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二章 図南鵬翼

図南鵬翼

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「御史大夫、こちらへ」

訂正箇所に、赤い字で注意書きを入れて。
跪いて待機していた宗元に戻す。

『はっ、』

赤字だらけの書類に、一瞬泣きそうな顔をしたけど。
あともうちょっと、がんばって、の文字に微笑みを浮かべた。


『修正後、早急にお持ちします』
「明日でよい」

休むのも、仕事のうちだ。
無理を続けて倒れても、いいことないからな。

信季の治療は、最後の手段と思って欲しい。


*****


「本日の執務はこれまで」


俺の号令に、官たちはほっと息を吐いた。
それまで、皇帝と同じ部屋で仕事なんかしたことない人たちだったので、緊張していたんだろう。
お疲れ様だ。

どっかの国会中継で良く見る居眠りとか下品なヤジを飛ばすとか、絶対させないからな!

はっ、もしかして玉座の上の大玉は、緊張感を与えるための……!?
それはないか。


『お疲れ様でーす』

信季が、官のいなくなった乾正殿へお茶を持って来てくれた。
今日は緑茶に、こしあん入りの饅頭だ。

饅頭というのは元々、川の神に生贄として人の頭を流すのを、豚肉を皮で包んでこしらえた饅頭を代わりにしたことからできたものだ。
だから饅頭といえば、普通は肉なんだけど。

中にあんこを入れたものは、渡来人の一族が日本に来て広めたんだ。
こっちにはあんこの饅頭がなかったから、俺がリクエストして作ってもらった。

中華料理屋で見るターンテーブルみたいに、逆輸入ってことになるのかな?


「わーい、信季、ありがとー」

ハグのついでに診察をされる。
『ん、ちょっと肩凝ってるくらいで健康ですね』

肩が軽くなった。


”気”を診てるだけだよ。
睨むなよ、耀……。


*****


『陛下もだいぶ陛下らしくなってきたよねー。なんか神々しくてちょっと距離感じて寂しいなー』

伯裕はどうして毎回、背後から忍び寄って抱き付いてくるのか。
それに。

「ゼロ距離じゃないか」

チチチ、と人差し指を振って。
『NoNo、お仕事中の話よ。オレはもっと近くで仕事したいのに、席が遠い……』


左に丞相、真ん中に皇帝、右に御史大夫。
丞相側に尚書令、ほか各省のトップ。御史大夫側の席に太尉、ほか各省のトップ、という並びだった。

本来、身分が高いほうが左なんだけど。
伯裕が丞相の隣は嫌だと言い張ったので右側になった。小学生の席替えじゃないんだから。

おかげで席が移動になった尚書令が半泣きだった。


まあ、席に全員がつくのは、大事なことを決める会議の時だけだけど。
国政である。緊張感をもってやってほしい。


引きこもりニートが、うっかり異世界に来ちゃって。
入れ替わりに皇帝になって。

わからないことだらけで、どうなることやらと心細くも思ってたけど。

補佐も優秀なことだし。
意外とここで、民からも支持される皇帝をやっていけそうだよ。


朱亮。
あんたもそっちの世界で、元気でやってるといいな。


*****


『小亮、部屋に戻りましょうか』
「ん、」

俺に貼りついていた伯裕をべりっと引き剥がした耀が、俺の背を抱いた。


『そういう甘い囁きは部屋でやってくんないかな……腎虚になればいいのに』
信季は嫌な呪いの言葉を……。

『くっそ、オレは諦めないからな!』
伯裕が叫んで。

『虎視眈々とその日を待つだけだな』
宗元は頷いていた。


耀は、呆れた様子で三人を見て。

『負け犬の遠吠えなど、みっともない……』
俺を、お姫様抱っこで持ち上げた。

『この方は、未来永劫私のものですので、悪しからず』
堂々と宣言して、乾正殿から出た。


未来永劫って。愛が重い……。

まあでも、そんな執着が嬉しくて幸せなのは。
割れ鍋に綴じ蓋ってことかな?


*****


「大好き、耀」
頬にキスをする。

『愛していますよ、小亮』

毎日、飽きずに愛を囁いてくれる。
俺は幸せ者だね。


脱ニート。
明日も皇帝頑張らないと。

今夜は寝かせてもらえそうにないけどね。




おわり
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