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一章 華胥の夢
少年老い易く学成り難し
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スペインやイギリスが海の覇権を握らなかった世界線か。
そして、キリスト教がそれほど力を持ってない世界。宣教師がいないなら歴史はだいぶ変わるぞ? 産業革命はどうなってるんだ? フランス革命は?
第一次世界大戦どころか、阿片戦争も起きてない。無敵艦隊も無いのか。
東西ドイツにベルリンの壁は?
シルクロードは存在するようで、そちらの文化や人は劫国にも流れてきていた。
”露州”や”羅国”との国境は、長大な城壁で仕切られている。
全長、約50000km。 おお、万里の長城じゃないか!
中国では、”城”という言葉は”CASTLE”ではなく壁や防御施設の”WALL”を意味するんだよな。紫禁城とかも、本当は宮だ。
約2600年前の建造物が、こちらの世界では今も崩れないで綺麗に残ってるそうだ。見たいなあ。
歩くのは絶対嫌だが。
テレビとかないのかテレビ。
それよりパソコンくれよ。検索エンジンは何だろう。
ジョブスは生まれてるのか? そもそもエジソン! ノーベルは! アインシュタインは!?
*****
『楽しそうですね……』
図書室の長椅子で横になっていた耀から、あきれたような声が。
「俺の勉強中は寝てていいよ?」
これから夜中、寝ずの番をするわけだし。
睡眠不足はお肌の敵……じゃなかった、注意力を散漫にしてしまう。
徹夜より、短くとも仮眠したほうが効率的だ。
『では、こちらを肌身離さずお持ちください』
懐剣を渡された。
宝石で飾られた、綺麗な刀。
『これは、猛獣や盗賊など、主に害を為すものが近づくと、刀が音を発し持ち主に警告するという宝剣です』
「へえ、楊 貴妃の父親、玄琰が持っていたという刀の逸話みたいだ」
耀は目を丸くした。
『よくご存知で……。そのような謂れのものです。くいず王というのは、賢者なのでしょうか』
え、本物なの!?
楊貴妃はいたのか……。
伝説が本当だったり、正史が偽書だったり。ややこしい世界だな。
面白いけど。
『陛下、こちらにいらっしゃいましたか』
呪師の信季が来た。
机の上の、歴史書の山を見て。
『ははあ、記憶を喪われたので歴史のおさらいをされているのですか。それは結構なことです。脳を刺激します。しかし休憩を取り、脳を休ませるのも勉強のうちですよ』
と、黒い筒状のモノを出した。
魔法瓶みたいだ。
それと、おやつの月餅。
『こちらの薬湯を試してみませんか? 何か思い出されるかも』
筒の中のモノは、イチョウ茶だった。
「苦い……」
でもまあ、飲めなくはないかな。メグスリノキのお茶よりはマシか。
センブリは思ったより苦くなくて、がっかりしたっけ。
『以前の陛下は、このにおいだけで敬遠されてました』
そんなもん、飲ますな。
月餅で口直しする。中は白餡だ。
『李公。陛下にあまり以前の記憶を思い出すよう無理強いをしないでくれないだろうか』
嗜める耀を、信季は睨んだ。
『あれ? 陛下の記憶がお戻りになられたら、何か困ることでもあるんですか?』
『……陛下。李公はこう見えて謀には向かないお方です。事情を話されてもよいかと……』
耀がそう言うなら構わない、と頷いて。
信季にも、事情を話した。
*****
『何と。やはり中身は別人でしたか』
DNAや虹彩、指紋に声紋は一致するのに。
纏う”気”が全く違うので、おかしいとは思ってた、という。
さすがは呪師。というか主治医である。
疑われてたのは俺か……。
信季はぐっと拳を握った。
『では、僕にもまだ挑戦権が……!?』
何の挑戦権だ。
『僕も、あまり恋敵を褒めたくは無いんですが。崔太尉も武大夫も、敬愛する陛下の寝所に火を放つような卑劣な真似をする人物ではないと思いますよ?』
やるなら正面から来るタイプだという。
確かにそれっぽい。
「そうか……でも、あの思わせぶりな最期の言葉が気に掛かるんだよな……」
裏切りを知った、みたいな。
『案外、その件とは関係がないのかもしれませんね。……うわ、苦っ。よくこんなの飲みましたね?』
信季は自分で煎れたお茶を飲んで、顔をしかめた。
「イチョウ茶はボケや記憶力の低下にいいんだっけ。それと血行促進、糖尿病の予防にいいんだよな。それに、苦さで目が覚めたし。ちょうど良かった」
『はあ、よくご存知で……』
信季は目を瞬かせた。
そして、キリスト教がそれほど力を持ってない世界。宣教師がいないなら歴史はだいぶ変わるぞ? 産業革命はどうなってるんだ? フランス革命は?
第一次世界大戦どころか、阿片戦争も起きてない。無敵艦隊も無いのか。
東西ドイツにベルリンの壁は?
シルクロードは存在するようで、そちらの文化や人は劫国にも流れてきていた。
”露州”や”羅国”との国境は、長大な城壁で仕切られている。
全長、約50000km。 おお、万里の長城じゃないか!
中国では、”城”という言葉は”CASTLE”ではなく壁や防御施設の”WALL”を意味するんだよな。紫禁城とかも、本当は宮だ。
約2600年前の建造物が、こちらの世界では今も崩れないで綺麗に残ってるそうだ。見たいなあ。
歩くのは絶対嫌だが。
テレビとかないのかテレビ。
それよりパソコンくれよ。検索エンジンは何だろう。
ジョブスは生まれてるのか? そもそもエジソン! ノーベルは! アインシュタインは!?
*****
『楽しそうですね……』
図書室の長椅子で横になっていた耀から、あきれたような声が。
「俺の勉強中は寝てていいよ?」
これから夜中、寝ずの番をするわけだし。
睡眠不足はお肌の敵……じゃなかった、注意力を散漫にしてしまう。
徹夜より、短くとも仮眠したほうが効率的だ。
『では、こちらを肌身離さずお持ちください』
懐剣を渡された。
宝石で飾られた、綺麗な刀。
『これは、猛獣や盗賊など、主に害を為すものが近づくと、刀が音を発し持ち主に警告するという宝剣です』
「へえ、楊 貴妃の父親、玄琰が持っていたという刀の逸話みたいだ」
耀は目を丸くした。
『よくご存知で……。そのような謂れのものです。くいず王というのは、賢者なのでしょうか』
え、本物なの!?
楊貴妃はいたのか……。
伝説が本当だったり、正史が偽書だったり。ややこしい世界だな。
面白いけど。
『陛下、こちらにいらっしゃいましたか』
呪師の信季が来た。
机の上の、歴史書の山を見て。
『ははあ、記憶を喪われたので歴史のおさらいをされているのですか。それは結構なことです。脳を刺激します。しかし休憩を取り、脳を休ませるのも勉強のうちですよ』
と、黒い筒状のモノを出した。
魔法瓶みたいだ。
それと、おやつの月餅。
『こちらの薬湯を試してみませんか? 何か思い出されるかも』
筒の中のモノは、イチョウ茶だった。
「苦い……」
でもまあ、飲めなくはないかな。メグスリノキのお茶よりはマシか。
センブリは思ったより苦くなくて、がっかりしたっけ。
『以前の陛下は、このにおいだけで敬遠されてました』
そんなもん、飲ますな。
月餅で口直しする。中は白餡だ。
『李公。陛下にあまり以前の記憶を思い出すよう無理強いをしないでくれないだろうか』
嗜める耀を、信季は睨んだ。
『あれ? 陛下の記憶がお戻りになられたら、何か困ることでもあるんですか?』
『……陛下。李公はこう見えて謀には向かないお方です。事情を話されてもよいかと……』
耀がそう言うなら構わない、と頷いて。
信季にも、事情を話した。
*****
『何と。やはり中身は別人でしたか』
DNAや虹彩、指紋に声紋は一致するのに。
纏う”気”が全く違うので、おかしいとは思ってた、という。
さすがは呪師。というか主治医である。
疑われてたのは俺か……。
信季はぐっと拳を握った。
『では、僕にもまだ挑戦権が……!?』
何の挑戦権だ。
『僕も、あまり恋敵を褒めたくは無いんですが。崔太尉も武大夫も、敬愛する陛下の寝所に火を放つような卑劣な真似をする人物ではないと思いますよ?』
やるなら正面から来るタイプだという。
確かにそれっぽい。
「そうか……でも、あの思わせぶりな最期の言葉が気に掛かるんだよな……」
裏切りを知った、みたいな。
『案外、その件とは関係がないのかもしれませんね。……うわ、苦っ。よくこんなの飲みましたね?』
信季は自分で煎れたお茶を飲んで、顔をしかめた。
「イチョウ茶はボケや記憶力の低下にいいんだっけ。それと血行促進、糖尿病の予防にいいんだよな。それに、苦さで目が覚めたし。ちょうど良かった」
『はあ、よくご存知で……』
信季は目を瞬かせた。
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