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二章 図南鵬翼

何れの處よりか秋風至る

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『陛下!?』
聞き覚えのある声に、目を開けたら。

目の前に、金髪碧眼の、軍服を身に着けた、ゴージャスなイケメンが。

部下っぽい兵達が、遠巻きにこっちを見ている。
どんな状況?


「……伯裕?」

伯裕は頷いて。
ほっとしたように笑った。

『やはり、陛下でしたか。皇宮に戻られたはずでは? 何故そのような格好で……、って。あれ?』

伯裕は不思議そうに首を傾げて、俺の手を見ている。
まるで、跪いて姫の手を取る騎士のようなポーズに見える。

お前、普通に太尉の格好してる方がカッコイイぞ……。


『このたおやかな細い腕は……名推理の方の陛下?』
なんだその言われ方。


*****


警備の兵が川に浮かんでる人を発見して。引き上げたはいいが。

顔を見て。
皇帝陛下みたいなので、もしも本物なら下々の兵には触れられないから、と。確認の為に伯裕が呼ばれたそうだ。


それで、伯裕はスマフォもどきで耀に連絡してみたらしい。
そしたら。

今陛下と取り込み中だ、と切られたって。
耀が電話に出ないので、宮中の知り合いに連絡してみたところ。


『やっぱり、皇宮の方にも陛下がおられるようなんですけど……どういうこと?』
首を傾げながら俺に問われても。

そんなの、こっちが聞きたいわ。
ひとつの世界にふたり、天子はいないはずじゃなかったのか?

何で俺、に戻ってきちゃったんだ!?


ひゅう、と風が吹いて。

「……さむっ、」
思わず、震えた。

川に落ちてずぶ濡れで。季節は秋。
寒中水泳には早いが、さすがに普通に泳くにはもう、時期はずれである。


『わわ、はやく濡れた服脱いじゃって、……いや、オレの部屋行ったほうが早いわ』
マントに包まれて。
ひょい、と抱き上げられる。

どいつもこいつも、軽々と俺のことを抱き上げやがるよな。

計ってないけど、60kg以上はあると思うんだが。
腹立つ。


*****



とりあえず、情報を整理しよう。

俺、東亮あずまりょうは、元天才少年クイズ王と呼ばれた中卒ヒキニートだった。
それが、階下のアホ夫婦の起こした事故で、火事に巻き込まれ。

死にそうだったところを、異世界の皇帝である朱亮しゅりょうに助けられた。
自分は火で焼かれて死ぬので、自分の代わりに皇帝やって犯人捕まえろ、と異世界に送られた。

そこはパラレルワールドといえる世界で。
もしも古代中国のひとつの朝廷が滅ばずに繁栄したら、みたいな世界だった。しかも女が居なくなった世界。

そこで俺は、皇帝直属の臣下である丞相じょうしょう広陵こうりょう 耀よう、太尉のさい 伯裕はくゆう御史大夫ぎょしたいふ 宗元そうげんの三公と。
ついでに呪師まじないし……医者である 信季しんきらと共に、皇帝暗殺未遂事件を見事解決したのだが。

耀は朱亮の恋人で。
どうやら俺にも惚れてしまったらしくて。

宗元にえっちないたずらをされたと思った嫉妬大爆発な耀に犯されて。
俺は耀のものにされてしまった。


しかし。
犯人を捕まえたことで、朱亮の死はなかったことになったようで。

俺は、元の世界に帰されたんだ。
火事からは自力で脱出した状態で。

で、集まって来ていたうるさいマスコミから逃げてる途中で川に転落して。
気付いたら、また異世界に戻ってきていた。

以上。


天子……皇帝は、この世に二人と存在しないものだというのに。
なのに、朱亮も俺もこっちにいる状態だとか。

どういうことなんだか、さっぱりである。


*****


『ゆっくりあったまって、さっぱりしてね~』
伯裕の私室にある風呂に放り込まれた。

何故か、いつの間にか、耀から渡されたお守りの懐剣が腰から下がっていた。
これ、皇帝の服につけといた筈なんだけど。


服を脱いで。
湯船に浸かる。

……俺の身体。
耀に愛された痕だらけだ。なのに。
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