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二章 図南鵬翼

爾に出ずる者は爾に反る

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まだまだ飲むぞ、とか言ってるけど。宗元は顔が真っ赤だ。飲みすぎだよ。


老酒ラオチューって、度数高いんだっけ?
えーと、確か主に使われる酒は黄酒……紹興酒しょうこうしゅだけど、長年貯蔵された酒のことを老酒というんだ。

古いものほど希少価値も高く、珍重される。
アルコールの度数は14%から17%で、中には50度、60度を超えるものもある。


俺には絶対飲めない。


*****


『はーい、武師父はその辺でストップ。ウーロン茶くださーい』

伯裕は宦官に注文してる。
お店か!


「宦官も大変だな……。ちゃんと手当てとか、つくのかな?」

『宦官は、それが職務故。……手当てとは?』
宗元は首を傾げた。

「看病のことじゃないよ。んーとね、一週間や一ヶ月の内、何時間労働するかが決まってて。それ以外の時間の労働とか、深夜とか、お休みの日に出勤とかの場合に時間外手当っていう料金を足すの。余計に働いたら、その分報われないと嫌だろ?」
『なるほど』

『確かに、不満は出ておりますね』
耀も頷いている。

この世界、労働基準法がないのか……。
そりゃ辛いな。じゃあ。

カメラに向かって。
「では、国民のよりよい暮らしのために、労働基準法を制定します!」

『ちょ、陛下! 会議もせずに言い切っては、』
慌てた伯裕が止めようとしたが。


「勅令!」


『御意、』
恐るべき条件反射。みんな、すぐに跪いた。


自覚はなかったが。
俺も、相当酔っていたのだ。


*****


『海棠の睡り未だ足らず、といった風情ですが……』


朝っぱらから、何言ってんだ、耀?
寝ぼけてるのか?

耀は元気だな……。
酒、あんなに飲まされてたのに、ピンピンしてるよ。

なのに、その三分の一の量すら飲んでない俺は完全グロッキーである。


「ううう……頭が割れるように痛い……むしろ割れてない?」
『割れてません。水は飲めますか?』

「無理。飲んだはしから戻しそう……うぅ……気持ち悪い……」

頭の中の銅鑼を、ガンガン叩かれているようだ。
そして、ぐわんぐわん目が回って、更に気持ち悪い。

何このトリプルコンボ。呪いかよ。


衣装がきつかったので、あまり食べられなかったからか、吐く物はないけど。
こんな目に遭ってまで、もうお酒なんか飲みたくない……。

俺、アルコール分解酵素持ってないんだろうな。これからは酒は避けましゅ。とか言って。
……ダメだ脳細胞も死滅している。


ニート生活で、酒なんて飲んだことなかったし。文字でしか知らなかったけど。

二日酔いって、こんな辛いものなんだ。二度と経験したくない。
というか俺、二十歳になったばっかだし。未成年で飲酒するほど不良じゃなかったし。

杏露酒が甘くて飲みやすいのがいけない。
甘くて飲みやすいなら、ジュースとかでいいじゃないか。


『おかわいそうに……すぐに呪師を呼びます』
耀はスマフォもどきを手にした。

「いや、二日酔いくらいで信季呼ぶのもかわいそうだよ……」
夜遅くまで付き合ってくれてたんだし。

『それが仕事ですから。……そういえば、陛下。昨夜の勅令のことですが、』
勅令?


「え? 俺、なにかやっちゃった?」


*****


辛うじて、何となくは、覚えてたけど。
昨夜やらかしたことを、改めて教えられた。

勅令により、労働基準法制定。


お前ずっとニートだったくせに何寝言抜かしてんだ感強くて泣きそう。
……もちろんそれ、言いだしっぺの俺が考えるんだよね? この国の仕事の形態、労働環境とか色々見て、決めないといけないんだよね?

うっわ、めんどくせえ!


『それと、部屋に戻ってからの小亮は、とても愛らしく、素晴らしかった。……あの夜のことは、一生忘れません……』
しみじみと頷いてるけど。

何があったんだよ!?


『おはようございます、陛下!』
信季は、シジミの吸い物を手に、来てくれた。

ありがとう。優しさがしみるぜ。
シジミのオルニチンは二日酔いに効くのだ……。


『いやあ。陛下、やっちゃいましたね! 昨夜の放送で、国中大騒ぎだそうですよ。もちろん、宮内でも』
朝から元気で、羨ましい限りだ。


信季に手を握ってもらったら、塗炭の苦しみが楽になった。
素晴らしい。

心霊治療って、二日酔いにも効くのか。すごいな。
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