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一章 華胥の夢
諤諤之臣
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恐らくエロい言葉なんだろうな、というのは話の流れでわかったが。
俺、エロ関係の蘊蓄は詳しくないんだよな。辞書に載ってるような言葉のほとんどは知ってるが。子供相手にそんな問題、出されないし。
放送できないような内容には興味なかったしな。
伯裕は顔を寄せてきて。
何故か俺の耳元で、ぼそぼそと教えてくれた。
耀に聞かれたくない内容なのか?
え?
……マジで?
…………うわあ。
知らなくていい知識が、またひとつ増えてしまった。
*****
ゴツン、という音がして。
『陛下に何を吹き込んでいる、伯裕』
『いてっ、……うわ、武師父!?』
御史大夫、宗元が背後に仁王立ちしていた。
いつの間に?
『話はみな、聞かせていただいた。陛下ではないだろうことはあの時に気付いていたが……まさか、そういうこととは……』
聞かれちゃってた。
記憶喪失とか、またたちの悪い冗談を言い出した、と思い。
まさか宗元まで乗るとは思ってなかっただろう陛下を驚かしてやろうと椅子ドンした時に、伯裕と同じ理由で気付いたという。
『考えてみれば、陛下があのようなそそる表情で俺を見上げるわけがなかった』
何だ、そそる表情って。
詳しく聞かないほうがいい予感がビンビンするけど。
宗元は、しかつめらしい顔をして、腕を組んでいる。
『陛下の寝所に火を放ちそうな輩については、いくつか心当たりがないでもないのですが……』
……犯人候補、知ってるのか!?
『誰だ、陛下を弑逆せんと企む奸賊の名は!?』
耀は、宗元に詰め寄った。
そんな顔、するんだ。
殺気立ってる。
さっきの伯裕よりこわい。
……当然か。
それで、想い人を失うことになったんだから。
*****
『憶測で、犯人と決め付けるは早急というもの。現在の段階ではあくまで、やらかしかねない程度の疑惑なので。法の天秤を預かる身としては、疑わしきは叩き斬る、と言わんばかりの広陵丞相には教えられませんな』
宗元は片眉を上げて。
こちらを見た。
「……?」
何だ? と思ってたら。
後ろから、伯裕に抱きつかれた。
『そうそう、落ち着いてよ。ほら~、広陵丞相がこわい顔するから、陛下がこわがって、仔鹿みたいに震えちゃってるじゃない』
よしよし、と頭を撫でられる。
誰が仔鹿だ。
震えてないし。っていうか伯裕、皇帝に気安く触りすぎじゃないか? 玉体だぞ。玉体。
あ、ムスクのようなにおいがする。
においもイケメンでムカつく。
『崔公……近寄りすぎでは?』
耀は、宗元の襟元を掴みながら、伯裕をジト目で睨んだ。
『陛下、それが鬱陶しくてお嫌でしたら、気安く触れるな、金輪際近寄るな、と一言伯裕に命じれば済む話ですよ?』
宗元はにこやかに酷いことを言った。
「え、いや、別に。そこまでは嫌じゃないし……」
何だか人懐っこい大型犬みたいだな、とは思うけど。
ベキ、と何かが壊れるような音がして。
見れば、耀が手に握っていた、宗元の襟についていた飾りが割れていた。
『うわあ、亡き叔父上から贈られたという武師父お気に入りの翡翠の飾りが!?』
本人でなく、伯裕が叫んでいる。
何だその、説明的なセリフは。
耀は顔色を変えた。
『す、すまない、武公、』
『いや。……貴公もいろいろと複雑な心境でありましょう……』
宗元は耀の肩をぽんぽんと叩いている。
『おや、破片で怪我をしておりますな。医局で手当てを受けてくればよろしいかと』
『は、はあ……、』
心配そうに、こっちを見た。
『その間、陛下の御身は我々が守ります故、ご安心を』
と、耀の肩を押して。
図書室から追い出した。
*****
扉を閉めて。
こちらに戻ってきた宗元に、質問する。
「……それで、誰が疑わしいの? 耀には聞かれたくない相手なんだよな?」
伯裕に、耀が動揺するような真似をさせて。
わざと飾りを壊させるという作戦だったんだろう。バレバレだっての。
話が早い、と宗元は口の端を上げた。
次の瞬間には、真顔になって。
『他でもない、広陵丞相です』
「はあ?」
耀が犯人候補? 嘘だろ!?
俺、エロ関係の蘊蓄は詳しくないんだよな。辞書に載ってるような言葉のほとんどは知ってるが。子供相手にそんな問題、出されないし。
放送できないような内容には興味なかったしな。
伯裕は顔を寄せてきて。
何故か俺の耳元で、ぼそぼそと教えてくれた。
耀に聞かれたくない内容なのか?
え?
……マジで?
…………うわあ。
知らなくていい知識が、またひとつ増えてしまった。
*****
ゴツン、という音がして。
『陛下に何を吹き込んでいる、伯裕』
『いてっ、……うわ、武師父!?』
御史大夫、宗元が背後に仁王立ちしていた。
いつの間に?
『話はみな、聞かせていただいた。陛下ではないだろうことはあの時に気付いていたが……まさか、そういうこととは……』
聞かれちゃってた。
記憶喪失とか、またたちの悪い冗談を言い出した、と思い。
まさか宗元まで乗るとは思ってなかっただろう陛下を驚かしてやろうと椅子ドンした時に、伯裕と同じ理由で気付いたという。
『考えてみれば、陛下があのようなそそる表情で俺を見上げるわけがなかった』
何だ、そそる表情って。
詳しく聞かないほうがいい予感がビンビンするけど。
宗元は、しかつめらしい顔をして、腕を組んでいる。
『陛下の寝所に火を放ちそうな輩については、いくつか心当たりがないでもないのですが……』
……犯人候補、知ってるのか!?
『誰だ、陛下を弑逆せんと企む奸賊の名は!?』
耀は、宗元に詰め寄った。
そんな顔、するんだ。
殺気立ってる。
さっきの伯裕よりこわい。
……当然か。
それで、想い人を失うことになったんだから。
*****
『憶測で、犯人と決め付けるは早急というもの。現在の段階ではあくまで、やらかしかねない程度の疑惑なので。法の天秤を預かる身としては、疑わしきは叩き斬る、と言わんばかりの広陵丞相には教えられませんな』
宗元は片眉を上げて。
こちらを見た。
「……?」
何だ? と思ってたら。
後ろから、伯裕に抱きつかれた。
『そうそう、落ち着いてよ。ほら~、広陵丞相がこわい顔するから、陛下がこわがって、仔鹿みたいに震えちゃってるじゃない』
よしよし、と頭を撫でられる。
誰が仔鹿だ。
震えてないし。っていうか伯裕、皇帝に気安く触りすぎじゃないか? 玉体だぞ。玉体。
あ、ムスクのようなにおいがする。
においもイケメンでムカつく。
『崔公……近寄りすぎでは?』
耀は、宗元の襟元を掴みながら、伯裕をジト目で睨んだ。
『陛下、それが鬱陶しくてお嫌でしたら、気安く触れるな、金輪際近寄るな、と一言伯裕に命じれば済む話ですよ?』
宗元はにこやかに酷いことを言った。
「え、いや、別に。そこまでは嫌じゃないし……」
何だか人懐っこい大型犬みたいだな、とは思うけど。
ベキ、と何かが壊れるような音がして。
見れば、耀が手に握っていた、宗元の襟についていた飾りが割れていた。
『うわあ、亡き叔父上から贈られたという武師父お気に入りの翡翠の飾りが!?』
本人でなく、伯裕が叫んでいる。
何だその、説明的なセリフは。
耀は顔色を変えた。
『す、すまない、武公、』
『いや。……貴公もいろいろと複雑な心境でありましょう……』
宗元は耀の肩をぽんぽんと叩いている。
『おや、破片で怪我をしておりますな。医局で手当てを受けてくればよろしいかと』
『は、はあ……、』
心配そうに、こっちを見た。
『その間、陛下の御身は我々が守ります故、ご安心を』
と、耀の肩を押して。
図書室から追い出した。
*****
扉を閉めて。
こちらに戻ってきた宗元に、質問する。
「……それで、誰が疑わしいの? 耀には聞かれたくない相手なんだよな?」
伯裕に、耀が動揺するような真似をさせて。
わざと飾りを壊させるという作戦だったんだろう。バレバレだっての。
話が早い、と宗元は口の端を上げた。
次の瞬間には、真顔になって。
『他でもない、広陵丞相です』
「はあ?」
耀が犯人候補? 嘘だろ!?
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