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二章 図南鵬翼

愛、屋烏に及ぶ

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「それで、闹洞房って、何して騒ぐんだ? 踊るの?」
ゴーゴーとかモンキーダンスとか踊られても困るが。


『んー。じゃあ、広陵丞相……今は花婿でいいか。花婿さん、花嫁を口説いてー。それ邪魔するから』
と、耀の方を見たら。

耀は半眼になって、伯裕を見ていた。

見ているというか。物凄い恨みの篭った視線だった。

この顔は、決して映してはいけない。
お茶の間を恐怖のどん底に落としてしまう。


『……くっつきすぎだ、崔公』

『あ、ハイ……』
伯裕は素直に謝って、俺から離れた。
こわいもんな。

宗元はツボに入ったのか、ずっと笑ってるし。


*****


『はい、スタート!』
カメラを構えた伯裕が合図をした。


耀は、俺の肩を引き寄せ。俺の顔を正面から見詰めて、言った。

『今宵の貴方は更に美しく、私を惑わせる。願わくばその服の襟になり、貴方の馨しい首の匂いを常に嗅いでいたい。もしくは裳の帯となり、その細い腰を束ねたい。あるいは髪に塗る油になり、貴方の艶やかな黒髪をくしげずりたい。貴方のその長い睫毛になり、視線の動きを追いたい。時には寝台の敷布となり、貴方のしなやかな身体の重みを感じ、休ませてやりたい。履物になって、貴方の白く美しい素足を包み、共に歩むのも良いだろう。日中は貴方の影になり、常に行動を共にしたい。夜の間は蝋燭になり、貴方の姿をやわらかく照らしたい。夏の間は扇子になり、優しく涼風を送ってやりたい。……しかし、それでは愛らしい貴方をこうして腕に抱くことはできますまい。それが可能な私はこの世で一番の幸せ者だ』
立て板に水、の如く。すらすらと言い切った。


耀って本当に綺麗な顔してるよなあ、なんて見惚れている場合じゃなかった。

それ、さっきの閑情賦からの引用だよな? 少々アレンジというか、変態率がレベルアップしてるけど。
閑情賦、そんなに好きなの!? その詩の作者とシンクロ率高いの!?


「っていうか、何でみんな邪魔しに来ないの!?」

みんな、邪魔をするのも忘れて。
ぽかんとして、耀が俺を口説くのを見ていたようだ。


耀の肩が揺れている。
……笑ってんじゃねえよ! 人に散々恥ずかしい思いさせといて!

思わず、耀の背をぽかぽか叩く。


『す、すみません。つい、本音が溢れて』
「もう! って本音なのかよ!」


*****


『めちゃくちゃ本気っぽくてこわい! ドン引きだったよ!?』
伯裕は鳥肌を立てていた。

ああ、それは……うん。冗談に聞こえないよな。


『広陵丞相もそのように笑うのか。……そうか、笑うようになったか』
宗元は苦笑してた。

『びっくりして、目が冴えてしまいました……』
信季は目をまん丸にしてる。


「耀はかっこいいんだから、無防備に笑った顔見せちゃダメ」
頬に手を添えて、カメラから背けさせた。

『私は常に貴方を布で覆って隠していないと、安心できないのですが?』
甘い表情は、俺が独り占めできてるけど。

「……そんな甘い声。他人に聞かせるなよ」

『では、愛らしいお耳の傍で、』
旒をかき分けようとして。


『また始まった、このバカップル!!』
『すぐに止めさせろ、放送できなくなる!』
伯裕と宗元に引き離された。


カメラは信季に渡されていた。

自分に向けて、手を振っている。
何やってんだ信季。


*****


闹洞房の終わるタイミングは決まってなくて、みんな好きな時にバラバラに帰るらしい。フリーダムだ。

信季はいい加減眠いと言って帰った。
今夜は皇宮の私室で寝るそうだ。自由だな!

ビデオカメラは、信季が座っていた椅子に固定されてる。

アルコールも入ってたし、俺もいい加減眠い。
耀に寄り掛かってうとうとしてたら。


『武公も崔公も、そろそろお帰りになられたら如何か?』
耀は貼り付けたような笑顔で言った。

『何の、まだまだ宴もたけなわ。さあ飲め、もっと飲め』
宗元が酒瓶を傾ける。


日本では、宴も酣っていうのは宴が一番盛り上がっている場面や宴の盛り上がりが最高潮の場面のことで、そろそろ締める時に言うが。
こっちじゃ違うのか。

そして飲酒強要はアルコールハラスメント、略してアルハラである。

でもこの行事の性格上、これで正しいのかな?
この世界、パワハラ横行してるしなあ。
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