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一章 華胥の夢
烏頭白くして馬角を生ず
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『正確には、広陵丞相ご本人ではなく、その血縁なのですが。丞相というのは、皇帝に次ぐ、かなりの権力を持ちますので、利用しようと企む”名も知らぬ血縁”は多いかと。ま、それは我々も同じなのですがね』
宗元はシニカルな笑みを浮かべた。
『ああ、あの様子じゃ、広陵丞相、陛下の御為であれば、少しでも怪しい素振りをみせる者は身内であってもかまわず断罪しまくりそうですもんね。むしろ責任感じて自決しかねないというか……』
伯裕は宗元と顔を見合わせて、頷いている。
なるほど。それで耀の前では言えなかったんだ。
……びっくりした。
一番ありえなさそうな人が犯人とか。
そんなアガサクリスティもびっくりな展開、リアルでは見たくないっての。
*****
「広陵の一族は、元々は遊牧民だって聞いたけど……」
牧歌的で純朴な草原の民、ってイメージがあるけど。実際はギスギスしているのだろうか。
現実はかくも厳しい。
『ええ。未だに羊を放牧しながら旅をしている者もいるそうですが。丞相の血縁と名乗り、正規の試験を受けず官や皇宮に仕えてる者も多くおりまして……』
コネ入社ならぬコネ入宮? それって不正じゃないの?
優秀なら、いくら入れてもいいと思うけど。
『金銭は時に、素朴であった人をも狂わせます故』
宗元は表情を曇らせた。
御史大夫は、監察官である御史を統率する仕事だ。領地を統べる王や、官吏を調査し、不正を暴く。
つまり。
警察用語で言う、サンズイ。
「汚職?」
『ご明察です。丞相もそのことには気付かれていて、内々で証拠を掴もうと探っている最中であろう、と部下より報告が入っております』
ずい、と近寄ってきて。
『……あまりに畏れ知らず故、これは万が一の可能性で。あくまでも推測なのですが。不正を調べられ、断罪されるのを恐れた官吏が、陛下ごと丞相を亡き者にせんと寝所に火を放った……いえ、放とうと計画したものではないかと』
寝所……。つまり、皇帝と耀がエッチしてる最中、もしくは後に火を放った、ってこと? 幸せラブラブなとこを襲うの? 酷いことするなあ。
入浴中に暗殺された源頼家もびっくりだ。
いや、まだ実行されてはいないわけだけど。
*****
なるほど、そういう動機も存在したんだな。
犯人はまだ登場していなかった第三者とか、ミステリーじゃご法度なオチだけど。五角関係のもつれより、確かにそっちの方がまだ可能性が高そうだ。
『閨では、誰しも油断しますからねー。特に事後は』
伯裕がしみじみと頷いている。
「そんなもんなの? あ、でも確かに自分でした後、眠くなるかも……?」
がっ、と伯裕に手を握られた。
『これからは、陛下御身自らの手を汚されなくとも、オレが気持ち良くして差し上げますよ?』
おい、真顔で口説いてくるなよ。ムダにイケメンなんだから。
『陛下、伯裕のような口だけ小僧よりも、大人の男から、手解きを受けてみませんか?』
肩を抱かれた。宗元。
『忘れられぬ一夜になると約束しましょう』
何で耳元で囁くように言うんだよ。宗元まで。
もうやだこの雄フェロモン垂れ流し師弟。
……女性がいない世界だし、一度くらいは試してみてもいいかもしれない。
などとうっかり思ってみてしまったり。
*****
バーン、と音がして。
図書室の扉が開いた、と思ったら。
『私を追い出して、どのような内密の話があるのかと思えば……崔公に武公、陛下を口説くのはよしなさい!』
耀が、怒り心頭という様子でこちらに駆けて来る。
その形相、鬼神の如き。
『異議あり! この陛下はまだ誰のものでもないはずだ。貴公に咎められる謂れはない!』
宗元が俺を抱き締めて、頬ずりした。
おじちゃんオヒゲいたーい。
って、おい。俺はぬいぐるみか何かじゃねえんだぞ。天子だぞ。
この国の最高権力者だってのに。気安く触れすぎだろ。
『武師父ずるい! オレも陛下を抱きたい!』
伯裕は、俺を高い高いしている宗元の周りをぐるぐると回っている。
……何か、人聞きの悪い言い方をされている気がする。
『あ、僕も僕も! 陛下を抱きたいです!』
信季が扉の横から顔を出した。
いったい何を表明してるんだ、あんたら……。
宗元はシニカルな笑みを浮かべた。
『ああ、あの様子じゃ、広陵丞相、陛下の御為であれば、少しでも怪しい素振りをみせる者は身内であってもかまわず断罪しまくりそうですもんね。むしろ責任感じて自決しかねないというか……』
伯裕は宗元と顔を見合わせて、頷いている。
なるほど。それで耀の前では言えなかったんだ。
……びっくりした。
一番ありえなさそうな人が犯人とか。
そんなアガサクリスティもびっくりな展開、リアルでは見たくないっての。
*****
「広陵の一族は、元々は遊牧民だって聞いたけど……」
牧歌的で純朴な草原の民、ってイメージがあるけど。実際はギスギスしているのだろうか。
現実はかくも厳しい。
『ええ。未だに羊を放牧しながら旅をしている者もいるそうですが。丞相の血縁と名乗り、正規の試験を受けず官や皇宮に仕えてる者も多くおりまして……』
コネ入社ならぬコネ入宮? それって不正じゃないの?
優秀なら、いくら入れてもいいと思うけど。
『金銭は時に、素朴であった人をも狂わせます故』
宗元は表情を曇らせた。
御史大夫は、監察官である御史を統率する仕事だ。領地を統べる王や、官吏を調査し、不正を暴く。
つまり。
警察用語で言う、サンズイ。
「汚職?」
『ご明察です。丞相もそのことには気付かれていて、内々で証拠を掴もうと探っている最中であろう、と部下より報告が入っております』
ずい、と近寄ってきて。
『……あまりに畏れ知らず故、これは万が一の可能性で。あくまでも推測なのですが。不正を調べられ、断罪されるのを恐れた官吏が、陛下ごと丞相を亡き者にせんと寝所に火を放った……いえ、放とうと計画したものではないかと』
寝所……。つまり、皇帝と耀がエッチしてる最中、もしくは後に火を放った、ってこと? 幸せラブラブなとこを襲うの? 酷いことするなあ。
入浴中に暗殺された源頼家もびっくりだ。
いや、まだ実行されてはいないわけだけど。
*****
なるほど、そういう動機も存在したんだな。
犯人はまだ登場していなかった第三者とか、ミステリーじゃご法度なオチだけど。五角関係のもつれより、確かにそっちの方がまだ可能性が高そうだ。
『閨では、誰しも油断しますからねー。特に事後は』
伯裕がしみじみと頷いている。
「そんなもんなの? あ、でも確かに自分でした後、眠くなるかも……?」
がっ、と伯裕に手を握られた。
『これからは、陛下御身自らの手を汚されなくとも、オレが気持ち良くして差し上げますよ?』
おい、真顔で口説いてくるなよ。ムダにイケメンなんだから。
『陛下、伯裕のような口だけ小僧よりも、大人の男から、手解きを受けてみませんか?』
肩を抱かれた。宗元。
『忘れられぬ一夜になると約束しましょう』
何で耳元で囁くように言うんだよ。宗元まで。
もうやだこの雄フェロモン垂れ流し師弟。
……女性がいない世界だし、一度くらいは試してみてもいいかもしれない。
などとうっかり思ってみてしまったり。
*****
バーン、と音がして。
図書室の扉が開いた、と思ったら。
『私を追い出して、どのような内密の話があるのかと思えば……崔公に武公、陛下を口説くのはよしなさい!』
耀が、怒り心頭という様子でこちらに駆けて来る。
その形相、鬼神の如き。
『異議あり! この陛下はまだ誰のものでもないはずだ。貴公に咎められる謂れはない!』
宗元が俺を抱き締めて、頬ずりした。
おじちゃんオヒゲいたーい。
って、おい。俺はぬいぐるみか何かじゃねえんだぞ。天子だぞ。
この国の最高権力者だってのに。気安く触れすぎだろ。
『武師父ずるい! オレも陛下を抱きたい!』
伯裕は、俺を高い高いしている宗元の周りをぐるぐると回っている。
……何か、人聞きの悪い言い方をされている気がする。
『あ、僕も僕も! 陛下を抱きたいです!』
信季が扉の横から顔を出した。
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