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一章 華胥の夢
白虹日を貫く
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「そのビン、何だ?」
使用人が、そっと耀に渡していたのを見咎めて、聞いてみる。
一見、香水の入れ物みたいだが。
耀は、気まずそうな顔をした。
『……香油です』
「香油? 何で香油なんか渡されたんだ?」
髪につけたりするのだろうか。
俺はさっき、風呂でお手入れされたけど。お陰で無意味にツヤツヤサラサラだよ。
耀の頬が、ほんのり赤くなっている。
『あの、これは。その、こ、交接の際に使用するもので……』
こうせつ。
体内受精をする動物の生殖行動で、互いの体の一部をつなぎ合わせる行為のこと。
直接精子を雌の体内に送りこむ行為。
つまり。
*****
「あー、これから俺と耀が性行為をすると思って、使用人がそれ用の潤滑油を渡したのか!」
男同士だと尻の穴でやるけど、濡れないから潤滑剤を使わないといけない、とは聞いたことがあった。
芸能界はゲイが多い。
俺がいるのに気付いて、それ以上は話してなかったけど。
『陛下、声が大きいです!』
耀は真っ赤だ。
「どれ、見せて」
渋々渡されて。開けてみる。
においは、フローラル系だ。ムスクっぽいにおいも感じる。媚薬入りか?
少し、手に取ってみると。
油っていうが、さらさらしてなくて。ヌルついた感触がする。罰ゲームで床を滑るってのやってたけど、アレに似てる。
「粘性がある油か……これ、火がついたら、厄介そうだな?」
『!?』
耀は立ち上がって。ベッドへ行って、布団のにおいを嗅いでる。
『……香油のにおいがします。まさか、これが?』
顔色が青い。
近くへ行って。
耀の耳元で、囁いてやる。
「ここに火を放たれたら、よく燃えそうだな?」
『な、』
「大声を出すな。犯人が聞き耳立ててるかもしれないから、睦言でも囁きあってる振りをしていろ。いいな?」
頷いて。
耀は、俺の背中に手を回した。
*****
マッサージ店で、火災が発生したニュースがあった。
タオルに染み込んだマッサージオイルは、普通に洗っても落ちない。それを乾燥機にかけてしまい、発火し、火災に発展したという事故だ。
アロマキャンドルが倒れて、引火したケースもある。
揮発性の高い油は、気化してもその場に残る。
静電気で発火することも。
その話をした。
それらは、事故だったが。
『陛下……、それでは、』
耀は自分のせいかと青くなっているが。
「いや、景気良く油をぶっかけたりしない限り、ここまでは染み込まない。燃えやすいように、わざと寝具に油を染み込ませた犯人がいる」
ぎゅっと、抱き締められる。
耀の手が、震えている。
これは、恐れじゃない。怒りだろう。
「犯人を捕まえるための作戦があるんだが……乗るか?」
『……当然です。何でも致します』
即答した。
そうこなくっちゃ。
*****
空には三日月。
虫も眠りについたような静かな夜に、荒い息と、寝台の軋む音が響いている。
「っ、あ、」
闇の中。淡い月の光に照らされて。
うっすらと、大きな男が小柄な青年の腰を掴み、腰を打ち付けている姿が浮かんでいる。
『亮……、』
愛おしそうに、諱を呼ぶ。
それを許される、唯一の相手だからだ。
「ひゃ、あ、だめ、」
逃げようとする腰を、引き寄せて。
「あ、……耀、やめ、……んぅ、」
くちゅ、くちゅ、と。
貪るように、唇を奪う姿。
その様子を、睨みつけるように見ていた男がいた。
燐寸を手にして。
男が、燐寸に火をつけ、部屋に投げ込もうとした瞬間。
大量の水が、ぶちまけられた。
『そこまでだ! 放火の現行犯、神妙に縛につけ!』
ずぶ濡れの男を押さえ付けたのは。
『御史大夫様!? 何故、ここに……!?』
灯りがついて。
真っ暗だった部屋を、煌々と照らした。犯人の姿も。
使用人が、そっと耀に渡していたのを見咎めて、聞いてみる。
一見、香水の入れ物みたいだが。
耀は、気まずそうな顔をした。
『……香油です』
「香油? 何で香油なんか渡されたんだ?」
髪につけたりするのだろうか。
俺はさっき、風呂でお手入れされたけど。お陰で無意味にツヤツヤサラサラだよ。
耀の頬が、ほんのり赤くなっている。
『あの、これは。その、こ、交接の際に使用するもので……』
こうせつ。
体内受精をする動物の生殖行動で、互いの体の一部をつなぎ合わせる行為のこと。
直接精子を雌の体内に送りこむ行為。
つまり。
*****
「あー、これから俺と耀が性行為をすると思って、使用人がそれ用の潤滑油を渡したのか!」
男同士だと尻の穴でやるけど、濡れないから潤滑剤を使わないといけない、とは聞いたことがあった。
芸能界はゲイが多い。
俺がいるのに気付いて、それ以上は話してなかったけど。
『陛下、声が大きいです!』
耀は真っ赤だ。
「どれ、見せて」
渋々渡されて。開けてみる。
においは、フローラル系だ。ムスクっぽいにおいも感じる。媚薬入りか?
少し、手に取ってみると。
油っていうが、さらさらしてなくて。ヌルついた感触がする。罰ゲームで床を滑るってのやってたけど、アレに似てる。
「粘性がある油か……これ、火がついたら、厄介そうだな?」
『!?』
耀は立ち上がって。ベッドへ行って、布団のにおいを嗅いでる。
『……香油のにおいがします。まさか、これが?』
顔色が青い。
近くへ行って。
耀の耳元で、囁いてやる。
「ここに火を放たれたら、よく燃えそうだな?」
『な、』
「大声を出すな。犯人が聞き耳立ててるかもしれないから、睦言でも囁きあってる振りをしていろ。いいな?」
頷いて。
耀は、俺の背中に手を回した。
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アロマキャンドルが倒れて、引火したケースもある。
揮発性の高い油は、気化してもその場に残る。
静電気で発火することも。
その話をした。
それらは、事故だったが。
『陛下……、それでは、』
耀は自分のせいかと青くなっているが。
「いや、景気良く油をぶっかけたりしない限り、ここまでは染み込まない。燃えやすいように、わざと寝具に油を染み込ませた犯人がいる」
ぎゅっと、抱き締められる。
耀の手が、震えている。
これは、恐れじゃない。怒りだろう。
「犯人を捕まえるための作戦があるんだが……乗るか?」
『……当然です。何でも致します』
即答した。
そうこなくっちゃ。
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虫も眠りについたような静かな夜に、荒い息と、寝台の軋む音が響いている。
「っ、あ、」
闇の中。淡い月の光に照らされて。
うっすらと、大きな男が小柄な青年の腰を掴み、腰を打ち付けている姿が浮かんでいる。
『亮……、』
愛おしそうに、諱を呼ぶ。
それを許される、唯一の相手だからだ。
「ひゃ、あ、だめ、」
逃げようとする腰を、引き寄せて。
「あ、……耀、やめ、……んぅ、」
くちゅ、くちゅ、と。
貪るように、唇を奪う姿。
その様子を、睨みつけるように見ていた男がいた。
燐寸を手にして。
男が、燐寸に火をつけ、部屋に投げ込もうとした瞬間。
大量の水が、ぶちまけられた。
『そこまでだ! 放火の現行犯、神妙に縛につけ!』
ずぶ濡れの男を押さえ付けたのは。
『御史大夫様!? 何故、ここに……!?』
灯りがついて。
真っ暗だった部屋を、煌々と照らした。犯人の姿も。
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