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二章 図南鵬翼

形影、相伴う

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『馬車か、いいねえ! 戦車も引き連れて派手に行こうよ。8両でいい?』
おい太尉。

戦車、あるのか。……木製の? 鉄のやつか?

『うちの護衛車も88台つけよう』
御史大夫……は業務の一環だろうからいいか。

黒塗りのリムジンっぽいのや社用車らしいけど。そんなにいっぱい台数があるもんなのか?

っていうか自動車もあったんだ……。
この世界、フォードとかメルセデスとかもあるんだろうか?


「一気に物々しくなってる……」

『そりゃ千年ぶりですからね。力も入りますよ』
ローズヒップティーを注ぎながら、信季は笑った。

信季は呪師、医者でありまじないもするので、吉凶占いや日取りの占いをしてくれた。

ローズヒップは酸っぱいけど。
お茶請けは甘い砂糖菓子だったので、ちょうどいい感じだ。


婚儀は、明日に迫っていた。


*****


頭には赤い宝玉と金細工で鳳凰を模った王冠と、かんざしに合計二十四りゅうの旒がじゃらじゃらしていて。耳には旒と同じデザインの耳飾り。
赤地に金で四神が刺繍された長い袖で襟の高い上衣に、同じく赤地に鳳凰の金刺繍が入っている蔽膝へいしつ、下裳、肩衣。肩衣の裾は、引き摺るくらい長く垂らしてある。帯は金色。

目がチカチカしそうだが。これが婚礼衣装である。


『陛下、お綺麗ですよ!』

信季は褒めてくれるけど。日本人の感覚としては、コスプレ感が半端ない。
恥ずかしい。

早くも家……皇宮に帰りたい気持ちでいっぱいだ。


『おや、来ましたね』

花婿殿は、馬車と戦車と黒塗りの自動車、という時代感も統一感も滅茶苦茶な取り合わせで迎えに来ていた。
うわあ、最後尾の車が見えない……。


道の横には、ずらっと兵達が立ち並んでいる。
花婿の財力を示すため、行列は長ければ長いほど良いらしい。

皇帝の次、最高権力者だもんな。財力もとんでもないだろう。

どうやってターンするんだ? 戦車。
あ、砲台を回してバックすればいいのか。一周回って、またここに戻ってくるんだが。


先頭の花馬車には、耀が乗っていた。
髪を結い上げ、金色の冠と簪で留めていて。裾の長い上衣は赤地に金の刺繍、中には黒い着物で。
俺のとお揃いの、鳳凰の刺繍が入った蔽膝。帯は金、下裳は黄色だ。

うっかり見惚れてしまうくらい、格好良い。


「やだ、俺の花婿ってば超イケメン……」

『この期に及んで惚気るのやめてくれませんか?』
信季は冷たかった。


*****


花婿が正門までの階段を上がり、対面する。

花婿姿も麗しい耀は。
しばらく無言で俺を見ていて。


『夫れ何ぞ環逸之令姿の、獨り曠世以て羣に秀づるや』

何と美しい姿の、世に秀でたることよ。……は? 何でいきなり閑情賦かんじょうふ
陶 淵明とう えんめいの詩だ。
愛情表現がマニアックなので、ストーカー漢詩とか呼ばれている。

『あまりに美しい姿に、惚れ直してしまいました』
耀は、艶然と微笑んで。

俺をお姫様抱っこした。


「うわ、」
衣装もあわせたら、相当重いと思うが。軽々と持ち上げられて、花馬車まで運ばれてしまう。

信季、ヒューヒューいうのやめろ。


花馬車に乗って。参道に並ぶ兵達に手を振る。
何で泣いてるやつがいるんだ? 準備に忙殺された達成感とかか?

胸には危険を報せてくれる懐剣を忍ばせてるし、大丈夫だろうということで。
花馬車はオープンカーだ。

堂々と、姿を見せてのパレードである。


*****


皇宮とその周辺くらいは見たけど。
城下まで降りたのは初めてだ。道には、すごい数の人が、途切れることなく並んでいる。

花びらが舞って、後で掃除が大変そうだ。


ありがとう、と手を振ると、喜びの悲鳴が上がった。
キャーって。
ここ、男だけの国だよな? まあいいか。


「都だけで、こんなに人がいるのか」
『いえ、国中から人が集まって来ているのです。宴では、諸侯がご挨拶に参じるかと』

うわあ、大変そう。

王だけで50人だろ? 招待された関係者、何百人になるんだ。
その選定は、耀と宗元がやったみたいだけど。


でもまあ、千年ぶりの宴だ。
楽しんでもらおう。
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