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一章 華胥の夢
恋路の闇
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刑部尚書……警視庁長官みたいなものも駆けつけていて、犯人に縄をかけ、捕縛している。
『いやあ、熱演でしたね、陛下。ほんとにヤってるみたいでしたよ!』
別の場所を張っていた伯裕が来た。
……言えない。
演技なのに。耀のやつ、途中からマジになって。
勃起してるのを押し付けられて。
逃げようとしても、押さえつけられて。
本当にキスされちゃったとか。言えない……!
*****
簡単に、組み伏せられてしまった。
そのまま犯されるかと思ったじゃねえか、このエロ丞相……!
涼しい顔して、何事もなかったふりしやがって。
あ、そうでもねえわ。
目がめちゃくちゃ泳いでる。
『で、犯人は。……ええと……誰?』
伯裕は首を傾げている。
犯人を捕まえた、御史大夫である宗元も。
この場にいる誰も、その男の名を、顔を。知らなかった。
目立たないよう、制服ではなく黒い服を着ていては、更にわからないだろう。
俺も、それまで個々を認識していなかったが。
「そいつは使用人……宦官の一人だ。耀に、……広陵丞相に、横恋慕していたんだろう」
『宦官……!?』
王の宮廟に仕える者を、宦官と呼ぶ。
宦とは、神に仕える奴隷、という意味だ。
去勢されたほうの宦官は元々、閹人と呼ばれてたけど。
後漢以降、宦官は閹人専用職になって。宦官=去勢された男、ってイメージがつくようになったわけだが。
この世界では宦官は普通に、使用人、という意味で使われてる。
犯人は、ミステリーでいうところの”透明人間”だった。
*****
通常、王侯貴族であれば、宦官などの使用人はいても見ない振り、いないような扱いをするのが当然で。
それどころか、人間扱いされない時代もあった。
しかし、耀は違った。
耀の親は、皇帝の乳母の役割をする宦官だったので。使用人に、当たり前のように挨拶をして。当たり前のように、礼を言った。
異世界から来た俺には、特別おかしいことに見えない光景だったのだが。
耀の育ちを知らなかったその宦官にとっては、それは特別なことだった。
居ない扱いをされるのが当たり前だというのに。人間扱いしてもらえた。雲の上の人に。
憧れが、恋心に変わるのに時間は掛からなかった。
しかし。
恋した相手が別の人と愛し合うのを見届なければならない苦しさを。その後始末をさせられるのがどんなに辛かったかを、宦官の男は涙ながらに語った。
だから。
すべて灰にしてやろうと思った。
寝具に香油を染み込ませて。床は、油で磨いた。
毎回、たっぷり使うから。
においで気付かれることはないと思ったという。
そこに火を放ち、自分も死ぬつもりであったと自白して。
宦官の、名もなき男は連行されていった。
*****
本人は、憎い恋敵を葬り去ろうとしただけのつもりかもしれないが。
皇帝暗殺を謀ったのだ。
国家反逆罪として、一族郎党すべて捕らえられ、死罪と決まっている。
それほどまでの罪だと、わかっていたのだろうか。
恋というのは恐ろしい。
そこまで人を愚かにするのか。周りが見えなくなるものなのか。
『私に懸想をした男が、陛下を……?』
『丞相、』
宗元は青褪めている耀を見て。
『皇帝弑逆は、未然に防がれた。……違いあるまい?』
『ああ。事件は、起こらなかった』
伯裕も、頷いている。
ああ、そうか。
今、ようやく気付いた。
皇帝は。
最後の力で、俺を助けに来たのではなく。
共に焼け死ぬはずだった耀を、助けたかったんだ。
最期の言葉は、自分に問うたのだろうか?
この世の秩序や運命は果たして、正しい者に味方しているのか、と。
……味方してるに決まってる。
だから耀を、死の未来から救えたんだ。
俺に希望を託したあんたは、正しかった。
『いやあ、熱演でしたね、陛下。ほんとにヤってるみたいでしたよ!』
別の場所を張っていた伯裕が来た。
……言えない。
演技なのに。耀のやつ、途中からマジになって。
勃起してるのを押し付けられて。
逃げようとしても、押さえつけられて。
本当にキスされちゃったとか。言えない……!
*****
簡単に、組み伏せられてしまった。
そのまま犯されるかと思ったじゃねえか、このエロ丞相……!
涼しい顔して、何事もなかったふりしやがって。
あ、そうでもねえわ。
目がめちゃくちゃ泳いでる。
『で、犯人は。……ええと……誰?』
伯裕は首を傾げている。
犯人を捕まえた、御史大夫である宗元も。
この場にいる誰も、その男の名を、顔を。知らなかった。
目立たないよう、制服ではなく黒い服を着ていては、更にわからないだろう。
俺も、それまで個々を認識していなかったが。
「そいつは使用人……宦官の一人だ。耀に、……広陵丞相に、横恋慕していたんだろう」
『宦官……!?』
王の宮廟に仕える者を、宦官と呼ぶ。
宦とは、神に仕える奴隷、という意味だ。
去勢されたほうの宦官は元々、閹人と呼ばれてたけど。
後漢以降、宦官は閹人専用職になって。宦官=去勢された男、ってイメージがつくようになったわけだが。
この世界では宦官は普通に、使用人、という意味で使われてる。
犯人は、ミステリーでいうところの”透明人間”だった。
*****
通常、王侯貴族であれば、宦官などの使用人はいても見ない振り、いないような扱いをするのが当然で。
それどころか、人間扱いされない時代もあった。
しかし、耀は違った。
耀の親は、皇帝の乳母の役割をする宦官だったので。使用人に、当たり前のように挨拶をして。当たり前のように、礼を言った。
異世界から来た俺には、特別おかしいことに見えない光景だったのだが。
耀の育ちを知らなかったその宦官にとっては、それは特別なことだった。
居ない扱いをされるのが当たり前だというのに。人間扱いしてもらえた。雲の上の人に。
憧れが、恋心に変わるのに時間は掛からなかった。
しかし。
恋した相手が別の人と愛し合うのを見届なければならない苦しさを。その後始末をさせられるのがどんなに辛かったかを、宦官の男は涙ながらに語った。
だから。
すべて灰にしてやろうと思った。
寝具に香油を染み込ませて。床は、油で磨いた。
毎回、たっぷり使うから。
においで気付かれることはないと思ったという。
そこに火を放ち、自分も死ぬつもりであったと自白して。
宦官の、名もなき男は連行されていった。
*****
本人は、憎い恋敵を葬り去ろうとしただけのつもりかもしれないが。
皇帝暗殺を謀ったのだ。
国家反逆罪として、一族郎党すべて捕らえられ、死罪と決まっている。
それほどまでの罪だと、わかっていたのだろうか。
恋というのは恐ろしい。
そこまで人を愚かにするのか。周りが見えなくなるものなのか。
『私に懸想をした男が、陛下を……?』
『丞相、』
宗元は青褪めている耀を見て。
『皇帝弑逆は、未然に防がれた。……違いあるまい?』
『ああ。事件は、起こらなかった』
伯裕も、頷いている。
ああ、そうか。
今、ようやく気付いた。
皇帝は。
最後の力で、俺を助けに来たのではなく。
共に焼け死ぬはずだった耀を、助けたかったんだ。
最期の言葉は、自分に問うたのだろうか?
この世の秩序や運命は果たして、正しい者に味方しているのか、と。
……味方してるに決まってる。
だから耀を、死の未来から救えたんだ。
俺に希望を託したあんたは、正しかった。
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