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一章 華胥の夢

愛執染着

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『来世も共にと誓ったのだから、この陛下も私のものだ!!』

耀はそう叫んで。
宗元の腕から俺を奪い取った。

大混乱、阿鼻叫喚である。


通りがかりの文官が唖然として、見てはならないものを見てしまった、という顔をして逃げるように早足で去って行ったが。
責められまい。

彼らの暴走を止められる者は誰もいない。
何故なら。他でもない彼らこそ、この国の最高権力者たちだからだ。

何なんだ、どんな乱世だ。


*****


一時間後。
全員、平身低頭。平謝りである。

さすがに悪乗りをしすぎたと反省しているので、よしとするか。

だけど。
これだけは言っておかねばなるまい。


「同じ姿でも、俺は前の皇帝と違うって、わかってるよな?」
『はい……』
全員の声がハモる。

「突然、よく知らない人から求愛されても困るわけだ。中身はどうでもいいのか、身体だけが目的なのかと思っちゃうからな?」

『はい……』

カラダだけが目的なの!? ってセリフ、どんだけ自分のカラダに自信があるんだよ、ナルシストかよ、と思っていたが。こういうケースは想定してなかった。
同じ顔の人がモテモテなんて、超レアケース過ぎるだろ。


『はい、陛下質問!』
伯裕が手を上げた。

「発言を許す。何だ?」

『一目惚れとか、一夜のアヤマチとか、あると思います!』
「この顔、何年も見てるんだろが。あと、俺は一夜のアヤマチとか浮気とか許さない派だから却下」

うっかり一度くらいは試してみてもいいかもしれない、と思ってしまったことはスルーしとこう。
遊ばれるのは御免である。


『……陛下、』

「何だ? ……え、何泣いてんの!?」
耀は滂沱ぼうだの涙を流していた。

『私を、馘首クビにしていただけませんか……?』


「ええっ!?」
俺も含め全員、目を剥いて耀を見た。


*****


『私は、別人と理解し、忠誠を誓うと言っておきながら……、おこがましくも、他の者が御身に触れるのを許せず、挙句、来世も共にと誓ったのだからこの陛下も私のもの、などという浅ましい暴言を……、』
「いや、やっぱりまだ混乱してるんだよ。頭では理解してても、恋人と同じ姿じゃ、そう思っても仕方ないんじゃないか?」

『それに、私が原因で、陛下が身罷みまかられたとあらば……自分を到底許せません』
聞いてたのか。

「親戚の咎まで被ることはないよ。というかまだ、そいつが犯人と確定したわけじゃないし。それとも、恋人と同じ顔をした俺に仕えるのが辛いなら。……しばらく、誰かに代わってもらうか?」
とりあえず、落ち着くまでは。


『いいえ、かなうのなら……御身の傍で……私が、お守りしたい……!』

思いがけず、強い視線で射られる。
この菫色の瞳に見守られるのは、嫌じゃない。

何故だろう。視線を感じると、不思議と安堵するのは。

「中身が、別人でも?」
『はい。陛下は、陛下です。これより私情を捨て、職務に徹することに執心致します』
手を合わせ、礼をした。


どういう心理状態なのか。
人の心は、テストじゃないから。明確な答えなんかなくて、わからない。

皇帝に対する忠義の心はあるんだろう。
それに、個人的な感情が入るから、ややこしくなる。

恋愛感情というのは、厄介なものなんだな。
恋などしたこともないヒキニートな俺にはよくわからないけど。


「……よし、許す。丞相には、引き続き俺の世話を頼もう」

『御意』
耀は深く、頭を下げた。

「その他大勢も、もういいから。解散!」
しっしっ、と手を振って追いやった。


『扱いが雑すぎる!』


*****


服を脱ぐのも、風呂に入るのも、いちいち使用人に囲まれてお世話をされるとは。
直接は触れられないので動きがもどかしいし、全部自分でやりたいけど。

それは、大勢いる宮仕えの使用人たちの仕事を奪うことになるらしい。
皇帝って大変だ。


耀は、まるで居ないもののように存在をスルーされてた。

皇帝の私室に皇帝の秘密の恋人である耀がいるのは、よくあることらしく。
使用人は、そこに本来いてはいけない者がいても、見なかった振りをするそうだ。

何でシカトされてんの? と耀に聞いたら教えてくれた。


しかし、お茶とかは普通に煎れてもらっていた。どういうことなんだ。
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