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一章 華胥の夢

君を懐うは秋夜に属し

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皇帝の私室は、洗浄や現場検証があるため、しばし封鎖となってしまったので。
俺たちは、耀の私室に行った。


『先程は……その、面目次第もなく……』

部屋に入るなり、耀は土下座した。
演技のつもりが、暴走してしまったことを、今更詫びられてもな……。

いや、あの時にあの場で謝られても困っただろうけど。ギャラリーいたし。


つい先日まで、二人は香油をたっぷり使うような熱烈な恋人同士だったわけだ。パブロフの犬みたいに、身体が勝手に反応してしまったんだろう。
中身以外、ほとんど同じなんだから、仕方ない。

ファーストキスだったけど! 気にしてないし。
くよくよしないぞ。

どうせこの世界、男しかいないんだ。予行練習だったと思っておこう。


「いーよ。俺が、無神経な計画立てたのが悪かった。でも、寝ずの番は続行だからな?」
耀のベッドに横になる。


ここは、ほとんど使われてなかったようだな。枕も部屋も、あの香油のにおいが全くしない。

……いっそのこと、あの部屋、燃えちまってたほうがスッキリしたかね?
それとも、思い出は、あった方がいいものなのだろうか。わからない。


*****


「皇帝……朱亮はさ。あんたのこと、どうしても助けたかったんだよ。だから最期の力を振り絞って、俺をここに連れて来たんだ」


ちょっと記憶力がいいだけの、元クイズ王・現ニートに願いを託すなんて、どうかしてると思う。
よっぽど切羽詰ってたんだろうな。

まあ、運良く解決したわけだけど。

これにて一件落着、だ。
以後の人生、俺は好きなように生きるぞ。


『亮が……、私を……?』

来世も共に、と誓ったけど。
皇帝は、一緒に死ぬことをよしとしなかったんだ。

「朱亮は、あんたには生きていて欲しいって願ったんだ。もし後を追おうなんてしてみろ。ぶっ飛ばされるぞ。だから、……せいぜい長生きしろよな」
俺はごろりと寝返りを打って、耀に背を向けた。


『……はい……』

泣いているんだろう。
洟を啜る音が聞こえた。洟はちゃんとかめよ。蓄膿症になるぞ。

朱亮のために、いっぱい泣いてやれよな。


そして。
これからは、自分のために、生きてくれ。


*****


翌朝。
とんでもニュースで目が覚めた。


『大変だ、陛下の部屋から、爆発物が……!』

思わず飛び起きる。
「気体? 液体? 固体?」

『え? ええと……か、火薬だから固体……かな?』

今の様子じゃ、火薬の種類まではわかんねえか。
黒色火薬、無煙火薬。ダイナマイトにTNT。プラスチック爆薬とか色々ある。


『ところで……広陵丞相は、何やってるの?』
伯裕は首を傾げた。

耀は、バカ真面目にも約束通り寝ずの番をしていて、眠気覚ましに筋トレしていたのだ。
半裸で。

内勤のくせして、いいカラダしてるな、こいつ。


『広陵丞相が陛下にえっちなイタズラしたせいで寝台を追い出されて罰ゲーム中かと思ったー』
「いいから、概要を話せ」


*****


昨夜。
初動調査が肝心だと言い、宗元が率先して、夜勤の刑部官たちをこき使って、危険物除去作業という名の油拭きと、現場検証をしていたら。

寝台の裏側に、時限爆弾が仕掛けられていたのを発見したという。

しかも、爆発まであと5分。
大慌てで爆発物処理班を呼んで、無事解体。怪我人は無し。


あの場で現場検証するからと部屋を追い出されてなかったら、爆死してたのかもしれないのか。
あっぶねえ。

捕らえた宦官に問いただしてみたが。その爆発物の存在は知らなかった。
今更とぼけても、死罪には変わらない。嘘ではないだろうと判断。


犯人は、他にもいたのである。


宗元は爆発物の入手経路を探っているという。
それで、伯裕も俺の護衛に加わるため、耀の部屋に来たわけだ。


「それこそ、例の汚職ヤロウの犯行なんじゃないの? ……とりあえず、宦官全員の裏は洗った?」
『え、』

「え、じゃねえよ。買収された宦官が掃除の時とかに取り付けた可能性が高いだろ?」

『あ、確かに!』
伯裕は慌てて宗元と刑部尚書に連絡を入れていた。


やれやれ。
一難去ってまた一難、かよ。
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