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二章 図南鵬翼

多々益々弁ず

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『終わった……ようやく、割り振りが終わった……』


宗元が、ふらふらと図書室に入ってきた。
目の下にはクマ。髭ももっさり伸びているし、げっそりとやつれている。

「よく頑張った……! お疲れ様、宗元」
よろよろしている宗元を、ひしっと抱きとめる。

痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!


*****


「どうにかしてあげて?」

振り返ってみると。
信季は半眼で宗元を見ている。

『でも、幸せそうにニヤニヤしてますよ? その熊』
熊って。


「信季、お願い」
『仕方ないですねー。陛下のお願いなら、小汚いオッサンの手だって握りますよ』
と、しぶしぶ宗元の手を取った。

信季言うところのその小汚いオッサン、泣く子も黙る公安のトップなのに……。


『ハイ元気元気。陛下からとっとと離れて』
『むう、』

信季は宗元の背を押しやった。


はどんな感じだった?」

すっかり元気になった宗元は、肩を竦めた。
『一部官僚より、不満の声がなくもなかったのですが。勅令である、の一言で何とか鎮めました』


宗元の私室がある御史台ビルは、司法省の管轄になるようだ。

結局、丞相・御史大夫・太尉、三公の名称は馴染みがあるのでそのままがいい、ということで続行。
何千年も続いていたんだもんな。旧名は旧名で、尊重しないと。


*****


増えた省の増築・移動もだいたい終わって。
土地の管理を国土資源省に割り振りしたお陰で、わかりやすくなったとか。

それなら良かった。
これで風通しがよくなれば御の字だ。


「あとは、人力資源社会保障省管轄の、労働基準法だな!」

『それがあったか……』
宗元は、がっくりと肩を落とした。

法律の制定は、国務院の三公が担当である。
でもって、おそらく完璧主義の宗元が仕切ることになる。

……頑張ろうな?


国民の声を聞きすぎても、君主制の崩壊に繋がりかねないけど。
この世界は天子の力によって天候が落ち着いて平和である、という根強い信仰がある。下手うって支持率下げないように気をつけないと。

毎月色々ある、国家安寧を祈る儀式や天候の神に祈る儀式とかも、何とかこなして。


朱亮ほどはこなせないにしても。
皇帝のふり……いや、皇帝らしさが身についてきた気がする。


頭上を見上げる。
主に皇帝が施政をする時に使う、乾正殿けんしょうでんという建物である。

建物のネーミングは聞いたことがないものが多いので、長い歴史の中で変わったのかもしれないし、元々そうなのかもしれない。


玉座の上には大きな玉が吊るされていて。皇帝以外や皇帝に適さない人物がこの席に座ると、天罰により落下して頭をかち割る、という恐ろしい言い伝えがあるそうだ。
タライならギャグで済むけど。あれ、落ちてきたら、普通に死ぬよな。

まだあれが落ちてこないという事は。
俺は、皇帝として認められているのだろう。


『陛下、労働基準法の草稿、出来上がりました。どうぞお目通しください』
くたびれた様子の宗元が、分厚い書類の束を掲げ、正面へ。

「ご苦労であった。しばしそこで待たれよ」


宗元、お疲れ……。
とねぎらってやりたいけど。

尚書令や、他の官の目もあるので、皇帝モードだ。



*****


最低賃金を一律化してしまうと、地方や雇い主の経済状況により、支払えない事態に陥る。
平均収入から考えても、所得格差が激しい場合、低いほうが割りを食う。その辺も想定しないと。

商売というのは、原価を抑えても、人件費が一番掛かるんだよな。

そりゃみんなオートメーション化に走るよ。
機械は文句言わないし、休みもいらないもんな。問題は初期費用、メンテくらいだ。


労働者だけでなく、事業者も守る法律も整備しないといけない。
税金が高すぎる、と海外へ逃げた会社がいっぱいあったな。

結局、金型とか技術を盗まれただけで、ろくなことにならなかっただろうに。

先々のことを考えず、自分の欲や、目先の利だけを追うと、損をする。
この世界では海外の人件費が安いかどうか知らないけど。


知的財産は、国で守るべきだ。
デザイナーや先駆けが泣きを見るような世の中はいけない。著作権については厳しく行こう。


……おっと、主題がずれてきた。
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