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二章 図南鵬翼
意馬心猿
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耀のやつ。今頃、朱亮といちゃいちゃしてるのかな。
別に、いいけどさ。
だって元々、あっちが恋人同士だったんだし。
恋人が死んだと思ったから、新しい恋に走ろうとしただけで。
元の鞘に収まっただけだ。
忘れないと。
犬にかまれたんだとでも思って。
男なんだし。
貞操も何も無いよな。
……大丈夫。忘れられるって。
*****
『どうも~、イケてる三助入りマース!』
湯でバシャバシャ顔を洗ってたら。
腰に手ぬぐいを巻いた伯裕が乱入してきた。
「自分で言うか! あと背中流さなくていいし!」
湯船に首まで潜る。
三助っていうのは江戸時代、銭湯で客の背中を流したりしていた下男のことだ。
何でそんなマイナーな言葉を……。
『いやあ、ほんとすごいなあ、名探偵の方の陛下。ほらオレさあ、太尉でしょ? 職務で色々な国の言葉を覚えるわけよ』
軍隊なので。仮想敵国というか、戦争になるかもしれない国の言葉は覚えておいて、情報を集めたりするそうだ。
スパイ活動みたいな感じか?
『たいがいは何ソレ? みたいな反応なのに、こっちの陛下はちゃんと意味通じてるんだもん。かなりマイナーな言葉だよ?』
英語も日本語も、こっちじゃマイナーなのか……。
日本語はあっちでもマイナーだろうけど。俺は日本人だし。
「俺の世界では、マイナーじゃなくメジャーなの」
いや、三助はどうだろうか……。現代では死語な気がする。
『それでも通じるのうれしいなあ』
本当に嬉しそうに笑った。
甘い顔立ちのイケメンが、更に甘くなる。
*****
『……あれ、ちょっと、それ。何だよ!?』
伯裕は真顔になって。
『武師父ってば、何もできなかったとか言っといて、乱暴されたの!?』
肩につけられた歯形を。
湯から引き上げられて、見られてしまう。
肩だけじゃなくて。
胸や二の腕に、赤い痕が散っているのも。
「いや、これは。宗元じゃないよ……宗元は、何もしてない」
宗元には、首に吸い付かれて、太股を撫でられただけで。
ノーダメージだ。
耀にされたことに比べれば。
『……広陵丞相か。……無理矢理、だよね?』
手首についていた、耀の指の痕を見て。確信したようだ。
合意であったなら、こんな痕がつくわけがないと。
『ごめんね? オレが、ついててあげればよかった……』
そんな。
まるで自分が悪かった、みたいなつらそうな顔をされて。
せっかく、どうにか堪えてたのに。
涙が溢れてしまう。
伯裕は。
俺が落ち着くまで、優しく背中を撫でていてくれた。
*****
『うわ、本当だ!』
信季が来て。
俺を見て、驚いていた。
戻ってきた俺に驚いたような感じではないようだが。
『李君、ちょっと』
伯裕は信季に何か言って。
信季は頷いた。
『じゃ、皇帝兼名探偵の方の陛下、手を貸してください』
その呼び方やめろ。
立場上、名前は呼べないから仕方ないんだろうけど。
両手を握られる。
なんか、あたたかいものが流れ込んでくるようで。
身体が楽になる。
『はい、おしまい』
手を放された。
「?」
何だったんだ?
伯裕が、俺の着ていた服の襟を引っ張って、覗き込んでる。
伯裕からの借り物のシャツ。
『うん、治ってる』
どうやら耀がつけた身体の痕とか、全部消えたようだ。
腰のだるさもなくなってる。
呪師って、心霊治療師だったのか。
「ありがとう、信季。すごいな」
『いやあ、それほどでもありますけどね……って、それどころじゃないんですよ。こっちの陛下も、崔太尉も。急いで皇宮に向かいましょう!』
*****
『……あっちの陛下に、何かあったのか?』
『シッ、まだ内密に。とにかく、話はあちらで。こっちの陛下には、これを。もしやと思って持ってきておいて良かったー』
渡されたのは。
皇帝の服、一式?
どういうことだ?
あっちこっち、ややこしいな。
とりあえず二人の手を借りて、皇帝の衣装に着替えて。
一緒に皇宮へ向かった。
動く歩道だった。良かった。ハイテクありがとう。
別に、いいけどさ。
だって元々、あっちが恋人同士だったんだし。
恋人が死んだと思ったから、新しい恋に走ろうとしただけで。
元の鞘に収まっただけだ。
忘れないと。
犬にかまれたんだとでも思って。
男なんだし。
貞操も何も無いよな。
……大丈夫。忘れられるって。
*****
『どうも~、イケてる三助入りマース!』
湯でバシャバシャ顔を洗ってたら。
腰に手ぬぐいを巻いた伯裕が乱入してきた。
「自分で言うか! あと背中流さなくていいし!」
湯船に首まで潜る。
三助っていうのは江戸時代、銭湯で客の背中を流したりしていた下男のことだ。
何でそんなマイナーな言葉を……。
『いやあ、ほんとすごいなあ、名探偵の方の陛下。ほらオレさあ、太尉でしょ? 職務で色々な国の言葉を覚えるわけよ』
軍隊なので。仮想敵国というか、戦争になるかもしれない国の言葉は覚えておいて、情報を集めたりするそうだ。
スパイ活動みたいな感じか?
『たいがいは何ソレ? みたいな反応なのに、こっちの陛下はちゃんと意味通じてるんだもん。かなりマイナーな言葉だよ?』
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「俺の世界では、マイナーじゃなくメジャーなの」
いや、三助はどうだろうか……。現代では死語な気がする。
『それでも通じるのうれしいなあ』
本当に嬉しそうに笑った。
甘い顔立ちのイケメンが、更に甘くなる。
*****
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伯裕は真顔になって。
『武師父ってば、何もできなかったとか言っといて、乱暴されたの!?』
肩につけられた歯形を。
湯から引き上げられて、見られてしまう。
肩だけじゃなくて。
胸や二の腕に、赤い痕が散っているのも。
「いや、これは。宗元じゃないよ……宗元は、何もしてない」
宗元には、首に吸い付かれて、太股を撫でられただけで。
ノーダメージだ。
耀にされたことに比べれば。
『……広陵丞相か。……無理矢理、だよね?』
手首についていた、耀の指の痕を見て。確信したようだ。
合意であったなら、こんな痕がつくわけがないと。
『ごめんね? オレが、ついててあげればよかった……』
そんな。
まるで自分が悪かった、みたいなつらそうな顔をされて。
せっかく、どうにか堪えてたのに。
涙が溢れてしまう。
伯裕は。
俺が落ち着くまで、優しく背中を撫でていてくれた。
*****
『うわ、本当だ!』
信季が来て。
俺を見て、驚いていた。
戻ってきた俺に驚いたような感じではないようだが。
『李君、ちょっと』
伯裕は信季に何か言って。
信季は頷いた。
『じゃ、皇帝兼名探偵の方の陛下、手を貸してください』
その呼び方やめろ。
立場上、名前は呼べないから仕方ないんだろうけど。
両手を握られる。
なんか、あたたかいものが流れ込んでくるようで。
身体が楽になる。
『はい、おしまい』
手を放された。
「?」
何だったんだ?
伯裕が、俺の着ていた服の襟を引っ張って、覗き込んでる。
伯裕からの借り物のシャツ。
『うん、治ってる』
どうやら耀がつけた身体の痕とか、全部消えたようだ。
腰のだるさもなくなってる。
呪師って、心霊治療師だったのか。
「ありがとう、信季。すごいな」
『いやあ、それほどでもありますけどね……って、それどころじゃないんですよ。こっちの陛下も、崔太尉も。急いで皇宮に向かいましょう!』
*****
『……あっちの陛下に、何かあったのか?』
『シッ、まだ内密に。とにかく、話はあちらで。こっちの陛下には、これを。もしやと思って持ってきておいて良かったー』
渡されたのは。
皇帝の服、一式?
どういうことだ?
あっちこっち、ややこしいな。
とりあえず二人の手を借りて、皇帝の衣装に着替えて。
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動く歩道だった。良かった。ハイテクありがとう。
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