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二章 図南鵬翼

汗馬の労

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『ほら、武師父の部屋って認証山ほどある上に、暗証番号入力しないと入れないじゃない? ヤケ酒飲みすぎたせいで自力で出来ないから仕方なくオレの部屋に運んだんだけど、重いわうるさいわでもう……』
げんなりしている。

腐っても師なので、その辺に放って置くわけにもいかず。宗元をベッドに放り投げて、伯裕がソファーに寝たんだそうだ。
悲しきかな、刷り込まれた上下関係。


『で。師父は二日酔いで伸びてて出られないので、オレが代わりに出たわけデス』

ああ、あれだけ老酒飲んだら、そりゃそうだろ。
度数も強いんだし。


「ご苦労様。じゃあ、今度でいいか……」
切ろうとしたら。

電話口から、何、陛下からか!? と宗元の声がした。


*****


しばらくして。


『今すぐ行きます、這ってでも、とのことデス』
来るんだ。仕事人間だなあ。

でも、こっちに来れば、信季に治してもらえるだろう。
多分。


「じゃあ悪いけど、伯裕も一緒に来てくれる?」
『オッケーでーす!』

嬉しそうだな。
ていうか元気だな、伯裕。


『自棄酒の理由はわからなくもないですし、今回だけ特別ですからね? はあ、髭面で酒臭いむさくるしい男の手なんか握りたくないのになあ……』
信季はものすごく嫌そうだったが。宗元を治療してくれた。

『ありがたい。助かった』

宗元はすっかり元気になって。
むしろここまで宗元を連れて来た伯裕の方が疲れて見える。


「俺も男なんだけど……。皇帝だから諦めてるのか? 悪いな」
呪師は皇帝直属の医者だというし。

信季は真顔で言った。
『陛下はむさくるしさとは無縁ですし、いい匂いがするすべすべお肌の美人なら隙あらば握りにいきたいです』

無縁とまで言われると、成人男子として悲しいんだが。

まあ、そりゃ手を握るなら、男でも美人の方がいいか。
この世界、男しかいないけど。


*****


「俺は信季と手を握っても、全然嫌じゃないよ?」
清潔感あるし、イケメンだもんな。

信季は輝くような笑顔を浮かべた。
『なら、隙あらば握りますね!』

え、いや俺はいい匂いがするすべすべお肌の美人じゃないけど。
いいの? ま、いいか。わーい。


何故か信季とアルプス一万尺みたいな手遊びをしてみたり。

どうでもいいが一万尺とは三千メートルのことで。そんな山の小槍の上で踊ったら危険である。小槍とは、岩山にある尖った岩の先ことだ。


『李君、超心の狭い旦那の目の前で堂々と人妻を口説くとか、勇気あるなあ……』
誰が人妻だ。伯裕。

『これが若さか……』
宗元は何か達観したこと言ってるし。


超心が狭いと言われた耀は、余裕の笑顔である。
身も心も結ばれたからか?


『あの、陛下。俺に御用とは、御史大夫としてですか?』
「あ、そうだった。聞きたいことがあって……」

宗元に、労働基準法制定に向けてのことを相談した。


宗元は、厚生労働省とやらを新しく作るより、御史台の人員を増やして専用の部署を作った方が早いというので。
労働環境の調査などは、全てそちらに任せることにした。

もちろん、決定には皇帝の許可が必要になるので、打ち合わせは密にしないといけないけど。
そのくらいは、しっかりやらないとな。


*****


まずはこの国の、政治の仕組みを再確認しなくては。

元の世界の古代中国とはあちこち違うので、なまじあっちの知識があると混乱しそうだ。
というかすでに混乱している。


基本的に”尚書しょうしょ”というのは内閣のことで、”寺”というのは官庁にあたるようだ。

三公……丞相、御史大夫、太尉が皇帝直下の宰相で。
その下に諸侯、九寺。尚書省、門下省、中書省、秘書省、殿中省、内侍省。
それと、それぞれの州に地方官がいる。

医局は完全独立した機関で、どの部署にも属していない。
ただ、医師免許は尚書省の許可が必要らしい。日本だと、厚生労働省の管轄になるんだっけ?

丞相は政治の実権を握る役職で、50州の王の上に立つ、大統領的役割だ。
尚書省の尚書令と吏部尚書も受け持つ。

御史大夫は主に行政、御史台・刑部・大理寺の司法機関を総括する官僚の監察役。
ほか門下省、中書省、秘書省、殿中省、内侍省も受け持つ。

太尉は軍関係と外交。いわば防衛庁と外務省みたいなものだ。
尚書省の兵部尚書と礼部尚書、工部尚書も受け持つ。


諸侯はあっちでは大司徒や大司馬なんだけど、こっちでは50州の王のことをいう。
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