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一章 華胥の夢

独り異郷に在って異客となる

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『武師父も、たぶん同じだと思う。火を放つとかありえない。むしろ、武師父はそういうの捕まえるのが生甲斐っていうか、天職なんだよ?』

火を放つなんて、ありえない。
そこはみんな、同意見か。

恋愛のもつれで放火、の線はこれで完全に消えたが。


「余計な嘘を吐くのが悪い。こちらには情報が全く無い状態だったんだからな」
『オレ達のことまるっきり知らないなら、そりゃ疑われるのはしょうがないけど。悲しいなあ。一番に打ち明けたのが広陵丞相ってのもさあ』
がっくりして、座り込んでいる。


『……そっか。オレが知ってる陛下はもう、いないんだ……』
伯裕の呟きに。

耀も、痛ましげな顔をしている。


*****


『あ、陛下のものなの?』
ばっと顔を上げたと思ったら。

「へ?」


耀は首を傾げた。
『李公はDNAや虹彩、指紋、声紋は陛下と同じだと言っていたが』

『え、李君にも話してたの? オレが後? 三番目? ひっでえ! 皇帝直属の忠臣である三公の一人、太尉だよ!?』
泣きついてくるな。

「ひゃ、ちょ、」

どこ触ってるんだ。
ぺたぺたと、身体を確かめるように触られる。


伯裕は、俺の服の袖から腕を出させて。
『広陵丞相はまだ何にもしてなかったんだ。だから気付かなかったんだな? ほら、筋肉のつき方が、全然違うだろ?』

腕を掴んだ時に、気付いたらしい。
何年も外に出てないから、真っ白で細い腕を、二人はじっと見ている。

『確かに……細い』

貧弱で悪かったな。
そりゃ数年引きこもってたニートと、暗殺対策で修行してたっていう皇帝じゃ、違うに決まってるだろ。
髪は、切るのが面倒で伸ばして縛ってたから。元々結い上げるのに問題ないくらい長かった。


身体は俺のものってことは。魂だけじゃなく、身体ごと、こっちに持ってきてたのか? 
で、朱亮皇帝の焼死ボディがあっちに行ったとか?

……あんまり考えたくないな。


しかし。
「まだも何も。俺は男と何かをするつもりはないんだが」


二人から、不思議そうな顔をされたが。
伯裕が納得したように手を打った。

『あ、そっか。違う世界から来たんだっけ。……ここ、男以外、選択肢はないよ?』


*****


「はあ?」
何で、男以外選択肢が無いんだ?

『ああ、まだ未読なんだ? えーっと。確かこの本の、この辺りだよ、』
机の上の歴史書を開いて、示される。


だんだん女性が生まれる数が減っていって。もう千年近く前に、最後の女性が亡くなって。
この世から、人間の女性が消えたという。
クローンや人工子宮から子を作る技術は確立していたので、人類滅亡の危機からは脱したものの。どうしても、出来るのは男だけだった。
原因は、不明。遺伝子を弄っても駄目で、育ったら男になってしまうって。

ナニソレ呪われてるの?


なるほど。
世界が違ってるのは、それもあったのか。

夏の最後の帝や、紂王。傾国など。クレオパトラ、アントワネット、ジャンヌダルクもそうだ。
歴史の陰には女あり。女性がいなければ、かなり歴史も変わってくる。


俺の知る世界より人口がかなり減っていて、人の手の入ってない地が多かったのは、子を作る技術がないような地域は、滅びるしかないからだろう。

どれだけの人種が滅びたんだ?
むしろそんな状況でよく残ったな。日本っぽい国。


元の世界では、避妊を禁止する宗教や、貧しい地域では働き手として、子をたくさん産んでいたが。こちらでは逆に、金を持ってないと子供は作れない。
一応、大きな国が、少数部族の血が途絶えないよう、補助活動をしているようだが。

この劫の皇宮に、後宮……后や妾を住ませる宮は存在しない。かつて女性が居た頃は、あったそうだが。
ただし、宦官の一部や、男の相手をする専門の人は存在する。下の町には、そういった歓楽街みたいな場所もあるらしい。
皇帝には耀がいたので、必要なかったが。


のお世話、どうする? 年頃の男なんだから、必要でしょ。後宮開けて、綺麗どころ呼んでおく?』

俺は慌てて首を横に振った。
人にどうにかしてもらおう、という考え自体がない。

『そっか。どうにかしたくなったら、いつでも呼んでね。オレ、上手いよ? 初心者でも中イキさせてあげられるし』
伯裕に、手を握られた。

『な、崔公、何を、』
耀は何故だかおろおろしている。


「ナカイキ、って?」
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