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二章 図南鵬翼
天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理の枝
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『そんな気だるそうにされても、治療はしませんからね?』
信季は呆れたように言った。
昨日、お茶を持って来たら俺と耀が図書室からいなくなっていて。
伯裕から、二人して部屋にしけこんだよ、と伝えられて。拗ねたようだ。
「ん? いいよ別に、治療してくれなくても大丈夫。愛し合った結果の疲労だから、信季の手を煩わすのも悪いだろ?」
これは、貴方が私のものだという印ですよ、と言われて。
キスマークをいっぱい刻まれた。
両想いの恋人同士でしたことだと思えば、身体のだるさすら心地好い。
これが恋というものか。
初めて知ったが、なかなか良いものだ。
*****
『普通に惚気られた! ムカつく! 治しちゃう!』
手を握られる。
ほんわり身体があたたかくなって。キスマークその他を消されてしまったが。
「いや、消されてもまたつけてもらうけど。な、耀?」
『うわーん、なんか腹立つー!』
わっ、と信季は泣き真似をしている。
『…………あの、陛下、その辺で』
耀は、照れて耳まで真っ赤になっていた。
『わあ、新鮮……広陵丞相でも、こんな風に照れるんですねえ』
信季はあんぐりと口を開けて驚いていた。
羞恥心とか人並みの情緒とかあったんだー、などと失礼なことを言っている。
耀に対して、人形みたいな人、という印象を持っていたのは、他の皆も同じだったようだ。
これまで耀が反応するのは、唯一、皇帝陛下に対してのみだった。
でも、最近は赤くなったり青くなったり、まるで普通の人みたいになって面白い、と言っていた。
かわいそうだから、いじめるなよ。
皇帝陛下のお気に入り、ただそれだけで丞相になった、と噂する者もいるという。
普段は真面目に仕事をしているのになあ。
劫国がこうして叛乱もなく平和なのは、三公が連携を取って、50の国を統率し、目を光らせているからだ。
丞相は王を束ねる職務だし。無能じゃやれないと思うんだが。
それとも、これが恋は盲目、というやつか?
*****
えーと、皇帝の結婚は、と。
皇帝及び貴族の結婚は、”六礼”を行うのが伝統的な婚礼の範例となってる、と。
紀元前475~紀元前221年あたりの中国の書物”禮記”の中の”昏義”という、婚姻に関する専門の章に書かれている。
六礼とは。
男性側が仲人を介して相手へ礼物を贈り、求婚をする。礼物を受け取ることで求婚を承諾するのが”納采”。
相手へ礼物と招待状を届け、吉凶を占うために相手の姓名や誕生日などを尋ねるのが”聞名”。
男性側が自分の家の先祖の位牌の前で占いをして、結果を相手に教えるのが”納吉”。
占いの卦がよければ相手へ貴重品の礼物を贈って、正式な婚約になるのが”納徴”。
男性側が結婚式の期日を選んで礼物を持って相手へ伝え、相手の承諾を待つのが”請期”。
ラスト、花婿と仲人が礼物を持って相手側へ出向き、花嫁の親と先祖の祠堂に排謁し、花嫁を花車に乗せて花婿宅へ迎え入れるのが”親迎”。
以上。
……って、面倒だな!
今までの皇帝の婚儀について調べたら。
男だらけの世界になってから、”六礼”の儀式をして結婚したカップルはいないんだな。
遺伝子の提供者……伴侶は、後宮に置いていたようだが。職場恋愛ってのはあんまり例がないのか? 参考にならないな。
でも、まあ何とかなるか。
「耀、結婚しようか。何なら俺が花嫁役でもいいよ?」
『はい?』
『ええええ!?』
俺の突然のプロポーズに。
耀は固まり。
居合わせた信季は茶筒を落とした。
*****
『何故、こんなことに……』
宗元は頭を抱えている。
「だって、こっちじゃ男同士の結婚とか普通なんだろ? 秘密の恋人とか言ってないで、堂々と公表しちゃえばいいんだよ。何もやましいことはないんだし」
『そうですがね。皇帝と丞相が婚姻、というのはさすがに前代未聞なので。しかも、俺が仲人……? 残酷な』
苦笑してる。
ああ。
そういえば。
宗元に、二人の子供を作らないか、と求婚されたんだっけ。
信季は呆れたように言った。
昨日、お茶を持って来たら俺と耀が図書室からいなくなっていて。
伯裕から、二人して部屋にしけこんだよ、と伝えられて。拗ねたようだ。
「ん? いいよ別に、治療してくれなくても大丈夫。愛し合った結果の疲労だから、信季の手を煩わすのも悪いだろ?」
これは、貴方が私のものだという印ですよ、と言われて。
キスマークをいっぱい刻まれた。
両想いの恋人同士でしたことだと思えば、身体のだるさすら心地好い。
これが恋というものか。
初めて知ったが、なかなか良いものだ。
*****
『普通に惚気られた! ムカつく! 治しちゃう!』
手を握られる。
ほんわり身体があたたかくなって。キスマークその他を消されてしまったが。
「いや、消されてもまたつけてもらうけど。な、耀?」
『うわーん、なんか腹立つー!』
わっ、と信季は泣き真似をしている。
『…………あの、陛下、その辺で』
耀は、照れて耳まで真っ赤になっていた。
『わあ、新鮮……広陵丞相でも、こんな風に照れるんですねえ』
信季はあんぐりと口を開けて驚いていた。
羞恥心とか人並みの情緒とかあったんだー、などと失礼なことを言っている。
耀に対して、人形みたいな人、という印象を持っていたのは、他の皆も同じだったようだ。
これまで耀が反応するのは、唯一、皇帝陛下に対してのみだった。
でも、最近は赤くなったり青くなったり、まるで普通の人みたいになって面白い、と言っていた。
かわいそうだから、いじめるなよ。
皇帝陛下のお気に入り、ただそれだけで丞相になった、と噂する者もいるという。
普段は真面目に仕事をしているのになあ。
劫国がこうして叛乱もなく平和なのは、三公が連携を取って、50の国を統率し、目を光らせているからだ。
丞相は王を束ねる職務だし。無能じゃやれないと思うんだが。
それとも、これが恋は盲目、というやつか?
*****
えーと、皇帝の結婚は、と。
皇帝及び貴族の結婚は、”六礼”を行うのが伝統的な婚礼の範例となってる、と。
紀元前475~紀元前221年あたりの中国の書物”禮記”の中の”昏義”という、婚姻に関する専門の章に書かれている。
六礼とは。
男性側が仲人を介して相手へ礼物を贈り、求婚をする。礼物を受け取ることで求婚を承諾するのが”納采”。
相手へ礼物と招待状を届け、吉凶を占うために相手の姓名や誕生日などを尋ねるのが”聞名”。
男性側が自分の家の先祖の位牌の前で占いをして、結果を相手に教えるのが”納吉”。
占いの卦がよければ相手へ貴重品の礼物を贈って、正式な婚約になるのが”納徴”。
男性側が結婚式の期日を選んで礼物を持って相手へ伝え、相手の承諾を待つのが”請期”。
ラスト、花婿と仲人が礼物を持って相手側へ出向き、花嫁の親と先祖の祠堂に排謁し、花嫁を花車に乗せて花婿宅へ迎え入れるのが”親迎”。
以上。
……って、面倒だな!
今までの皇帝の婚儀について調べたら。
男だらけの世界になってから、”六礼”の儀式をして結婚したカップルはいないんだな。
遺伝子の提供者……伴侶は、後宮に置いていたようだが。職場恋愛ってのはあんまり例がないのか? 参考にならないな。
でも、まあ何とかなるか。
「耀、結婚しようか。何なら俺が花嫁役でもいいよ?」
『はい?』
『ええええ!?』
俺の突然のプロポーズに。
耀は固まり。
居合わせた信季は茶筒を落とした。
*****
『何故、こんなことに……』
宗元は頭を抱えている。
「だって、こっちじゃ男同士の結婚とか普通なんだろ? 秘密の恋人とか言ってないで、堂々と公表しちゃえばいいんだよ。何もやましいことはないんだし」
『そうですがね。皇帝と丞相が婚姻、というのはさすがに前代未聞なので。しかも、俺が仲人……? 残酷な』
苦笑してる。
ああ。
そういえば。
宗元に、二人の子供を作らないか、と求婚されたんだっけ。
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