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一章 華胥の夢

虎口を脱し竜穴に入る

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『じゃ、広陵丞相には老いて死ぬまで喪に服して一生独身でいろっていうわけ? 酷くないですかね? あんな若くてイケメンなのに』


う。
そう言われると、確かに。

でも。
「一生独身でいろとは言わないけど。俺とだけは、ないよ」

絶対に、前の恋人と比べることになっちゃうだろうし。
死人には勝てないっていうし。

朱亮と混同されても、腹立つと思う。


*****


確かにそうか、と伯裕は頷いた。
『でも、陛下に他の恋人が出来るのを許すかなあ。あの広陵丞相が』

「許すも何も。俺の勝手じゃないか?」


『じゃ、俺と恋しない?』
後ろから、伯裕に抱きつかれて。

首を伸ばすようにして、頬にチュッ、とキスをされる。

何でわざわざ背後に回ろうとするんだろう。
癖なのか?


「……はあ?」
恋しない? とか言われても。

『付き合ってくれるなら、浮気しないし。オレ、わりと一途だし、好きな相手には尽くすタイプだよ?』
キラキラと輝くような笑顔である。

甘く、整った顔立ちで。
無駄にフェロモン振りまいてる伯裕が、恋人か……。


うーん。悩むな。
別に、こうされてても、不快でも嫌でもないし。選択肢が男しかないなら、綺麗な男のほうがまだマシというか。

そのハリマオみたいなコスプレはどうかと思うが。


『崔公、陛下に対し、無礼であろう!』
あ、来た。

『陛下嫌がってないし、フリーだし。恋人でもない広陵丞相に文句言われる筋合いありませ~ん』

何故、そういう煽るような態度を取るんだ、伯裕。


*****


『無礼って言ったら、演技のはずが興奮して襲い掛かって、陛下の初めてのキスを無理矢理奪った広陵丞相の方だと思うしー』


「!?」
耀が暴走してたの、バレてたのかよ!

でもって、何であれが俺のファーストキスだったと知っている!?
エスパーか!?


『どうせ、の陛下のたおやかな白い腕や柳腰に、思わず興奮しちゃったんだろうけど?』
腰に、腕を回される。

え? こっちってどっち。
たおやか? 誰が?


『な……っ、何を、』
耀は、動揺しているのか、顔色を白くしている。

伯裕は、にっこりと笑った。
『わかるよ。その気持ち。だってオレも武師父も、同じだもん。の陛下ってば、すごく可愛くて。とろとろに甘やかしたいし、めちゃくちゃに抱きたくなるよねって話してたんだ』


……何だって!?

朱亮じゃなくて。
俺を!?

生まれながらの皇帝じゃなくて、ただのニートだぞ!?


*****


『俺の性癖までついでにバラすな、』

『いてっ』
伯裕は拳骨を食らったようで、脳天を押さえている。

ひょい、と持ち上げられて。
腕に、座るような形で抱えられた。

……何すんだ、宗元。


『御史台にある俺の私室なら、警備も完璧。火を放たれるような危険はないので、ゆっくりできますよ。陛下』
ゆっくり、何をできるというんだ……。話、だよな?

「あ、葉っぱついてる」
縛った髪に引っ掛かってたのを取ってやる。

『おや。今朝、皇宮の周辺を捜索した時にでもついたのですかな?』

宦官の捜索か。
遺体で見つかったっていう。


「へー。これ、ツツジの葉だ。紅葉してる。秋だなあ」

昨夜も、遅くまで仕事だったらしいのに。本当に仕事熱心だな。
伯裕に生き甲斐とか天職とか言われてたな。


『へ、陛下、攫われてるのに、暢気なことを!』

宗元は早足で歩いていて、それを耀と伯裕、信季まで追いかけてきている。
耀は文官服で裳の裾が邪魔だから、走りにくそうだ。

「俺、攫われてるの?」
『いえ、安全な場所に保護、です。俺の腕の中が一番安全だと思っていただければ重畳』


「別の意味で、キケンそうな感じだけどな……」

『陛下にお見せしたいものがあるのですが、持ち出し厳禁なので』
宗元は小さな声で言った。

?」

頷いた。
『とりあえず、追跡してる連中をどうにかしないと』


絶対着いてくると言うだろうし。どうやって撒くか、悩んでいるようだ。
……それなら。
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