった私はどう答えて良いものかわからなかった。
無言で相手を見据えていると、薄気味が悪いと疎まれる。
その繰り返しである。
誰にどう思われようが、どうだっていいのだが。
このような得体の知れないものを拾い育ててくれた養父の仁の足を引っ張るわけにはいかない。
私は寸暇を惜しみ、勉学に励んだ。
七つにして千の詩歌を諳んじ、大学の試験問題を解いてみせたことで、先代皇帝の覚えもめでたく。
皇子誕生の際に、仁と共に皇子の世話係を皇宮に住み込みでつとめるよう、勅令を受けた。
仁はそれを、我がことのように喜び祝ってくれたが。
乳母とその息子、広陵の一族が揃って朝廷に上がることで、一族の出世のため、幼い皇子を操りかねないと思ったのだろう。
仁は心無いいやがらせを度々受けていた。
まだ子供だったせいか、私は精々嫌味を言われたり、足を引っ掛けられるくらいだった。
私は足腰を鍛えるために常に鉄の履物でいたので、足を引っ掛けたことで悶絶するのは、足を出した本人であった。
嫌味など、聞き流せば良い。
聞くだけ無駄である。
*****
皇子がはじめに覚えられた言葉は、”よう”。私の名であった。
乳母は私なのに、と仁は苦笑していた。
理由はわからないが、皇子は私のことを大層気に入られた様子で。皇子は、目を開いて私がいないと、癇癪を起こし大泣きするほどであったという。
ただ泣き、乳を飲み排泄するだけであった赤子が徐々に育っていき、言葉を発するようになる様子に、私は驚きを感じていた。
自分もこうして仁が大きくしてくれたのだと思うと、仁には頭が上がらない。
私がこうして陛下の御目に留まり、皇子の世話係にまで出世できたのは、ひとえに育ての親が優秀だからである。
と、可愛げのない感謝の言葉を述べても、仁は微笑むだけであった。
私が立身出世することは、育ての親である仁への恩返しになるのでは、と考えていた。
皇帝陛下と初めて謁見がかなった際。
陛下の御身は黄金色の光を纏っていて、眩しいほどであった。
御世を統べ、天候をも操る力を持つのは、皇帝陛下一人だけなのである。
しかし、皇子がお育ちになるにつれ、その輝きが失せていった。
天子の力を、皇子に譲られたのだ。
天子はこの世にただ一人。
皇帝の寿命は、只人と比べ、永い。望めば千年の刻をも生きられるらしい。
しかし、どの皇帝でも200年ほどで生きるのに飽いて、皇子を儲け、老いて廟に入ることを選ぶのだという。
皇帝は、御姿こそ青年であられたが、御年156であった。
問題は、三公や諸侯、官僚たちであった。
皇帝の座が次代に譲られることに伴い、人員の移動は不可避である。皇帝を支えるため、在位の間、永い寿命を与えられるのだ。
それが奪われることとなる場合もある。
彼らは、皇子に一番近い立場にいる私や仁を、手中に囲い込もうとしたのだった。
広陵の一族は、代々王墓を守ってきていたという。
それがいつしか”生まれた皇子を育てる”という、逆転した役割を与えられ。
我が養父である仁も、御子を預かることとなった。
私の真実の氏素性は不明である。
広陵邸の前に棄てられていたのを、仁が拾い、育ててくれたのだ。
理由は恐らく、私の瞳の色であっただろう。
今は菫色だが。子の頃は空のように青かったのである。
どういう遺伝子の悪戯だろうか。先祖返りをしたのかもしれない。
とにかく、私が疎まれていたのだろうことは確かであった。
*****
訳知り顔の大人が、どのように棄てられていたかを詳しく語ってくれたのだ。頼みもしないのに。
赤子であった私の額には、悪鬼祓いの札が数枚、針でとめられていたとのことだ。
成程、針を見るとなんともいえず寒気がするのはそのせいであったか、と得心した。
痛いはずだろうに、泣き声も上げなかったという。
お前は赤子の頃から可愛げがない、呪われた子なのだろうと言われた。
物心もつかない赤子の頃の話をされても、まだ子供であった私はどう答えて良いものかわからなかった。
無言で相手を見据えていると、薄気味が悪いと疎まれる。
その繰り返しである。
誰にどう思われようが、どうだっていいのだが。
このような得体の知れないものを拾い育ててくれた養父の仁の足を引っ張るわけにはいかない。
私は寸暇を惜しみ、勉学に励んだ。
七つにして千の詩歌を諳んじ、大学の試験問題を解いてみせたことで、先代皇帝の覚えもめでたく。
皇子誕生の際に、仁と共に皇子の世話係を皇宮に住み込みでつとめるよう、勅令を受けた。
仁はそれを、我がことのように喜び祝ってくれたが。
乳母とその息子、広陵の一族が揃って朝廷に上がることで、一族の出世のため、幼い皇子を操りかねないと思ったのだろう。
仁は心無いいやがらせを度々受けていた。
まだ子供だったせいか、私は精々嫌味を言われたり、足を引っ掛けられるくらいだった。
私は足腰を鍛えるために常に鉄の履物でいたので、足を引っ掛けたことで悶絶するのは、足を出した本人であった。
嫌味など、聞き流せば良い。
聞くだけ無駄である。
*****
皇子がはじめに覚えられた言葉は、”よう”。私の名であった。
乳母は私なのに、と仁は苦笑していた。
理由はわからないが、皇子は私のことを大層気に入られた様子で。皇子は、目を開いて私がいないと、癇癪を起こし大泣きするほどであったという。
ただ泣き、乳を飲み排泄するだけであった赤子が徐々に育っていき、言葉を発するようになる様子に、私は驚きを感じていた。
自分もこうして仁が大きくしてくれたのだと思うと、仁には頭が上がらない。
私がこうして陛下の御目に留まり、皇子の世話係にまで出世できたのは、ひとえに育ての親が優秀だからである。
と、可愛げのない感謝の言葉を述べても、仁は微笑むだけであった。
私が立身出世することは、育ての親である仁への恩返しになるのでは、と考えていた。
皇帝陛下と初めて謁見がかなった際。
陛下の御身は黄金色の光を纏っていて、眩しいほどであった。
御世を統べ、天候をも操る力を持つのは、皇帝陛下一人だけなのである。
しかし、皇子がお育ちになるにつれ、その輝きが失せていった。
天子の力を、皇子に譲られたのだ。
天子はこの世にただ一人。
皇帝の寿命は、只人と比べ、永い。望めば千年の刻をも生きられるらしい。
しかし、どの皇帝でも200年ほどで生きるのに飽いて、皇子を儲け、老いて廟に入ることを選ぶのだという。
皇帝は、御姿こそ青年であられたが、御年156であった。
問題は、三公や諸侯、官僚たちであった。
皇帝の座が次代に譲られることに伴い、人員の移動は不可避である。皇帝を支えるため、在位の間、永い寿命を与えられるのだ。
それが奪われることとなる場合もある。
彼らは、皇子に一番近い立場にいる私や仁を、手中に囲い込もうとしたのだった。
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