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一章 華胥の夢

都兪吁咈

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「宗元のこと、き、嫌いになるからな……っ!」
叫ぶと。

宗元は、目を丸くした。
『……それは……困りますね……』


拘束が解かれた。

『参った、参りました。……降参です』
苦笑して。

両手を上げてみせた。


*****


涙目になって、お前のこと嫌いになるからな!
って。小学生のケンカかよ。

俺、切羽詰まるとアホになるんだな……。


だって。
今まで、誰かに性的に迫られた経験なんかないし。

みんな、本気じゃなくて。口を滑らせた耀に便乗して。冗談で、俺のこと口説いてると思ってたんだ。
まさか、自分が押し倒されて、犯されかけるなんて想像もつかない出来事だった。

まさに吃驚仰天きっきょうぎょうてん周章狼狽しゅうしょうろうばい、青天の霹靂だ。
あまりのことに頭真っ白になって。
出た言葉があれだよ。


……あれ? どれが先だっけ。
結び方、ややこしい。やり方見とけばよかったな。

まあいいか。適当に着てしまおう。

……畜生。
いつまで笑ってるんだ、宗元。


*****


気を取り直して。
真面目な顔をしてみせる。

「動機はともかく、怪しい奴は見つけた」

『え!? 本当ですか?』
宗元も真顔になった。

何で早く教えてくれないんだ、って。
その話をしたかったのに、宗元が俺に変なことするのが悪いんだろ!?


監視カメラのログを抽出して。
脇にある使用人用の通路から皇宮に向かう姿をアップにする。

「こいつが、爆弾の共犯者及び宦官殺人の容疑者その1」

正門から堂々と入って来ているもう一人。

「で、こいつが便乗犯というか容疑者その2」


それと。
キーワードで検索してみつけたサイトを宗元に見せてやる。

「もしかしたら、これが動機かな、と思うんだけど。どうかな」


『これは……』
書かれている内容を確認した宗元は、顔色を青くして。

『すぐにサイトを閉鎖、管理者及び関係者を捕縛し、容疑者二名の身柄を押さえます』
すぐに手配をした。


おお、働く男の顔だ。
こうしてれば、普通にかっこいいんだけどな。


*****


皇帝の寝所に爆弾を仕込んだ犯人は。
皇帝を不要とし、教祖を神と崇めるカルト教団の者で。

共犯者は、横領を調べられていた官僚だった。

その官僚は、広陵の縁戚どころか、ほぼ他人で。
嘘の身上書で不正に官職に就いたことによる公文書偽造、公費の横領、皇帝謀殺未遂により死刑となった。


カルト教団の教祖は、皇帝は神に非ず、我こそが新世界の神である、という電波ゆんゆんな主張をし、排斥をしようと狙っていた。

信者だった宦官Aは、横領官僚が採用した。
自身の横領発覚前に邪魔な丞相を殺害しようと、教団の計画に便乗したのだ。

宦官Aの報告により、夜毎丞相と享楽姦淫に耽る汚らわしいものとして、皇帝の浄化……爆弾による殺害を企てた。
炎で”浄化”して、新しい天地を作ろうとしたらしい。


もう一人の容疑者は、やはり横領宦官が斡旋した、教団信者の清掃業者だった。
宦官Aの殺害実行犯である。

殺害の目的は、口封じ。
そのために、宦官Aに爆弾の材料を買わせたのだ。

清掃ロボットが巡回する時間を知っていたため、現場の証拠を、それと知られずに処分することができた。
絶対に発覚することはないと思っていたようだ。


悪因悪果、天網恢恢疎てんもうかいかいそにして漏らさずだ。


*****


教団の教祖、その末端信者もすべて捕らえられ、皇帝謀殺未遂で死刑に処された。

厳しいが、それがここの法だ。罰が正しく下されなければ、罪を犯す者が増えるのはどの世でも同じだろう。
犯罪抑止力として、が必要なのだ。


死刑反対を叫んでいる国で凶悪犯罪が減らないのも道理だろう。
厳しすぎても問題なんだが、それはまた別の話だ。

しかし、あの恋愛脳の宦官が寝具に大量の油を染み込ませて放火を企てなければ、ベッドの下の爆弾に気付かず、2人とも爆死していただろう。

運がいいのか悪いのか。
これが”天運”ってやつだろうか?


「……という訳で、宗元の私室で持ち出し禁止のデータを見せてもらってただけで、宗元とは何もないよ」


前代未聞の大事件に、大捕り物だった。
御史台はもちろん、教団の捜査には軍部と大理寺が動き、刑を執行した。

スピード解決だ。
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